本記事は、トリ・ダンラップ氏の著書『何があっても生き抜く わたしのお金の教科書』(かんき出版)の中から一部を抜粋・編集しています。
現実から逃げないことから始める
難しい話は抜きにして、ダチョウに関するうんちくを披露したい。
ダチョウには胃袋が3つあるって、あなたは知っていただろうか(ちなみに私にも胃袋が3つあって、すべてフライドチキンで満たされている)? ダチョウは二足歩行のどの動物よりも速く走れるって、知っていただろうか? そして他の鳥とは違い(心の準備はいいかな)、ダチョウはおしっこ用とうんち用に別々の穴がある。
なぜダチョウの話や、ダチョウがおしっこする穴の話をしているかって? いい質問だ。
人には、ネガティブだと思う情報に出合いそうな状況を避ける認知バイアスが存在する。パーソナルファイナンスの専門家はこれを、「オーストリッチ効果」(ダチョウ効果)と呼んでいる。
オーストリッチ効果とは、砂に頭を突っ込んで、問題など存在しないふりをすることだ。あまりにも多くの人が、ファイナンスの問題を解決できない大きな理由がこれだ。
オーストリッチ効果は、日常生活におけるお金のあらゆる面に入り込んでくる可能性がある。銀行口座の残高を確認しない。クレジットカードの利用明細を見ない。401(k)が何かをきちんと学ばない。知らぬが仏の状態で、「ウケるw お金なさすぎ」と言って暮らす方がずっと楽だからだ。こうしたことがどれだけ自分のためになっていないか、想像できるのではないだろうか? イヤな部分を無視するせいでお金の問題が手に負えなくなるのみならず、確認しないと、どれだけ前進したかも分からない。自分のお金にきちんと目を向けないと、借金を片づけ、貯金を増やし、投資を拡大している自分がいかにすごいのか、分かりようがないのだ。
問題に目を向けなければ、計画を立てられないばかりか、計画を実行することすらできない。ところで、オーストリッチ効果の原因が何か、ご存じだろうか? 恥だ。自分のパーソナルファイナンスを評価する作業は、不快なものだ。401(k)のプラットフォームにログインして、そこに書かれている専門用語をまったく理解できない自分がまぬけに感じられる。そこで、この恐怖と不快感から自分を守るために、見なければいいよと脳みそが説得してくる。そうだよね、見ない方がいいよね!? 誰も教えてくれなかった現実に直面するより、お金がカオスの状態で生きた方がいいと思うのだ。
当然ながら、不快感を「一時的に」避け続けるとどうなるだろうか? 銀行口座を見ようと思うだけで激しい不安に襲われるほど、状況が悪化する。
この感情は現実であり、驚くほど一般的だ。このように感じるのも頷けるが、解決しない限り、いつまでも引きずることになる。私たちは、お金にコントロールされるより、お金をコントロールしたいのだ。
自分のお金の現状を知らなければ、予算を立てることも、貯金を増やすこともできない。状況が分からなければ、磨きをかけたり、微調整したり、最適化したり、改善したりできない。それはまるで、今からケーキを焼くところなのに、目隠しをされて、レシピもなく、原材料のラベルがすべて象形文字で書かれているようなものだ。
お金について正直になれない、もう一つの理由とは何だろうか? 自分のお金の目標すら分かっていないことだ。私が初めてのクライアントと会うとき、こんな言葉をよく聞く。「貯金するべきだって分かっているけど、でもクレジットカードの明細書を見るのがすごく怖くて。それに貯金を始めるにしても、何のために貯金すべきなのか分からない」
私たちは、生活の中でもお金の面を前進させることが大切だと聞かされるのに、なぜかという理由は教えられない。自分事に感じられない、関連性も見いだせない、具体的でもない目標が押しつけられるだけだ(あなたはこれまで何度、「今年こそちゃんと貯金するぞ」と決心しただろうか?)。貯金は「大切だから」しろと言われるだけなのだ。
あるいはもしかしたら、自分のライフスタイルには合わない何かに向けて、貯金をすすめられたこともあるかもしれない。私は大学卒業時、できるだけ早く家を買うようアドバイスされた。両親は善意から、シアトルの不動産は高いので都心から1時間の郊外にある、私が育った街のオープンハウスを見に行くよう説得してきたのだ。でも本当のところ、私は家など持ちたくなかった。メンテナンスも、責任も、30年の住宅ローンにがんじがらめになるのもイヤだった。20代前半なのに、友達が住んでいない街に住み、毎週末は友達と会う代わりに両親と一緒に過ごすなんて絶対にイヤだった。
ということで、20代前半に家の購入にフォーカスする代わりに、行きたいときに行きたいところへ旅行できるように、貯金に専念することにした。そうしたら何が起こったと思う? 本気で達成したい目標だったので、もっとずっと貯金する気になったのだ。
レシピや原材料なしでケーキを焼くことなどできないし、そもそもケーキを焼く理由が分からなければ、焼きたいとも思えない。あなたがお金を避け続けるのもムリはない。避けない理由がないのだ。「お金を貯める理由」と「大切な何か」を結びつけていないため、モチベーションが持てない。でもそれはあなたのせいではない。まさに心理の問題だ。これがなぜ自分の人生に大切なのか、脳みそにも理解してもらう必要がある。
過去において、この理解がなぜここまで難しかったのだろうか? それはね(衝撃の事実)、歴史的に女性は、お金にまつわる決断を自分で下すべきではないとされてきたからだ。女性は、数字が苦手だと言われる。扶養する側ではなく、される側の役割が与えられる。お金は「女性には扱えない」と説明される。朝に活力を与えてくれるコーヒーでさえ、欲しがってはいけないのだ。とりわけ異性愛を規範とする関係性の中で、女性がお金に責任を負えるのは主に、家計の支出や日常でのお金のやりくりだ。食料品の買い出し、予算管理、家計全般を女性が行い、一方で長期的なお金の決定(投資など、実際に財産を築くもの)は、男性に任される。お金について計画性を持つという考え方、とりわけ財産を築くための長期的な戦略が、私たち女性にとって異質なものに感じるのもムリはない。
ファイナンスを理解するカギは、お金に対して本当の意味で責任感を持つことと、その責任の反対側には自由があると理解することだ。
ラミット・セティから一言
『トゥー・ビー・リッチ――経済的な不安がなくなる賢いお金の増やし方』(ダイヤモンド社)の著者であり、ウェブサイト「アイ・ウィル・ティーチ・ユー・トゥ・ビー・リッチ」(お金持ちのなり方を教えます)の創設者
多くの場合、育った環境の結果として、人は私が「見えないスクリプト」と呼ぶものを持っています。あまりにも強い思い込みで、そのスクリプトによって自分の人生が導かれていることに気づきません。アメリカでよくあるスクリプトの1つは、「家を買うべき」というもの。家は、アメリカンドリームなのです! でもこの夢は、地獄の組織「全米リアルター協会」によって広められた大ウソです。「家を持たないと、本物のアメリカ人とは言えない」という考え方のせいで、多くの若者を含むたくさんの人が、自分はまだまだだと感じています。誰も言わないことを、私はみなさんにお伝えしたい。「私は大金持ちだけど、自ら選んで賃貸に住んでいる」と[トリから一言:私も!]。「明日にでも家を買えるけど、それでも賃貸を選んでいる」と言うと、人はおかしな人でも見るかのような顔をします。見えないスクリプトの例としてぴったりです。
見えないスクリプトとは、人と違う視点で物事を見る人がいると、「え? なんでそう考えるの?」とほとんどの人が思うこと。ちなみに、持ち家か賃貸かについては、試算してみることだと私は考えます。買う方が妥当な人もいれば、そうでない人もいる。それに、買うか借りるかを決めるのには、お金以外の理由もあります。
お金に関するもう1つの見えないスクリプトに、「これ以上稼げない」があります。禁欲的で、倹約が重視されたアメリカ人の典型的な倫理観です。この言葉の意味はつまり、「今手にしている以上に何かを手に入れるなんてムリ。だからこそ、これを奪おうとする人とはなんとしても闘う」です。
この類いの人たちは通常、あらゆる課税に対して極端に怒り、抵抗しています。なぜでしょうか? 「足りない」ことにもっとも意識が向いたスクリプトだからです! 「税金として1ドル持っていかれるたびに1ドル減る」という考え。もっと豊かなアプローチとしては、「コミュニティの一員なので、税金も喜んで払います。だってもっと稼げるから」。そしてまさにこれが私のアプローチです。
25歳で10万ドルを貯めたところで、マーケティング担当者として働いていた会社を退職。女性が家父長制から自由になり、自分の手で公正なお金を稼げるようサポートするプラットフォーム「Her First $100K」を立ち上げる(10万ドルの貯金で会社を辞める勇気を得た経験が名前の由来)。
グッドモーニングアメリカ、トゥデイショー、ニューヨークタイムズ紙、ビジネス誌「アントレプレナー」、バズフィード、CNNなど多くのメディアに登場。CNBCに「金銭的な自信を女性に与える声」と称され、これまでに300万人以上の女性たちを、給与の交渉、借金の完済、貯蓄の構築、投資でサポートしてきた。
現在は、女性のパーソナルファイナンスや起業、自信について、世界中で執筆や講演を行っている。シアトル在住。
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