ギークピクチュアズ

TVCMを中心とした映像制作において、圧倒的なクオリティと守備範囲の広さで異彩を放つ株式会社ギークピクチュアズ。2027年には創業から20年を迎える。TVCM制作にとどまらず、映画、アニメ、イベント、そして自社IPの開発まで、エンターテインメントのあらゆる領域を横断する同社は、いかにして急成長を遂げたのか。

その背景には、クリエイティブの世界にロジックと経営視点を持ち込んだ、緻密な戦略があった。

「自分が生きている間に完成する会社など、大したことはない」。そう語るのは、代表取締役の小佐野保氏。かつての常識を打ち破り、ディズニーのような「100年続く世界ブランド」を目指す同社の、知られざる事業戦略と未来へのビジョンに迫った。

小佐野保(こさの たもつ)── 代表取締役CEO
株式会社ギークピクチュアズ代表取締役CEO。2007年に株式会社ギークピクチュアズを設立し、数多くのTVCM・映画・アニメ・ドラマ等の制作、IPやアート、webtoonの企画開発に携わる。
株式会社ギークピクチュアズ
株式会社ギークピクチュアズは2007年創業。TVCM、映画、アニメ、MV、LIVE/舞台などの映像制作に加え、IPやアート、webtoonの企画開発まで幅広い事業を展開。近年では、国内だけでなくアジア・インドをはじめとした海外映画の配給やアート作品の輸出入など、海外での事業展開も本格的に進めている。
企業サイト:https://geekpictures.co.jp/jp/

目次

  1. TVCMからエンタメ全体へ。業界の常識を覆した創業の原点
  2. グループ統合と自社IP戦略への転換
  3. 「感覚」に頼らず、「ロジック」で最高品質を生み出す
  4. 世界を震撼させるブランドづくりは一代ではできない

TVCMからエンタメ全体へ。業界の常識を覆した創業の原点

── 映像制作を中心に多岐にわたる事業を展開していると思いますが、まずはこれまでの事業の変遷について教えてください。

小佐野氏(以下、敬称略) もともと私は、大手映像制作会社に15年ほど在籍していました。当時の日本においては、今よりもTVCMがコンテンツの中心にあり、映画よりも最先端の機材や技術に触れる機会が多い環境でした。

そこでプロデューサーとして多くの経験を積ませていただいたのですが、次第に「このノウハウをTVCMだけでなく、エンターテインメント全体に活かしたい」と考えるようになったのがきっかけです。

ただ、20年以上前の業界には、高い参入障壁がありました。広告、映画、音楽、テレビと、同じエンターテイメントコンテンツでありながら、それぞれの手法や文化はまったくの別物とされていたのです。

当然、会社の中でも領域を広げることへの理解を得るのは難しかった。それならば、TVCM以外にもエンターテインメント全般に携われる新しい場所を自分で作ろうと考え、ギークピクチュアズを立ち上げました。

── 業界の垣根が高かった時代に、それを取り払おうとしたと。創業後は順調に事業を拡大できたのでしょうか?

小佐野 いえ、最初は苦労の連続でした。特にキャッシュフローと人材確保です。創業当初は4人でスタートしましたが、私たちが受ける仕事は数億単位の予算が動くTVCMが中心です。できたばかりの会社がそれだけのキャッシュを用意し、年間何本も動くプロジェクトを回すための優秀な人材を集めることには、本当に骨を折りました。

その後、映画制作を手がける「ギークサイト」やアニメ制作を担う「ギークトイズ」、CG・VFXや美術制作会社をM&Aでグループに加えると同時に、新規事業専門の部署を設立するなどし、徐々に関わる領域を拡大してきたのが、これまでの歩みです。

グループ統合と自社IP戦略への転換

── 最近、グループ会社を吸収合併したそうですが、この組織再編にはどのような狙いがあったのですか。

小佐野 現代のエンターテインメント制作において、単に「作る人」を集めるだけでは不十分だからです。大規模なプロジェクトになればなるほど、ガバナンス、法務、契約管理といったマネジメント機能が重要になります。特にAIの台頭などにより権利関係が複雑化する中で、これらを統合的にコントロールできなければ、戦っていけない時代になりました。

グループ会社を一つにまとめることで、キャッシュフローの透明化、人材の流動性確保、そして法務・契約面でのリスク管理を一元化する。これが最大の狙いです。

── 攻めと守りの両面を強化されたわけですね。事業モデルの面で変化はありますか。

小佐野 はい。これまではクライアントの依頼を受けて制作するOEMが中心でしたが、現在は自社IPの開発にも力を入れています。自分たちで資金を投じてコンテンツを作り、そのライセンスを運用してマネタイズする。

ギークグループ

現在のギークグループは、

①リサーチ&デベロップメント(企画・原作開発)
②クラフト(制作)
③バリュー(価値化・収益化)
④リインベストメント(再投資)

という4つの機能を循環させるモデルへと進化しています。

── 自社で権利を持つことで、収益構造も大きく変わりますね。

小佐野 自分たちが生み出したものの付加価値を、自分たちでコントロールしたいのです。OEMだけでは、どうしても既存の枠組みの中に留まってしまう。リスクをとってでも自社IPを持つことで、アジア、そして世界へ打って出るチャンスが広がります。

「感覚」に頼らず、「ロジック」で最高品質を生み出す

── 事業が拡大すると、制作物のクオリティ維持が課題になります。特にクリエイティブな領域では属人化しやすい印象がありますが、どのように品質を担保していますか?

小佐野 おっしゃる通り、「個人のセンス」や「情熱」は大事です。しかし、それでは継続的な成長は望めません。そこで私たちは、制作工程に明確な基準とロジックを持ち込むことにしました。

具体的には、独自のデータサイエンス基盤の開発を進めており、ノウハウやスキルを分析・集約して社内共有しようとしています。今後はこのシステムの完成により、制作の土台となるスタッフィングやコスト管理は、全社員が一定のノウハウの基準をクリアできるようになります。

── AI技術の進化についても聞かせてください。クリエイティブ業界への影響をどう見ていますか。

小佐野 AIは強力なツールです。先ほど言及したデータサイエンス基盤と組み合わせて、制作工程管理の効率化において積極的に社内活用しています。しかし、AIが生成した画像や映像をそのまま世に出したり、クリエイティブに活用することはありません。

世界を震撼させるブランドづくりは一代ではできない

── AIの活用やIP事業への転換など、先を見据えた手を打たれていますが、ギークピクチュアズの完成をどこに定めていますか。

小佐野 私が経営者の間に会社が完成することはないと思っています。目指すべき比較対象としてよくディズニーを挙げるのですが、ウォルト・ディズニー・カンパニーは2023年に創立100周年を迎えました。その歴史と比べれば、私たちはまだ始まったばかりです。

世界を震撼させるようなブランドになるには、一代では足りません。だからこそ、私の役割は会社が進むべき方向性のみを明確に示すことだと考えています。「間違った方向には行くなよ、こっちを目指すんだ」という道標を残し、次の世代にバトンを渡す。私が関与できるのはそこまでです。

── 自身がいなくなった後のことまで見据えていると。

小佐野 人生の時間は思っている以上に短いです。いつか終わりが来ることを意識すると、今日明日のことだけでなく、50年後、100年後にどうあるべきかが見えてきます。今、自分が正しいと信じ、やるべきだと感じることに全力を注ぐ。その積み重ねが、やがて未来の大きな成果につながると信じています。

氏名
小佐野保(こさの たもつ)
社名
株式会社ギークピクチュアズ
役職
代表取締役CEO

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