株式会社ありがとうサービス

「ハードオフ」などのリユース事業、「モスバーガー」をはじめとするフードサービス事業、さらに愛媛県今治市を拠点とした地方創生事業と、多角的なビジネスを展開する株式会社ありがとうサービス。

代表取締役社長兼会長の井本雅之氏は、「戦略なきご縁経営」を掲げ、緻密な中期経営計画よりも「人との縁」や「自然の流れ」を重んじてきた。その根底にあるのは、「世のため人のため」という揺るぎない経営理念と、絶え間ない自省による内面的な成長だ。

不確実性が高まる現代において、なぜ同社は成長を続けられるのか。独自の経営哲学と、自ら考え行動できる人材を育てるための本質的な視点に迫る。

井本雅之(いもと まさゆき)──代表取締役社長兼会長
1956年、愛媛県生まれ。1980年、早稲田大学卒業後、株式会社日本マーケティングセンター(現株式会社船井総研ホールディングス)入社。2000年、株式会社エムジーエス(現株式会社ありがとうサービス)設立。2006年、特定非営利活動法人今治しまなみスポーツクラブ設立。今治サッカー協会会長。
株式会社ありがとうサービス
「ハードオフ」、「ブックオフ」を中心としたリユース事業、「モスバーガー」を中心にしたフードサービス事業、および「しまなみサンセバスチャン計画」を軸とした地方創生事業を展開。国内135拠点、海外はタイ、カンボジアに11拠点(2025年11月末現在)。連結売上高106億円、連結経常利益9億53百万円(2025年2月期)。2017年、FC今治のホームスタジアムとなる「ありがとうサービス.夢スタジアム」を建設。経営理念は「世のため 人のため」。
企業サイト:https://www.arigatou-s.com/

目次

  1. 絶えず自省を続けることが成長の原動力に
  2. 「ご縁」を大切にする経営哲学
  3. 「世のため人のため」を重視した上で儲けを狙う
  4. ビジネスの中で「人間とは何か」の問いに答える
  5. 変化に備え海外でも利益を出す

絶えず自省を続けることが成長の原動力に

── ありがとうサービスは、さまざまな事業のフランチャイジーとなっています。

井本氏(以下、敬称略) まず、2000年にエムジーエスというモスバーガーの店舗を運営する会社を設立しました。モスバーガーの事業は、父が経営していた株式会社今治デパートから営業譲渡されたものです。その後、ファミリーレストラン「トマト&オニオン」のフランチャイズ事業を行う会社を吸収合併しました。

さらに、今治デパートからリユース事業の営業譲渡を受け、現在に至っています。

── 20年超の歴史の中で、一番の成長のポイントは何でしょうか?

井本 率直に申し上げますと、加盟させてもらったフランチャイズ事業、特にモスバーガー、ブックオフ、ハードオフのビジネスが素晴らしかったということが、結果として一番大きいと考えています。

── ご自身が、経営で壁だと感じたことや困難を乗り越えた経験を教えてください。

井本 具体的な何かが壁だったというよりも、自身の未熟さから、何度も失敗を繰り返しながらも、なんとか潰れずにやってこられたと感じています。

たとえば、何を大切にして経営するかという理念と実際に起こるさまざまな事象の双方に向き合わなければならない場合があります。そのとき、目先の利益や自分のことで頭がいっぱいとなってしまい、起きている事象をとらえ間違えてしまうケースもありました。

しかし、物事を多角的に見られるようになり、世の習い、たとえば春が来て秋が来て冬が来るような自然の流れを理解するにつれて、何かが起きても「よくあることだ」ととらえられるようになりました。

そうすると、自然と採るべき対応策が浮かんでくるのです。事象そのものよりも、自身の内面的な成長が、なんとか今につながっている要因だと考えています。

── その内面的な成長は、徐々に進んでいったのでしょうか?

井本 ええ、それは徐々にです。自分で「ここが成長した」と明確に分かるようなものではありません。日常的に起こるさまざまなできごとに対して、その都度、一生懸命判断を下しますが、一年後や五年後に振り返ってみると、「あのときは考えが及んでいなかったな」と気づくことの繰り返しです。

栄養ドリンクを飲んで元気になるような、劇的な変化はありません。

── とはいえ、上場は大きな変化だったと思います。

井本 上場はあくまでプロセスの一部であり、目的ではありませんでした。会社が一定のレベルに到達したからこそ、結果として上場できたと考えています。上場したからといって、劇的に何かが変わったという感覚はありません。

「ご縁」を大切にする経営哲学

── 経営戦略におけるキーワードとして「戦略なきご縁経営」がありますが、ご縁を大切にする経営の原点はどこにあるのでしょうか?

井本 そもそも、最初からすべてが儲かるかどうか分かるのであれば、世の中これほど苦労はないでしょう。優秀といわれる人々が全員成功するわけでもありません。

分からない中で何を頼りにするかといえば、「自分はこれを大事にしている」「あなたならこうするだろう」といった、人とのつながりを大切にすることではないかと感じています。

── 地方での活動やFC今治との連携なども行っています。一見、ビジネスとは遠い取り組みに見えますが、成果が分からない中で取り組まれているということでしょうか?

井本 大それたことをいうつもりはありませんが、たとえば自分のことだけしか考えない人は、せめて家族のことを考える。家族のことを考えられる人は、地域のことまで考える。このように、一人ひとりが少しずつ視野を広げることが大切だと考えています。

FC今治に関しては、以前から知り合いである岡田武史氏から、チーム運営の依頼がありました。

それは上場して間もない時期で、時間的にも余裕がなく、直接的な利益にもつながらないという判断軸もありましたが、人口15万人規模の街で、外部から見れば「なぜ岡田氏がこのようなところで」と思われるような場所から、Jリーグに昇格し、AFCチャンピオンズリーグに出場するようなことが実現したら面白いだろうと考えました。

もしそうなれば、地域に定着する人々が10万~15万人規模の多くの街にも、大きな希望やインパクトを与えられるのではないでしょうか。地域のためになるだけでなく、かかわる人々のためにもなるだろうと思い、引き受けました。このような判断で、これまでも事業に取り組んできました。

── FC今治の試合は、定期的に観戦しているのですか?

井本 出張がなければ、ホーム試合の半分くらいは見に行っています。

── 海外の強豪クラブが来るようになったら、地元の人々も嬉しいでしょうね。

井本 今でもJリーグのチームは来ていますが、海外からも多くのファンが来て、このような地方の街に来るようになったら、そこから世界平和が始まるかもしれませんね。異なる国や地域の人を「自分たちと違うわけじゃない」と思えるようになれば、面白いのではないでしょうか。

岡田氏とも、そのような話をすることがあります。

「世のため人のため」を重視した上で儲けを狙う

── 経営理念「世のため人のため」や行動指標は、どのようにつくったのでしょうか?

井本 理念どおりに組織をつくれているかと問われると自信はありませんが、何十年もいい続けているのは、「自分のことだけを考えるのはいけない」です。

たとえば、私がかけているメガネ一つをつくるにしても、自分ですべてをつくろうとしたら大変でしょう。だからこそ、誰かの役に立つこと、人のことを考えるのが大切だと社内で伝えています。

毎日のメッセージや、月1回の社員ミーティングでも、そういった話をするのは同じです。幹部とのミーティングでも、自分の部署のことだけ、あるいは会社のことだけを考えて判断していると、「それはおかしいのではないか」と指摘します。

── 社長のそのような判断軸や考え方が、20年以上かけて社員や幹部に浸透し、会社全体が動いているということですね。

井本 浸透しつつある、というところでしょうか。途中から入ってくる社員もいるため、その人々には丁寧に伝える必要があります。

企業は数字が伴うものだと考える人が多い中で、われわれはそれとは違う趣きを持っていますが、同時に「ちゃんと儲かるようにしなさい」というように事業を進めています。それを実行に移している幹部は、素晴らしいと思います。

ビジネスの中で「人間とは何か」の問いに答える

── 今後の日本経済や業界の構造変化について、どのようにとらえていますか?

井本 変化は確実に起こり、しかもかなり大きく変わるでしょう。たとえるなら江戸時代の駕籠で移動していたところからいきなりドローンで移動するような大きな変化が、ここ10年で起こるであろうと考えています。

AIやブロックチェーンなども、今の延長線上で考えているとさほど見通しは当たらないかもしれません。もっと早く、もっと大きな変化が、起こるのではないでしょうか。

── それは、適応するしかないということでしょうか?

井本 適応できる、腹の据わった人間を育てるしかないと考えています。どういう人かというと、少々のことで「どうしましょう」というのではなく自分で考える人です。

── 社長としての今後のビジョン、5年後、10年後、どのような会社になっていたいと考えますか?

井本 経営理念の実現、すなわち世の中に「この会社があってよかったね」と思ってもらえる、存在意義を感じてもらえる人がいる、そういう会社でありたいです。それは日本国内だけでなく、世界の中で、です。

── そういった意味では、海外展開もさらに拡大するのでしょうか?

井本 そうですね。地球の適正人口や環境問題についてさまざまな学説がありますが、人間が増えすぎたことが環境問題の一因であるという話も聞きます。

しかし、これは非常にデリケートな問題です。今の生活水準を維持しながら環境を悪化させないという仮定をすると、現在の人口の3分の1程度の人口が適正であるという学説もあります。

もしその学説が正しいとすれば、多くの我慢や、ものすごいテクノロジーが必要になるでしょう。人口問題やAIの扱い、そして「人間とは何か」といった哲学的な問いに向き合うことが、今後10年で非常に大きなテーマになると考えています。

その中で、企業として経済活動を行いながら、われわれなりに「これが大切だ」というメッセージを、少しでも発信する。そういった企業、いや、そういった人間であるべきだと考えています。

── マレーシアやスリランカ、マダガスカルなどに、海外展開を考える国にピンを立てているそうですね。

井本 そこで展開できると分かっているわけではありません。しかし、ちょっとした情報から「できるのではないか」という候補を挙げておけば、どこかから「その話、面白そうだからやってみてよ」という話につながる可能性も、ゼロではありません。

ピンを立てることで、可能性がわずかでも増える。それが「ご縁」ではないでしょうか。

── 地方創生事業である「しまなみサンセバスチャン計画」について。既存施設の事業化や地域共生は、今後、全国展開も視野に入ってくるのでしょうか?

井本 いえ、そうではありません。これは地域を中心に行うものです。われわれが「こういう考えでやりませんか?」と提案しているだけで、われわれだけがやる話ではありません。賛同してくれる人が集まってくれれば良いのです。

そうすると、たとえばギャンブル施設ができる可能性もゼロではありませんが、それは歓迎しません。経済の話ではありますが、文化や地元の資源を活用する空気をしまなみ地域に醸成したいと考えています。それを全国に、というのは不遜な考え方だと思います。

変化に備え海外でも利益を出す

── 次の10年、20年を見据えたときに、何に資本、経営資源を投下する考えでしょうか?

井本 「分からない」というのが正直なところです。しかし、リスクは高まっていると感じています。日本の人口減少、地域における自然災害のリスク、そしてリユース事業も成長の転換期を迎えています。店を出せば売れるという時代は過ぎました。

今の資本主義においては、相当なお金を持っていなければ企業として大変でしょう。また、ChatGPTのようなAIの登場により、考えることをやめてしまう人が増える可能性があります。リスクが高まる一方で、考える人が減るとなれば、これは大変な事態です。

しかし、自ら「分からない問題」に積極的な取り組みをし、正解ではないにしても最適解を出す、そのような人材を育成することが絶対に必要です。海外に何店舗、といった話ではなく、そこが大きなテーマです。

ただ、いつどうなるか分からないからこそ、利益の半分くらいは海外で出しておきたい、という考えはあります。

── これだけ大きな会社でありながら、身軽に、柔軟に先行きを決めていかれる姿勢は、なかなかないかもしれません。

井本 いつどうなるか分からないので、中期経営計画のようなものは立てません。分かる範囲でいったとしても、自分の首を絞めるだけですから。

氏名
井本雅之(いもと まさゆき)
社名
株式会社ありがとうサービス
役職
代表取締役社長兼会長

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