本記事は、野嶋 康敬氏の著書『社員が幸せと感じてくれる会社のつくり方』(日本実業出版社)の中から一部を抜粋・編集しています。

社員が幸せと感じてくれる会社のつくり方 「顧客本位」がすべてを解決する
(画像=Paylessimages/stock.adobe.com)

「経営品質」との出会いがすべてを変えた

「へえ、世の中にはこんな会社があるんだ……!」
それは、私にとってまさに目からうろこが落ちるような、衝撃的な出会いでした。

2002年、取引先の保険会社が主催する、とある講演会でのことです。壇上に立っていたのは、「千葉夷隅いすみゴルフクラブ」代表取締役社長・総支配人(当時)の加藤重正さん。
その加藤さんの講演は、私の経営に対する固定観念を根底から覆すものでした。
加藤さんの話によると、同社では社員のやりがいと自主性を尊重したマネジメントが徹底されています。たとえば、キャディたちが自主的に「小集団活動」(職場の課題解決や品質向上を目的に、少数の従業員がグループをつくり、グループ単位で行なう共同活動)を行ない、業務改善プランを話しあい、マニュアルを定期的に書き換えています。さらに「全社員が顧客の声の窓口」という意識が社内に浸透しており、お客様との会話から得られた情報を社員間ですばやく共有。問題があれば即日のうちに改善します。
具体的には、お客様がクラブハウスでランチをとる際、注文を取りにきた店員さんに「昨日、少し飲みすぎちゃってね。今日は軽くざるそばでいいかな……」と何気なく話したとします。そうすると、運ばれてきたざるそばのお盆の上には、なんと胃薬がそっと添えられているというのです。それを誰かの指示というわけではなく、社員たちが自主的にやっている。そんなエピソードを聞き、私は心の底から感動したものです。
「お客様に不満は持って帰らせない」「つねに期待を上回るサービスを提供する」。そのしくみこそが、同社の圧倒的な強さの原点なのだと、壇上の加藤さんは熱く語っていました。

話を戻すと、この日の講演で私は「経営品質」の存在をはじめて知ります。
「経営品質」とは、端的にいうと顧客や市場の視点から見た「経営の質」のことです。製品やサービスといった目に見える品質だけでなく、組織が長期にわたって顧客の求める価値を創出し、市場での競争力を維持するための「しくみの質」を意味します(長野県経営品質協議会HPに拠る)

経営品質協議会では、卓越した経営を実践する組織に共通する「しくみの質」として、次の4つの柱を挙げています。

  1. 顧客本位………… 顧客の視点に立ち、顧客から評価される価値の創造を最優先とする
  2. 独自能力………… 競合他社にはない独自の強みを磨き、独創的な価値提供を目指す
  3. 社員重視………… 社員一人ひとりを大切にし、意欲と能力を引き出すことで組織としての価値創造につなげる
  4. 社会との調和…… 社会の一員として貢献し、社会からの信頼を得られる存在となることを目指す

正直に言うと、この「経営品質」という言葉をはじめて聞いたときの第一印象は、「なんだかうさんくさいな」というネガティブなものでした。当時のトップ保険サービスの従業員数は10名程度。それくらいの規模なら、「経営」などという大仰な概念は必要ないだろう、と高をくくっていたのです。
当時の私が理想としていた組織は、弁護士事務所や医療クリニックのようなイメージ。

弁護士や医師というプロフェッショナルが一人いて、あとのスタッフはあくまでサポート役。だから、社長である私一人が「保険のプロフェッショナル」で、エース兼四番バッター。いざとなれば自分がすべて解決できればそれでいいのだ。組織で成果を上げるなんて考え方は、自分の会社にはなじまない─ と勝手に思い込んでいたのです。
ただ、その一方で、会社が順調に業績を伸ばし、お客様が増えていくにつれて、自分一人で対応することにやがて限界が来るであろうことも薄々感じていました。お客様の期待に応え続けるためには、社員も増やしていく必要がある。だとしたら、そろそろ本気で腰を据えて「経営」というものを学び、組織としての成長を模索したほうがいいのかもしれない、との思いも抱えていました。

社員と共に学び始めて組織が変わり始めた

それなら社員の声を聞いてみよう、と思った私は、彼らを集めて一本のビデオを観てもらうことにしました。千葉夷隅ゴルフクラブと同様に経営品質に熱心に取り組んでいる企業「ネッツトヨタ南国」を紹介するビデオです。
修理スタッフも、ショールームの受付スタッフも、社員一人ひとりが主体的に働いている様子が画面には映し出されていました。その様子が、本当に楽しそうなのです。それに、ネッツトヨタ南国でも「営業台数のノルマは設けない」「活動の半分はアフターフォローにあてる」と、奇しくも私たちの会社と似た経営方針をとっている。そこにも強い親近感を覚えました。
ビデオの上映が終わり、私は社員に尋ねてみました。

「…… どうやった?」
「めっちゃ楽しそうでしたね」
「そうやなぁ。で、ウチは?」
「…… ぜんぜん」

一瞬の沈黙の後、返ってきたのはあまりにも正直すぎる一言。私は思わずズッコケそうになりました。
しかし、無理もありません。「社員は私の下請け」「自分の言うとおりに働いてくれればいい」と考えている社長のもとで、社員が楽しく働けるはずがないのです。この社員たちのストレートな言葉は、私の胸に深く突き刺さりました。

この日を境に、経営品質の向上に向けた私たちの挑戦が始まりました。
全社員が参加する「経営品質会議」を毎月開き、ビデオ研修で先進事例を学ぶ。気になる企業があれば、社員と一緒に視察に行きました。
ビデオで見たネッツトヨタ南国に視察に伺った際には、お客様が駐車場に車を停め、降りた瞬間にスタッフが駆け寄り「〇〇様、本日は車検ですね。ご来店ありがとうございます!」と言葉をかけるのを見ました。車のナンバーとお客様の名前、来店目的が全スタッフに共有されており、顧客対応のバトンがスタッフからスタッフへと迅速にリレーされている。その見事な連携に、私たちはただただ目を見張りました。
そして会社に戻ると、次の経営会議で「どこがよかった?」「どうやれば自社に採り入れられるだろう?」とまた全社員で議論する。そうした取り組みを重ねるうちに、「自分たちの会社の課題は、自分たちで発見し、自分たちで改善していくんだ」という主体的な風土が、社内に少しずつ醸成されていきました。
2005年には企業理念を策定。採用の方針も経験者採用から新卒採用重視へと大きく転換し、企業理念を中心とした「自立型組織」を、ゼロから少しずつ構築していきました。

会社が「個の集まり」から「組織」へと生まれ変わり、成長するにつれて、業績も順調に拡大していきます。あれだけ私を苦しめた借金も、2005年に完済することができました。
経営品質との出会いは、まさに、私の経営者としての人生を、そしてトップ保険サービスという会社の運命を、180度変えるターニングポイントとなったのです。

社員が幸せと感じてくれる会社のつくり方
野嶋 康敬(のじま・やすたか)
トップ保険サービス株式会社代表取締役、お客様サービス本部長。1964年生まれ、福岡県出身。上智大学卒業後、東京海上火災保険株式会社(現東京海上日動火災保険株式会社)に入社。約8年、法人営業、支店統括業務を経験。30歳のとき父の会社が破産したことをきっかけに家業を継ぎ、トップ保険サービス株式会社を設立。2002年、代表取締役社長に就任。経営品質との出会いから「顧客本位」を徹底。「自立型組織」のしくみづくりに奔走し、リスクマネジメントや幸せマネジメントをテーマに、年間40回を超える講演活動を全国で行なう。北九州地区空手道連盟理事長(公認五段)、茶道裏千家淡交会北九州支部幹事。プライベートでは3人娘の父。

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