この記事は2025年10月3日に配信されたメールマガジン「アンダースロー:総裁選と与野党協議の減税はどうなる?」を一部編集し、転載したものです。

- 「給付付き税額控除」の効果についてはどうご覧になっていますか?
- 「物価高対策としては消費減税は効果が出ない」との指摘についてはどうご覧になっていますか?
- 暫定税率廃止に伴う財源についてはどのようにお考えですか?
- 所得税減税の効果と財源についてはどのようにお考えですか?
- 各候補者の政策で経済的にはどのような変化がありそうですか?党員票の一位が当選する自民党の解党的出直しの形にはなるでしょうか?
以下は会田がコメンテーターとして出演している文化放送の「おはよう寺ちゃん」の内容の一部をまとめ、加筆・修正したものです。
「給付付き税額控除」の効果についてはどうご覧になっていますか?
問(寺島):あす投開票の自民総裁選。終盤情勢では、国会議員票は小泉・農水大臣がリードを保ち、高市・前経済安全保障担当大臣、林・官房長官が追う展開となっています。一方、高市氏が党員票で大きな支持を得ることで議員票が動き、小泉氏を逆転する可能性もみられています。
その総裁選は物価高対策で野党の主張を取り込む候補が目立ちます。そんな中、立憲民主党のプロジェクトチームがまとめた「給付付き税額控除」制度の原案が判明しました。全国民に一律で現金給付した後、所得に応じて給付金に課税することが柱とされています。給付金は1人あたり4万円とする案が浮上していて、与党との政策協議を経て、詳細な制度設計を進めたい考えのようです。「給付付き税額控除」の効果についてはどうご覧になっていますか?
答(会田):家計は困窮しています。貯蓄率は最低水準まで落ちてしまい、多くの世帯が将来に向けた貯蓄が出来ない状態に陥っています。一回きりの給付金では、家計の困窮を救えません。「給付付き税額控除」で低所得層を、所得税の基礎控除の引き上げで中間層を、支援することになるとみられます。与野党に意見の違いは大きくなく、実現に向けて動きだすとみられます。しかし、自公政権は財源論に終始していますので、規模を巡る論争は続きそうです。
「物価高対策としては消費減税は効果が出ない」との指摘についてはどうご覧になっていますか?
問(寺島):給付付き税額控除についてはカナダやイギリスなどで低所得者や子育て世帯への支援策として導入例があります。自民・公明、立民の3党もまず海外の事例について意見交換する方針です。自民の新総裁候補の高市氏はこの制度の導入を訴えるほか、小泉氏と林氏は「石破路線」を継承する構えを見せているため、立民内では実現への期待が高まっています。ただ、制度の議論が進めば「消費税減税が棚上げになる」との見方があります。実質賃金が7か月連続でマイナスとなっているわけですが、茂木・前幹事長が「物価高対策としては消費減税は効果が出ない」と指摘したことについてはどうご覧になっていますか?
答(会田):自公政権は、給付か減税かという対立軸を自ら作り出して、参議院選挙で惨敗しました。国民は、給付も減税も必要なほど困窮しているからです。また、減税か賃上げかという対立軸を自ら作り出そうとしています。国が行う減税と、民間が行う賃金は、対立軸にはなりません。国民は、賃上げも、手取りを増やす減税も求めています。新政権は、国民に不評なこれらの対立軸をすぐに降ろす必要に迫られるとみられます。総裁選では、消費減税の議論は低調ですが、野党との連携・連立を目指していく中で、野党が主張する減税の議論を自公政権が取り入れていくことになるとみられます。無用な対立軸を持たない高市氏が、党員投票の最多得票の流れで、議員票を上積みし、勝利する可能性は十分あるとみられます。
暫定税率廃止に伴う財源についてはどのようにお考えですか?
問(寺島):一方、与野党の6党が協議を重ねているガソリン税の旧暫定税率の廃止は、年内の実施で合意しています。自民総裁選の5候補は、いずれも暫定税率の早期廃止に意欲を示していて、秋の臨時国会で与野党合意を目指す構えです。暫定税率は、過去に道路整備のための財源不足を理由に導入され、2009年に一般財源化した後も上乗せが続いています。上乗せ分は1リットルあたり25.1円で、軽油は17.1円となっています。ガソリン税の上乗せ分の廃止だけなら、必要な財源は今年度予算をベースに考えるとおよそ1兆円となります。多くは国の収入になり、一部は地方自治体に回るとされています。高市氏が主張するように軽油についても廃止すると、追加で5千億円ほど必要になるようです。暫定税率廃止をめぐっては地方自治体の財政基盤を揺るがしかねないと懸念の声があがっているわけですが、財源についてはどうすべきだと思われますか?
答(会田):暫定税率は、暫定であるので、そもそも財源は要りません。予算による裁量的な支出や減税に財源を紐づけることは、グローバルな標準的な財政運営ではしません。財源を紐づけられることがあるのは、法律で支出が義務付けられている社会保障などの義務的支出のみです。日本では、かつての民主党政権時に、すべての恒久的な歳出増加と減税に、恒久的な財源を求めるという財源確保ルールを決めてしまいました。そこから、政策を発動しようとすると、すぐに財源が必要という議論になり、実行できなくなる悪い形を生み出してしまいました。新政権がこの悪い形を打破できるかが、国民の声を聴くために必要で、持続性を左右すると考えます。
所得税減税の効果と財源についてはどのようにお考えですか?
問(寺島):総裁選では、所得税の減税案も注目されています。4氏が所得税の控除引き上げに前向きな姿勢を示しており、高市氏は、年収が一定水準を超えると所得税が発生する「年収の壁」をめぐって、「引き上げに賛成」と明言しました。国民民主党が手取り増を打ち出し、去年の衆院選や7月の参院選で支持を伸ばしました。今年度の税制改正でも見直しを訴え、与党との協議を経て、103万円から最大160万円に動きました。国民民主は、さらに所得制限なく178万円まで動かすよう求めています。その効果と財源問題についてはどうみていますか?
答(会田):裁量的減税ですから、そもそも財源は要りません。財源を議論すること自体、グローバルな標準的な財政運営では、意味のないことです。基準は景気を過熱させるかどうかですが、国民が困窮して、内需は弱々しい状況です。自公政権は、衆参両院で過半数の議席がありません。政権を安定させるためには、野党の経済政策をほぼ丸のみする必要があります。高市政権となれば、積極財政と、できるだけ景気を良くする高圧経済の経済方針となるでしょうから、丸のみできる包容力があり、減税によって国民の生活を向上させ、政権が安定する道が開けます。一方、小泉政権や林政権であれば、財源確保ルールに縛られ続け、包容力はなく、野党との関係が悪化して、政権が安定しないリスクがあります。
各候補者の政策で経済的にはどのような変化がありそうですか?
問(寺島):総裁選の党員票をめぐっては、アンケート調査で高市氏と小泉氏がほぼ互角の支持を集めています。高市氏が勝てば、積極財政で市場を活性化させる一方、小泉氏なら財政健全化を優先して安定志向の政策を進める形になるとみられています。となると、経済的にはどのような変化がありそうですか?
答(会田):高市政権となれば、積極財政と景気をできるだけよくする高圧経済の方針となります。現政権の方針から大きく転換します。政府の経済政策の方針と整合的な金融政策を日銀法で求められている日銀には、緩和的な金融政策の継続を要求するとみられます。日本経済が、この30年の構造的デフレ不況を完全に脱し、成長型経済を実現する期待で、株高も期待されます。日銀の利上げが遅れることは円安要因ですが、米国の中央銀行FRBの利下げと、日本経済の再生の期待がありますから、大きな動きにはならないとみられます。小泉政権となれば、日銀の利上げには追い風が吹きます。新自由主義的政策を部分的に修正する新しい資本主義を、岸田・石破政権から継承します。ベースは構造改革を求める新自由主義ですから、経済の新陳代謝を重視し、ゾンビ企業の退出を促す利上げを後押しします。トランプ関税下の円高で、企業の収益が圧迫され、株式市場には下落圧力となるリスクがあります。岸田・石破政権の経済政策は、衆参の国政選挙で、国民から否定されています。その方針の継承は、政権の持続性を危うくすることも逆風です。
党員投票が一位の候補が、議員の支持を受けて当選する形にならなければ、自民党の解党的出直しとはならないだろう。国民の支持は戻らないだろう。態度を明らかにしていない議員はかなり多く、党員投票が一位の候補に投票する方針なのだろう。無記名投票であるため、支持を表明している議員も、一位の議員に投票を変えることは容易だ。前回は党員票の結果を議員票でひっくり返し、国民の支持を失い、衆参両院の選挙での大敗につながった。解党的出直しとしての政策転換を望んでいる党員は高市氏を支持し、党員票で一位をとるとみられる。
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