1967年の創業以来、駅や自治体庁舎などで周辺案内地図「ナビタ」を展開してきた表示灯株式会社。全国4000ヵ所以上にプロダクトを展開する同社は、アナログの信頼性とデジタルの利便性を融合させ、クライアントだけでなく地域社会にも価値を提供する。
代表取締役社長の德毛孝裕氏と代表取締役副社長の永井東一氏に、創業時の苦難を乗り越えた「不負」の精神や、地図情報のデジタル化という転換点とともに、社会インフラとして目指す将来像について聞いた。
企業サイト:https://www.hyojito.co.jp/
目次
地方での営業から全国展開を実現するまで
── 周辺案内地図による広告媒体「ナビタ」を展開しています。全国展開するまでの経緯を教えてください。
德毛氏(以下、敬称略) 当社の歩みは1967年、名古屋での創業がはじまりです。最初の事業は、バス停の標識に広告を掲載することでした。これが当社の原点です。
その後、創業者は駅の改札付近に周辺案内図(ナビタ)を設置するビジネスを思い立ちました。名古屋鉄道様への営業から始まり、創業と同じ1967年12月には上飯田駅への設置を実現します。
そこから名古屋だけでなく、全国へと展開しました。2000年には東京メトロ様の各駅にも設置し、全国に周辺案内図(ナビタ)を設置するに至りました。
── 現在は、鉄道駅以外にも展開しています。こちらは、どのようなきっかけで始まったのでしょうか?
德毛 鉄道駅での展開が全国的に完了しつつあったため、同じビジネスモデルを他領域へ広げられるかの模索をしていました。その一環として自治体庁舎への展開を開始し、2010年に名古屋市天白区役所に設置されました。
これは「シティナビタ」と名付けられ、区役所や市役所などで大変好評を博しました。その後、このモデルも全国へと広がり、現在の当社の核となる事業へと成長します。
ステーションナビタとシティナビタを軸に成長を続け、2021年4月には当時の東証二部へ上場しました。これが当社の歴史の要点となります。
── 創業当時は、他社でも同様のサービスがあったのでしょうか?
永井氏(以下、敬称略) かつては、鉄道会社のOBの方々が定年後の仕事として、駅の地図広告を取り扱っていたと聞いています。しかし、規模的に大きなものではなく特定の駅に限定されており、商品開発や品質向上のような動きは目立っていたわけではありません。
当社は名古屋を中心とした東海地方から実績を着実に積み上げ、他社が持っていた大都市都心部の権利も、順次譲り受けました。このように一つずつ地道な努力を重ねることで、結果として圧倒的なシェアを獲得するに至りました。
デジタル時代でもナビタが愛用される理由とは?
── デジタル化が進む中で、駅の案内図の価値をどのように維持・向上させていますか?
德毛 デジタルが普及した今、従来と同じものを提供し続けるだけでは限界があります。現在、注力しているのがリアルな設置媒体とデジタルの世界を連携させることです。
たとえば、二次元コードを介してウェブサイトのコンテンツと連動させた「どこでもナビタ」という仕組みがあります。利用者がスマホでナビタの情報を持ち歩けるようにし、利便性を高めるためのツールとなります。
これは、スポンサーにとっても価値の高い媒体となるための取り組みでもあります。また、新たなビジネスチャンスの創出にもつながると考えています。
── スマホが普及しても、物理的な地図が利用される理由はどこにあるとお考えですか。
德毛 駅の改札を出た際、スマホを片手に持ちながらナビタをご覧になる方は意外と多くいらっしゃいます。これは、大きな駅ほど「まずどの方向へ進むべきか」の判断が難しいためです。
出口の方向や、右か左かといった直感的な把握には、ナビタの大きな地図が非常に使い勝手が良いのです。一般的な地図は北が上になるよう制作されているものが多いですが、当社が制作する地図の多くは利用者が向いている方向が上になるヘディングアップ表示に基づき制作されています。見やすく分かりやすい地図を提供し続けることは、今も重要な価値があると受け止めています。
── 利用状況の調査や、ロケーションオーナー(設置場所の提供者)への対応はどうされていますか。
德毛 ウェブアンケートによる定点調査を行っております。そして、認知度や利用シーンを把握し、ユーザーサイドのニーズを常に反映させるようにしています。
ロケーションオーナーにとっても、ナビタがあることで道案内の手間が省ける点がメリットです。自治体や病院では、施設内の案内も併せて表示し、利便性を高めています。
ユーザー、ロケーションオーナー、スポンサーの三者にとって良いものにすることが、当社の行動指針です。この考え方が、媒体価値の維持につながっています。
「不負」の精神と「旗が喜ぶ道」を選ぶ企業文化
── 成長を支えてきた独自の経営戦略や、大切にしている考え方を教えてください。
德毛 最大の成長要因は、創業メンバーがこのビジネスモデルの将来性に着目し、ひたすら市場開拓に当たってきたことです。競合の少ないブルーオーシャンではありますが、それでも創業メンバーの営業活動がなければ成長はなかったでしょう。
また、地図情報は一度、設置して終わりではありません。街の変化に合わせて年に一度は必ずアップデートします。色弱者の方にも配慮した配色(色覚バリアフリーマップ)をするなど、細かな進化を続けています。こうした取り組みが、ロケーションオーナーやスポンサーとの長きにわたる信頼関係の基盤です。
単なる広告営業ではない姿勢が、当社の強みです。
── 社訓である「不負」(ふまけ)という言葉には、どのような意味が込められているのでしょうか。
德毛 これは創業者がフィールド(陸上)ホッケーのゴールキーパーをしていた経験から来ています。ゴールキーパーは、ひたすら守り抜いて点を取られないことが最大の使命です。
「あきらめることなく、逃げることなく、根気強く仕事をすれば、いずれは信用を勝ち取れる。信用を勝ち取った顧客が増えれば、必ず事業は成功する」という精神です。この価値観が、社員に脈々と受け継がれています。
── ウェブサイトには「灯旗思想」(とうきしそう)という言葉も記されていますね。
永井 灯旗思想は、仕事で困難に直面したり判断に迷ったりしたときは、「表示灯(会社)の旗を見ろ」という教えです。旗(会社)が悲しんでいるか、喜んでいるかを見極めて選択しなさいという意味です。
自分自身の都合とらわれず、全体のために正しい道を選択する。この思想が、組織としてのまとまりを生んでいます。私自身も、この考え方を非常に大切にしています。
── 德毛社長ご自身が、特に意識されているモットーはありますか?
德毛 私は「不進則退」(ふしんそくたい)という言葉を心に留めています。日々、同じことをやっているだけでは進んでいるとはいえず、さらに現状維持とは実は後退でしかないとの意味を持つ言葉です。
同じことを繰り返すのではなく、常に変化とチャレンジを選び続ける。その努力の積み重ねが、会社全体の成長につながると信じています。
「元請け失踪」の危機とナビタの横展開
── これまでの歴史の中で、最大の壁と感じられた出来事は何でしょうか?
永井 創業直後の危機が、最も困難な時期でした。当時はある会社の下請けとしてバス停広告を扱っていましたが、その元請け会社がバス停標識の設置工事資金を他の事業につぎ込んでしまっていたのです。
元受け会社が行うはずであったバス停標識の設置工事が進まず、下請けであった当社は交通局からは出入り禁止をいい渡され、スポンサーからの信用も失いました。社員にも会社を辞めてもらわざるを得ず、創業メンバー3人だけが残りました。
途方に暮れる日々が、3ヵ月ほど続いたと聞いています。しかし、そこで得た教訓を以って、現在の駅案内地図という仕事にたどり着くことができました。
── その後の成長において、大きな転換点となったできごとを教えてください。
永井 二つあります。
一つは1995年、案内地図を「ナビタ」化(CG化)したことです。それまでは拠点ごとに手づくりで地図を制作しており、コストも時間もかかっていました。これをデータ上で制作するプロジェクトを立ち上げたのです。
地図をデジタルデータ化し、外枠を全国統一の標準仕様にすることで、大量生産とコストダウンを実現。修正も容易になり、品質が飛躍的に向上しました。
この「ナビタ」というブランドの確立により、鉄道会社からの社会的信用が格段に高まりました。日本中のどこに行っても同じ品質のものがあるという安心感が、大きな強みです。
── では、二つ目の転換点はどのようなことでしょうか?
永井 2009年ごろから始めた、駅以外の場所への横展開です。各自治体が税外収益確保のために広告モデルを導入し始めた流れに乗り、庁舎内への設置を開始。2010年、名古屋市天白区役所に初めて設置することができました。
最初は成功するか不安もありましたが、競合他社との入札競争が刺激となり営業部門が奮起していましたね。結果として、他社に劣らない優れた商品をつくり上げられました。
これが現在の「シティナビタ」となり、交番、サービスエリア、病院、神社仏閣へと広がっています。駅で行っていた事業が、大きく横へ拡大した瞬間でした。
公共性の高い事業だからこそ長期的目標に掲げるプライム上場
── 今後の市場環境と、業界の展望を教えてください。
德毛 広告市場全体はコロナ禍から回復し、過去最高を更新していますが、その主役はインターネット広告です。屋外広告や交通広告は、まだコロナ前の水準に戻っていません。
また、鉄道の無人化や路線の廃止など、既存の市場が縮小する懸念もあります。黙って待っていれば、事業は縮小してしまうでしょう。だからこそ今、持っている強みを活かした領域拡大が必要です。
投資家の方々の期待に応える成長を見せるためには、これまでの延長線上ではない打開策が求められます。社外パートナーとの提携やM&Aも、重要な選択肢となります。
── 将来的に実現したい目標はありますか?
德毛 具体的な時期は明言できませんが、いつかはプライム市場に上場できるような会社になりたいと考えています。上場そのものが目的ではなく、当社の事業は非常に公共性が高いものであるため、その成長の証としてのプライム市場への上場が目標です。
そして、業績を向上させ、世の中からの認知と信頼をより高める努力を続けます。既存のリソースだけに頼らず、新しいノウハウを取り入れながら、ハードルの高い目標に挑戦します。
── 現在は東証スタンダード上場であり、さらに上を目指す中で、既存株主やステークホルダーの方々へ伝えたいことはありますか?
德毛 当社は広告会社という枠を超え、一種の「社会インフラ」としての価値を提供する企業でありたいと考えています。地図を含めた周辺情報を提供するインフラです。
また、強固な信頼関係があるロケーションオーナーに対し、経営課題を解決するソリューションを提供できる存在を目指します。広告による還元以上の価値を創造します。
インフラとしての価値創造と、課題解決のソリューション提供。この二つを軸に成長することで、社会に不可欠な企業へと進化する決意です。
- 氏名
- 德毛孝裕(とくも たかひろ)
- 役職
- 代表取締役社長
- 氏名
- 永井東一(ながい とういち)
- 役職
- 代表取締役副社長
- 社名
- 表示灯株式会社

