この記事は2026年2月12日に三菱UFJ信託銀行で公開された「不動産マーケットリサーチレポートvol.298『首都圏の物流不動産を『交通量×消費近接×供給』で読み解く』」を一部編集し、転載したものです。


首都圏の物流不動産を『交通量×消費近接×供給』で読み解く
(画像=Selvi/stock.adobe.com)

目次

  1. この記事の概要
  2. 交通量スコアの“混在”を前提とした問いの構築
  3. 貨物が拠点で留まる理由を4つの視点で整理
    1. 4視点による拠点需要の整理
    2. 分析の見取り図(需給を3指標で観察する)
  4. 代表エリアの読み解き
    1. エリア比較を通した示唆
  5. まとめ
  6. 巻末付録指標・データ定義
    1. A.対象エリアとクラスタ
    2. B.交通量スコア
    3. C.消費地近接性
    4. D.供給余地
    5. E.到達圏(10分/20分/30分)と道路ネットワーク

この記事の概要

• 交通量スコアは物流動線上の『流れ』を示す一方、それだけでは賃料水準や供給の差を十分に説明できない。
• 本稿では、交通量に加え、『消費地への近さ』と『供給余地』に関する指標を重ね、需給環境を立体的に整理する。
• 代表エリア比較を通じて、同じ交通量でも賃料・供給の傾向が変わり得る"違い"を炙り出し、交通量のみでは見えにくい市場の背景を読み解く。

交通量スコアの“混在”を前提とした問いの構築

物流量が多いほど、物流拠点の需要が強い。”

直観としては正しいが、この読みはしばしば外れることがある。なぜならば、通過する物流量がそのまま周辺の拠点需要を表しているわけではないからだ。また、競合物件の供給状況も拠点の需給に影響し、これら需給両面が一体となり賃料相場や投資妙味を左右している。例えば、図表1が示すように一定の交通量が観測されるにも関わらず、供給がほとんど観測されない区間は(常磐道・東北道沿線の一部)、「通過」を含む交通量だけでは供給の有無を説明しきれない。また図表2では、交通量と賃料の関係に着目し、厚木と、板橋や川崎、流山を比較すると、交通量スコアと賃料形成の関係性に差が生じている。図表3は、交通量だけでは見落としがちなこうした背景を、消費地への近さと供給環境を重ねて一枚で俯瞰したものである。

このように、物流拠点の需給に係るいくつかの重要な指標を併せ読むことで、“交通量”のみでは見えてこなかった需給の背景を理解することが本稿の目的である。

首都圏の物流不動産を『交通量×消費近接×供給』で読み解く
(画像=三菱UFJ信託銀行)

1:詳細は不動産マーケットリサーチレポート VOL.293「大型車両交通量に基づく物流拠点の潜在需要分析」をご参照。

貨物が拠点で留まる理由を4つの視点で整理

物流拠点需要は、交通量が示す「流れの強さ」だけでは読み切れない。同じ流れでも、ある場所で貨物が留まる理由は、最終配送へ向けた仕分けなのか、工業製品の積み合わせなのか、幹線の中継なのか、港湾、空港からの荷下ろしや検疫なのか、それぞれどのような需要が起点となるかにより異なる。

そこで本稿では、拠点が担う役割、即ち“留まる理由”を下記4視点で整理し、交通量のみでは見えてこない需要の内訳を読み解く補助線とする。

4視点による拠点需要の整理

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(画像=三菱UFJ信託銀行)

加えて、需要があっても、競合物件の供給状況によって拠点の賃料や投資余地といった需給環境は左右される。つまり、需要の性格(4視点)と供給環境を併せて読むことが、交通量だけで説明しきれない“ズレ”を解くカギになる。

分析の見取り図(需給を3指標で観察する)

これら需要の4視点や供給状況について以下の通りa)~c)の「3つの指標」として整理する。

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次ページの図表4は、上記で整理した枠組みにより、具体的な物流拠点の集積エリアの需給環境を可視化したものである。a)交通量(横軸)だけではなく、b)消費地近接性(縦軸)、c)供給余地(バブル)を同時に並べて、エリアのタイプを見分けるための図である。ポイントは、交通量が同程度でも、縦軸とバブルの組み合わせによって、タイプが変わり得ることだ。すなわち、(1)交通量が多いだけで①消費起点の需要が強いとは限らない(2)消費起点の需要が強くても、需給環境の違いによって、賃料の伸び方や上がりやすさが変わり得る。これにより、「交通量の割に賃料が伸びない/伸びる」といった違いの“原因候補”を図の上で整理できる。

首都圏の物流不動産を『交通量×消費近接×供給』で読み解く
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以降はこの図表4を起点に、代表エリアを取り上げて確認する。具体的には、a)交通量スコアが近いのに、賃料が大きく異なる組み合わせを並べ、b)消費地近接性の違いがどの程度その差異を説明できるのかを見る。あわせて、c)供給余地(バブル)は本稿の定義上、類似の需要環境でも結果が異なる背景(競争環境)を示す補助線として参照する。その際、生産起点、ゲートウェイは単一指標で切り出しにくいため、工業集積や港湾・空港・ターミナル等の立地条件を補助線として加え、図表4だけでは説明しきれない部分を読み解く。

代表エリアの読み解き

本節では図表5の代表的なエリア間の比較を通じて、単一の指標で生じる差異が複数の指標でどのように説明できるかを確認する。厚木と神奈川湾岸は、a)交通量スコアが近いにもかかわらず、賃料水準が異なっている典型例である。a)交通量スコアだけで見れば同等に評価できるが、b)消費地近接性を重ねると評価が分かれる。またc)供給余地の観点では厚木が「①消費起点の評価に対して供給が厚い」側に位置づきやすく、この組み合わせが賃料の伸びにくさを説明する一助となる。

また、日野と瑞穂、流山と千葉内陸の比較も同様に、b)消費地近接性やc)供給余地を重ねることで、拠点需要の性格や競争環境の読みが変わる。特に流山は、①消費起点としての強さに加え、周辺の工業団地を背景にした②生産起点としての需要も一定程度見込みうる点で、単純な板橋等の①消費起点の需要を中心とするエリア群とは異なる。②生産起点や③ゲートウェイは本稿で単一指標を用いて評価していないが、代表エリアの読み解きの補助的な要素として加えることで、需要の内訳に対する理解が深まる。

首都圏の物流不動産を『交通量×消費近接×供給』で読み解く
(画像=三菱UFJ信託銀行)

また前回レポートで論点として残った常磐道・東北道沿線の一部について補足する。これらの区間は「交通量は一定程度あるのに供給が薄い」という点で、交通量のみの分析とは齟齬を生むが、本稿の議論を踏まえると差異の要因が明確になる。常磐道沿線の対象区間は、a)交通量スコアが2~5万と低くない水準にある一方、b)消費地近接性は、~0.6と相対的に低い。すなわち、交通の流れはあるが①消費起点の評価が高くなく、将来的に通過交通が拠点に向かう/拠点から出発する“滞留交通”へ転化しにくい構図が示唆される。では、こうした条件は将来どの程度変わり得るのか。次章では、b)消費地近接性とc)供給余地に影響を与えるものとして人口分布の変化と、インフラ整備を取り上げ、それらが交通の流れと結節性にどう影響し得るのかを整理する。

エリア比較を通した示唆

図表4,5が示すのは、交通量が近いエリアでも、消費地近接性(縦軸)と供給余地(バブル)の違いによって、賃料水準や供給の出やすさといった市場指標の表れ方が変わり得る、という点である。本稿の3指標はそれぞれ単独で評価すべきものではなく、同時に併せ読み、背景にある4視点の需要及び供給環境を推し測ることで、マーケット水準の差異の“理由候補”を絞り込む観察窓として用いるのが有効である。

マーケットの読み方例
✓消費地近接性が高い×供給余地が小さい(ストックが厚い)
:消費起点需要は強い一方、競争環境の影響を受け易く賃料の上昇余地は相対的に低い
✓消費地近接性が高い×供給余地が大きい(ストックが薄い)
:消費起点需要は強い一方、供給の影響を受けやすく、新規供給が相場賃料に与える影響が相対的に大きい
✓消費地近接性が低い×交通量スコアが高い
:交通量の背景に、最終配送ではなく幹線上の結節(集約、積替え、一次分配等)・中継がある可能性が高い。このタイプでは、賃料水準を支えるロジックが最終配送型と異なり、拠点を置くことで削減できる運行・荷役・待機等のコスト(効率化余地)が、賃料の上限を規定しやすい

まとめ

本稿は、a)交通量スコアにb)消費近接性とc)供給余地を重ねることで、a)交通量スコアだけでは見えにくかったエリアの状況を整理した。複数の視点で評価することで、差異が「消費」「供給」「ネットワーク」どこに由来するのかを切り分けやすくなる。

今後は、需要を4視点に切り分けた整理を、賃料水準の議論へ一段踏み込ませたい。具体的には、物流の付加価値(売り上げから中間投入を差し引いた価値)を“賃料上限の制約条件”として整理することで、常磐/東北のような未集積地で滞留化を起こすトリガーや需給と賃料水準の関係性をより定量的に提示することを目標とする。

巻末付録指標・データ定義

A.対象エリアとクラスタ

  • 代表点(エリア)の設定:候補となる1kmメッシュ代表座標ごとに、周辺10km圏の物流施設ストック(延床面積)合計を算出し、ストックが大きい地点を中心に分析対象エリアを抽出(近接点の重複は調整)、
  • クラスタ:代表点の近接性・連続性を踏まえクラスター化。クラスターの代表値(各スコア)は、実際の拠点立地に照らして補正し、代表点ベースの乖離を抑えた。

B.交通量スコア

  • 目的:物流動線上の「流れの強さ」「結節性」の近似。
  • データ:交通センサスに基づく大型車両交通量(前回レポートと同一)
  • 算定(概略):対象エリア周辺の道路ネットワーク上で交通量を集計しスコア化(詳細は前回定義に準拠)

C.消費地近接性

  • 目的:消費起点(最終配送・多頻度配送等)の拠点需要に近似。
  • データ:居住地人口:国勢調査(1㎞メッシュ)。      就業人口:経済センサス活動調査(1㎞メッシュ)。メッシュ基盤:国勢調査
  • 算定:道路ネットワークによる到達圏(30分)内の就業人口をリング加重で集計。
        荷重:0-10分=1.0、10-20分=0.6、20-30分=0.3
        市区町村別データをポリゴン座標データを基に、1kmメッシュに割り当て
    リング荷重の理由:連続減衰よりも①説明可能性、②速度仮定の不確実性に対する頑健性、③相対比較の実務適合性を優先。

  • 集計対象人口:0.7×居住地人口+0.3×就業地人口
    ※家計消費の内、「居住地周辺で成立しやすい消費(日用品・宅配など)」が相対的に厚い一方で、就業地周辺でも、「買い回り・飲食等」の消費が一定程度まとまって発生するため、居住寄りにウェイトを置きつつ、就業地の厚みも落とさない比率として7:3を採用。5:5,6:4も検証したが、本稿の分析結果に大きな違いは無いことを確認した。

D.供給余地

  • 目的:「消費起点から見た供給の厚み(競争環境)」の相対化。
  • 定義:供給余地=消費地近接性÷既存ストック(延床面積(㎡))
  • 解釈上の注意:需給の過不足を断定する指標ではない(ネットワーク・生産・ゲートウェイ需要は分母に含まれないため)。本稿では「消費の観点で見た相対的な供給の厚み」として用いる。

E.到達圏(10分/20分/30分)と道路ネットワーク

  • 道路データ:OSMオープンデータOpenStreetMap(OpenStreetMapcontributors)※ODbL1.0に基づき提供。出典URL:https://www.openstreetmap.org/copyright
  • 移動時間:道路種別ごとに平均速度を設定しトラベルタイムを付与して到達圏を推定
牧坂亮佑
三菱UFJ信託銀行 不動産コンサルティング部