この記事は2025年10月16日に配信されたメールマガジン「アンダースロー:国民を疲弊させる財政健全化優先の経済グランドデザインは否定されました」を一部編集し、転載したものです。

アンダースロー
(画像=years/stock.adobe.com)
  • これまでの財政再建優先の経済グランドデザインは、財政収支が黒字でなければならないという古いミクロの考え方で、ネットの資金需要が消滅し、家計に所得が回らず、国民が疲弊するという問題があるものでした。高市政権では、経済規模を持続的に拡大し、家計に所得を強く回すために、企業と政府の支出力であるネットの資金需要を十分なマイナスに誘導するような財政運営の新しいマクロの考え方で、経済のグランドデザインは一変します。

  • 高市氏は、マクロの新しい経済グランドデザインと整合的な財政の健全化の目安として、リアルタイムでトラックが可能な資金循環統計ベースの政府の純債務残高GDP比を挙げています。純債務残高GDP比は133%のピークから、2025年4-6月期には85%まで既に大きく改善し、国債格付けとの過去のトレンドをみれば、2ノッチほどの格上げ相当の改善となっています。数年後には、国債格付けがAAAだったころと同水準である50%程度まで改善していくとみられます。

  • 自民党は日本維新の会と連立に向けた政策協議に入りました。維新の会が主張する「副首都構想」は、高市氏の総裁選での公約である「首都機能のバックアップ体制構築」と整合的です。社会保険料の引き下げも、マイナス成長の過度に悲観的な将来シナリオに基づく料率を、しっかりとしたプラスの経済成長のシナリオに修正することで、実現可能となります。

  • 自民党と維新の会は基本政策で一致する領域が広く、大阪を中心とする選挙区調整も困難ではなく、連立が実現する可能性は高いと考えます。野党が連合できる可能性は低下したため、来週の臨時国会で高市政権が誕生するとみられます。保守派・積極財政の方針の政権運営で、新たな経済のグランドデザインを実現していくことになります。

  • 自民党と維新の会だけでは、衆参で議席が過半数に届きません。国民民主党との連携を模索する動きは続くでしょう。国民民主党などが主張する減税政策を、高市政権が丸のみして、国民民主党とも連携して政権を安定化させることは現実的です。


8月の政府の中長期の経済財政に関する試算では、成長移行ケース(実質1.5%)でも、2030年代前半の家計の貯蓄率は+2.0%程度となり、家計のファンダメンタルズが改善しない結果となっています。国際経常収支は黒字を維持する見通しで、国内の資金は余剰で、高齢化が原因ではありません。財政収支が+1.5%程度の黒字になっていて、ネットの資金需要が消滅し、財政政策は経済のファンダメンタルズ対比で緊縮となり、国民からの搾取が継続してしまうことが原因です。

財務省が主導したこれまでの財政再建優先の経済グランドデザインは、財政収支が黒字でなければならないという古いミクロの考え方で、ネットの資金需要が消滅し、家計に所得が回らず、国民が疲弊するという問題があるものでした。報道によれば、既存の経済グランドデザインの死守のため、小泉氏への政策レクチャーに財務官僚が加わり、財務省関係者が新たな連立を想定する折衝をするなどしていたことが明らかになっています。自民党の総裁選では、党員票の圧倒的な支持を積極財政派の高市氏が受けて勝利し、これまでの財政再建優先の経済グランドデザインは否定されました。

高市政権では、経済規模を持続的に拡大し、家計に所得を強く回すために、企業と政府の支出力であるネットの資金需要を十分なマイナスに誘導するような財政運営の新しいマクロの考え方で、経済のグランドデザインは一変します。高市政権では、財政再建優先の経済グランドデザインに向けて政治的な動きをする財務省から、政権の方針を粛々と実行する普通の財務省に変化を求められるとみられます。

自民党は日本維新の会と連立に向けた政策協議に入りました。維新の会が主張する「副首都構想」は、高市氏の総裁選での公約である「首都機能のバックアップ体制構築」と整合的です。社会保険料の引き下げも、マイナス成長の過度に悲観的な将来シナリオに基づく料率を、しっかりとしたプラスの経済成長のシナリオに修正することで、実現可能となります。自民党と維新の会は基本政策で一致する領域が広く、大阪を中心とする選挙区調整も困難ではなく、連立が実現する可能性は高いと考えます。野党が連合できる可能性は低下したため、来週の臨時国会で高市政権が誕生するとみられます。保守派・積極財政の方針の政権運営で、新たな経済のグランドデザインを実現していくことになります。

自民党と維新の会だけでは、衆参で議席が過半数に届きません。国民民主党との連携を模索する動きは続くでしょう。国民民主党などが主張する減税政策を、高市政権が丸のみして、国民民主党とも連携して政権を安定化させることは現実的です。高市氏の自民党総裁としての任期は、石破総裁の残りの2年間です。国民民主党とも連立ができれば、2年の間に、経済政策の転換の効果を国民が十分に実感した段階で、焦らずに衆議院を解散し、政権は総選挙に勝利することで政治的求心力を高めるとみられます。そうでなければ、来年の通常国会末に衆議院が解散され、自民党と維新の会で過半数の議席の確保を目指すとみられます。自民党がどの政党とも連立・連携が進まなかった場合、年末までに解散総選挙が行われるリスクが生まれます。

国民民主党が主張する所得税の非課税枠の178万円への引き上げの直接的な税収減の7.5兆円(政府の粗い試算)から、名目GDPとネットの資金需要が同額拡大(国民所得の増加)するマクロの増収を引くと、税収は3兆円程度しか減少しません。103万円の壁の引き上げによって、労働供給が増加するため、経済の同額拡大の前提は合理的です。憲法の健康的で文化的な最低限の生活を営む国民の権利を保障するため、所得税の基礎控除を大幅に引き上げること(2024年度の定額減税と同規模)は、財政再建の動きを妨げることなくできます。更に、参政党が段階的に撤廃すると主張する消費税の税収減もわずか4兆円程度で、財政再建の動きを妨げない現実的な政策の選択肢です。

減税には増税が必要である(単年度の税収中立のガラパゴス・ルール)として障害となってきた自民党の税制調査会の宮沢会長は退任します。財政再建優先の経済グランドデザインの牙城であった税制調査会は、税制に対する強力な権限を持つ既得権益の異常な組織ではなくなり、政務調査会の下にある普通の一組織という正常な状態に戻るとみられます。これまでインナーの非公式会議で税制が決められてしまうのは、議会制民主主義として疑問がありました。2026年の骨太の方針では、官民連携の成長投資の更なる拡大と、供給能力の拡大にそった需要の拡大を可能にするため、成長投資まで税収でまかなう必要があるなどの欠陥がある既存のプライマリーバランスの黒字化目標に代わる、新たな財政規律のあり方を議論されるでしょう。

高市氏は、経済規模の持続的な拡大と家計に所得を回すことにコミットするマクロの新しい経済グランドデザインと整合的な財政の健全化の目安として、リアルタイムでトラックが可能な資金循環統計ベースの政府の純債務残高GDP比を挙げています。純債務残高GDP比は133%のピークから、2025年4-6月期には85%まで既に大きく改善し、国債格付けとの過去のトレンドをみれば、2ノッチほどの格上げ相当の改善となっています。数年後には、国債格付けがAAAだったころと同水準である50%程度まで改善していくとみられます。

図1:国民から搾取する形が継続してしまうため、所得税の減税は必要です

図1:国民から搾取する形が継続してしまうため、所得税の減税は必要です
(出所:財務省、内閣府、日銀、クレディ・アグリコル証券)

図2:資金循環統計ベースの政府の純債務残高GDP比

図2:資金循環統計ベースの政府の純債務残高GDP比
(出所:日銀、内閣府、クレディ・アグリコル証券)

税収(前年比%)=2.51+2.90 名目GDP(前年比%)-1.72 ネットの国内資金需要(%GDP)-0.54 消費税率(%) + 6.54 アップダミー(04・05・07・14・17・18・20年度)-5.69 ダウンダミー(02・08・23年度);R2=0.94 (アップ・ダウンダミー修正前R2=0.71)


会田 卓司
クレディ・アグリコル証券 東京支店 チーフエコノミスト
松本 賢
クレディ・アグリコル証券 マクロストラテジスト

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