能美防災は総合防災メーカートップの地位を築き、業歴は100年を超える。自動火災報知機や消火設備を国産化したパイオニアでもある。その長い歴史を持つ同社だが、意外にもM&Aへの本格的な取り組みが始動したのはここ数年のことだ。

気象・宇宙観測機器の明星電気を買収へ

能美防災は8月初め、IHI傘下で気象や宇宙関連の観測機器などを製造する明星電気(群馬県伊勢崎市)の全株式を取得し、子会社化すると発表した。

明星電気は元々、東証2部の上場企業。2012年に資本業務提携によりIHIグループ入り。その後、2021年にIHIによる完全子会社化に伴い、上場を廃止した経緯がある。2025年3月期業績は売上高79億9000万円、最終利益4億3100万円。

能美防災として防災設備の設置工事や保守管理を手がける会社の買収実績はあったが、メーカーを傘下に収めるのは今回が初めて。しかも、金額非公表ながら買収規模はこれまでで最も大きい。同社の今後を占ううえで試金石ともいえるM&A案件なのだ。買収完了は2026年2月を見込む。

災害全般に事業領域を拡大

能美防災は中長期ビジョンとして、「総合防災メーカーとして災害全般へ事業領域拡大」を掲げている。創業以来、主戦場としてきた火災にとどまらず、自然災害の激甚化・頻発化を踏まえ、新たな防災領域への展開を進めるもので、今回の買収はその流れの中にある。

能美防災は火災報知設備、スプリンクラーに代表されるように屋内を中心とする防災領域をカバーする。これに対し、明星電気は気象計、地震計、人工衛星に搭載される観測機など屋外での防災領域を担う。異なる領域で培った両社の技術・サービスやノウハウを組み合わせることで、真の総合防災企業グループを目指すとしている。

明星電気は1938年に設立し、業歴は90年近い。2020年に地球に帰還した小惑星探査機「はやぶさ2」では同社製の近赤外分光や分離カメラが搭載されるなど、技術力に定評がある。

2022年を境にM&Aにアクセル

能美防災の2025年3月期業績は売上高12.8%増の1336億円、営業利益34.4%増の156億円と、二ケタの増収増益となった。

売上高は2期連続で過去最高、本業のもうけを表す営業利益は5期ぶりの過去最高をそれぞれ更新。堅調な市場環境に加え、原材料価格が上昇する中で計画的な価格改定や業務効率化の取り組みなどが奏功し、大幅な利益改善につながった。

M&A Online

(画像=「M&A Online」より引用)

能美防災は1916(大正5)年、創業者の能美輝一氏が大阪で能美商会を創立したことに始まる。1924年に国内で初めて自動火災報知装置や防盗装置などの製造に乗り出した。

経営上の一大エポックが訪れたのは2006年。警備最大手のセコムが能美防災の増資を引き受けて同社を子会社とした。セコムの持ち株比率は現在約52%で、親子上場の関係にある。

能美防災自身は2022年を境にM&Aにアクセルを踏み込んだ。同年、7カ年の中長期経営目標「ビジョン2028」(2023年3月期~29年3月期)を策定し、その施策の一つとして「積極的なM&A」を打ち出した。同社が取り組んだM&Aは2010年代のわずかに2件にとどまっていた。