本記事は、永井 竜之介氏の著書『13歳からのマーケティング』(総合法令出版)の中から一部を抜粋・編集しています。
すごい技術を「価値」に変える
〜消せるボールペン「フリクションボール」〜
私たちの「普通」は「すごい技術」でつくられてる
日本は、昔から(いまも)“技術大国”として世界で有名です。「メイド・イン・ジャパン」と呼ばれる、日本でつくられるビジネスへの信頼感はとても高いものがあります。
自動車・バイク・自転車は高品質で壊れにくく、食品・アパレル・文具はコストパフォーマンス(コスパ)に優れていて、戸建やマンションなどの建築物は頑強で災害に強く、鉄道やエレベーターといった設備も優れていて、世界的に高い評価を受けています。工場で使われる「商品をつくるための機械」も性能が高く、世界中の工場で採用されています。
海外の人にとって、「日本の普通」が普通じゃないことは、実はたくさんあります。日本の「食」は、海外から驚かれることがとても多い「すごいもの」です。海外の観光客やスポーツ選手が、日本に訪れたときにコンビニのおにぎりやカップ麺を食べ、その美味しさに驚く場面は有名ですね。
こうした商品だけでなく、街中の飲食店もすごくて、レストランなどの格付けをするミシュランガイドでは、東京は星付きレストランの数が世界1位の「美食の都」になっています。高級店だけでなく、利用しやすい値段の店でも、こんなに美味しくて、安くて、いろいろな国の料理が食べられるのは、世界の中で日本だけでしょう。
サービスの技術も同様に「すごい」ものです。電車や飛行機が当たり前のように時間通りに発着する交通サービスが実現しているのは、実は世界の中で日本くらいなものです。ファストフードやファミリーレストランなど、高級ではない店でも、しっかりした「おもてなしのサービス」を提供してくれるのも、日本ならではの特別なことです。苦情への対応、修理やメンテナンスなどのアフターサービスが高水準なことでもよく知られています。
日本で暮らす私たちにとって「普通のこと」の多くは、さまざまな「すごい技術」でつくられた商品・サービスで実現している「特別なこと」です。この事実に、もっと気づいておきましょう。
困りごとを解決して価値をつくる
「もの」(商品)や「こと」(サービス)の高い技術は、技術としてあるだけでは不十分です。しっかり「価値づくり」に技術を活用してこそ、価値あるビジネスをつくることができます。
「消せるボールペン」と呼ばれる、パイロットコーポレーションの「フリクションボール」があります。この商品が生まれたのは、1人の研究員が、葉の色が急に変わる紅葉を見て、色の変化に注目したことがきっかけでした。1975年に、温度の変化で色が変わる「メタモインキ」が開発され、水を入れて冷えると柄が変わるコップなどに使われました。それから30年以上にわたり、この技術の開発はつづけられました。
その一方で、長い間、世界中でみんなが「ボールペンで書いた字が消せたらいいのに」と思いつづけていました。この大きな困りごとを解決するために、進化をつづけたメタモインキの技術が活用されることで、2006年に誕生したのが「しっかり書けて、しっかり消せる」を実現したフリクションボールでした。この「消せるボールペン」は、世界中で大人気となり、2019年には世界累計販売本数が30億本を突破しています。
このように、技術としてあるだけではなく、技術が多くの人の困りごとを解決する“価値ある商品”に活用されてこそ、人・社会に認められ、受け入れられるようになるのです。
専門はマーケティング戦略、消費者行動、イノベーション。産学官連携活動、企業団体支援、企業との共同研究および企業研修などのマーケティングとイノベーションに関わる幅広い活動に従事。主な著書に『人の“行動”と“心理”が見えてくる 13歳からのマーケティング』(総合法令出版)、『マーケティングの鬼100則』(ASUKA BUSINESS)、『分不相応のすすめ 詰んだ社会で生きるためのマーケティング思考』(CROSS-POT)などがある。
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