株式会社ピナイ・インターナショナル

大手広告代理店の博報堂を経て、これまで複数のIT関連事業を立ち上げてはM&Aで売却を成功させてきた連続起業家・茂木哲也氏。近年はYouTubeの人気番組『令和の虎』に投資家(虎)として出演し、その冷静沈着な分析と経営者としての誠実な姿勢がビジネス層を中心に大きな注目を集めている。

彼がいま挑戦の舞台として選んでいるのは、一見するとITとは無縁に思える「家事代行」の領域だ。

株式会社ピナイ・インターナショナルを設立、現在は日本初となるフィリピン人家政婦に特化した家事代行サービスを展開し、深刻化する日本の少子高齢化や労働力不足という巨大な社会課題に真っ向から挑んでいる。

茂木氏のこれまでの起業家としての歩み、未曾有のコロナ禍による苦境を乗り越えた組織運営の秘訣とは。さらに、外国人材の活用がいかにして日本経済の成長と未来を支える不可欠なカギとなるのか。その独自の経営哲学と展望に迫った。

茂木哲也(もてき てつや)──株式会社ピナイ・インターナショナル代表取締役
1971年、香川県生まれ、神奈川県横浜市育ち。1994年、慶應義塾大学卒業後、株式会社博報堂に入社。2000年にモバイルコンテンツ開発会社・株式会社ワーキング・ヘッズを創業し、その後も多様なジャンルで事業を展開。いずれもM&Aにより売却し、2016年7月に株式会社ピナイ・インターナショナルを設立。
株式会社ピナイ・インターナショナル
2013年創業、2016年設立の家事代行サービス会社。日本初のフィリピン人家政婦に特化した「ピナイ家事代行サービス」を展開し、東京都・神奈川県・大阪府・兵庫県の一般家庭を中心にサービスを提供。2017年には国家戦略特区における外国人家事支援人材受け入れ事業の適合事業者第一号として認可を受けている。
企業サイト:https://pinay.jp/(ピナイ家事代行サービス)

目次

  1. 連続起業家として歩んだ25年とピナイ家事代行サービス誕生の背景
  2. フィリピン人スタッフに特化し国家資格と徹底した教育で差別化を図る
  3. コロナ禍による3年間の入国制限という最大の壁をいかに乗り越えたか
  4. 富裕層や共働き世帯から一人暮らし層まで。タイパを重視する現代のニーズと「アウトレットサービス」
  5. 家事代行から介護、人材紹介へ。外国人材が日本の未来を支える鍵となる

連続起業家として歩んだ25年とピナイ家事代行サービス誕生の背景

── 茂木社長は連続起業家として知られていますが、これまでの事業の変遷について教えてください。

茂木氏(以下、敬称略) 私は1994年に社会人になり、広告代理店で6年ほど働いた後起業しました。経営者としてのキャリアは約26年になります。現在のピナイを含めて、これまでに4つの会社を立ち上げました。

最初に立ち上げたのは、今のスマホアプリのようなモバイルコンテンツの開発会社です。当時はiモードなどが登場し、携帯電話でウェブブラウジングができるようになった時代でした。占いや天気予報などの公式コンテンツ(月額300円ほどのサービス)を企画・制作し、キャリアのプラットフォーム上で配信するビジネスです。その後、企業向けのモバイルサイト制作や運用へと領域を広げました。

二つ目の会社は、動画配信サービス向けの「エンコード」という専門的な領域です。NetflixやAmazonプライムのようなサービスで配信する動画ファイルを、画質を維持したまま容量を軽くする技術です。この分野では日本でトップクラスのシェアを持っていました。

三つ目の会社は、そのエンコード処理をAWSなどのクラウド上で行うシステムを開発し、企業に提供するビジネスです。数十、数百のファイルを並列処理で一気にエンコードできる仕組みを作り、従量課金で販売していました。

── 常に時代の先端を行く事業を手がけてきたのですね。現在の家事代行サービスにはどのような経緯で至ったのでしょうか。

茂木 IT領域とは一見すると関連がないように見えますが、私の中では共通点があります。それは過去のシナジーを追うのではなく、「これから伸びる市場」に適切なタイミングで勝負をかけることです。

ピナイを立ち上げた起点にあるのは、家事代行をやりたかったというよりも、経営者として日本という国の将来に貢献したいと考えたことにあります。

注目したテーマは、深刻化する少子高齢化でした。この課題に対して経営の視点から何ができるかを考えたとき、行き着いた答えが「外国人材の活用」です。労働人口が減少する日本において、外国人の方々に来てもらい、共に国を盛り上げてもらうことは必須だと考えました。

そんな折、私に子供が生まれ、実際に他社の家事代行サービスを利用する機会がありました。その便利さに感動すると同時に、この領域は女性の社会進出に伴ってさらに成長すると確信しました。

さらに、家事代行分野で外国人のビザが発給されるという情報を得て、すべてがつながりました。当初は国内で永住権などを持つフィリピン人の方をアルバイトで雇用して実験的に始め、ビザの制度が本格的に決まるとともに現在の体制へとシフトしました。

フィリピン人スタッフに特化し国家資格と徹底した教育で差別化を図る

── 競合の家事代行サービスと比べ、御社の強みや差別化ポイントはどこにありますか。

茂木 まず最大の特徴は、スタッフが全員フィリピン人であることです。フィリピンは家政婦育成に力を入れており、国内でトレーニングを積んだ家政婦には国家資格を与えています。また、多くの家政婦が世界各国で活躍しているため、家政婦大国と呼ばれています。

他社でもフィリピン人スタッフを雇用しているケースはありますが、大半は日本人のスタッフが中心であり、結果的にフィリピン人が派遣されることがあるという形です。

一方でピナイは、最初から「フィリピン人の家事代行」という明確なポジショニングを確立しています。

お客様の中には、あえて外国人のスタッフを希望する方が多くいらっしゃいます。プライバシーの観点から日本人が家に来ることに抵抗がある著名人や政治家の方々、あるいは家の中で日本語を使わせず、子供に英語を触れさせたいという教育熱心なご家庭にも支持されています。

── スタッフの教育はどのようにしているのですか。

茂木 教育水準の高さには絶対の自信があります。スタッフは全員、フィリピン国内で家事代行の国家資格を取得しています。さらに、最低でも1年間の実務経験があるプロフェッショナルのみを採用しています。

採用後も、日本に来るまでの8ヵ月から10ヵ月間、フィリピン現地で鬼のように徹底的なトレーニングを重ねます。日本に来てからもさらに1ヵ月間、日本特有の生活習慣やマナーに合わせたジャパナイズ(日本化)研修を実施します。

極端な言い方をすれば「掃除がかなり上手な近所のおばちゃん」対「国家資格を持つプロの清掃員」です。この根本的なスペックの違いと圧倒的なトレーニング時間が、お客様からの信頼につながっています。

コロナ禍による3年間の入国制限という最大の壁をいかに乗り越えたか

── 事業を運営する中で、これまでで最も大きな壁は何でしたか。

茂木 間違いなくコロナ禍です。需要の面では、皆さんが家にこもるようになり「一日中いる家の環境を快適にしたい」と、むしろ家事代行へのニーズは高まりました。しかし、最大の問題は「供給」が完全に止まってしまったことです。

日本の入国制限により、約3年間にわたって新しいスタッフが一人も入国できない状況が続きました。

一方で、ビザの満期(当初は3年、最長で5年)を迎えて帰国を余儀なくされるスタッフは毎月のように出てきます。ニーズはあるのに商品であるスタッフが純減し続けるという、非常に苦しい時期でした。入国制限が解除された後も、滞留していた申請が一気に押し寄せ、入管がパンクして膨大な時間がかかりました。

── 具体的にはどのような対策を講じたのでしょうか。

茂木 一つは、減っていく少ない人数で最大限の売り上げを確保するための「シフトの徹底的な最適化」です。

それまではお客様の要望に合わせて柔軟に枠を組んでいましたが、たとえば11時から14時といった中途半端な枠でお受けすると、前後の時間が空いて無駄になってしまいます。

そこで、お客様にご協力をお願いして強制的に9時から12時の枠に移動していただき、午後も別の現場に入れるようにパズルを組み直しました。

同時に、効率性を上げるため2時間のサービスを思い切って廃止し、3時間に統一しました。このときに作り上げた効率的なシフト管理の仕組みが、コロナ明けの爆発的な成長を支える土台となりました。

もう一つは、教育マニュアルの徹底的なブラッシュアップです。さらに、私自身が「令和の虎」などのメディアに露出し始めたのもこの時期です。

正直に言えば暇だったからというのもありますが(笑)、結果的に社長の顔が見えることで、家の中に他人を入れるというサービスに対する安心感を持っていただくことにつながりました。

── 組織運営において大切にしている哲学について教えてください。

茂木 私の理想は「社長がいなくても回る組織」を作ることです。これまで3社をM&Aで売却しましたが、いずれも売却後のロックアップ期間(経営陣が一定期間残留する義務)はゼロ日でした。つまり、私がその場を去っても、翌日から事業が滞りなく継続できる状態に仕上げていたのです。

経営者の仕事は、常に「先」を見ることです。 私は自分の時間の8割を、5年後、10年後の未来をどうしていくか、そのためにどのタイミングで手を打つかを考えるために使いたいと考えています。そのためには、現場の統制をしっかりと任せられるナンバーツーの存在が不可欠です。

── ナンバーツーを育成し、権限を委譲する秘訣はありますか。

茂木 早い段階で現場の裁量を完全に渡すことです。現場の責任者が自律的に判断し、動ける環境を整えることが、結果として組織の強さになります。

そして何より、経営者は「承認欲求」を捨てるべきです。経営者は往々にして褒められたがりすぎるところがあります(笑)。自分がいないと回らない状況に満足するのではなく、自分がいなくても最高の結果が出ることを喜ぶ。このスタンスを貫くことで、組織は自走し始めます。

富裕層や共働き世帯から一人暮らし層まで。タイパを重視する現代のニーズと「アウトレットサービス」

── 御社のサービスはどのような方々に利用されているのでしょうか。

茂木 大きく分けると、まずは都心に住む富裕層の方々、そして世帯年収が高いパワーカップルなどの共働き世帯です。

特に小さなお子様がいる共働き世帯の場合、仕事と育児で掃除をする時間がまったくありません。「週に1回、数万円で心の平穏と綺麗な家が手に入り、夫婦喧嘩から解放されるなら安いものだ」と合理的に判断される方が多いです。水回りを週に1回ピカピカにリセットすれば、1週間は快適に持ちますから、掃除のコスパは非常に高いのです。

さらに最近増えているのが、一人暮らしの若い方々です。彼らはタイムパフォーマンス(タイパ)を非常に重視しており、「自分で掃除をするくらいなら、その時間を外注して自分は稼ぐことに時間を使った方がコスパが良い」と考えます。

そうした方々に非常に人気なのが、弊社の「アウトレットサービス」です。

弊社のお客様は9割以上が定期利用なのですが、急な体調不良やご旅行などでキャンセルが出ると、スタッフのスケジュールに穴が空いてしまいます。

この空いた枠を、ホテルの空室を安く売るような感覚で、1時間1,500円からの格安料金でオンラインで提供しているのです。

実は、日本の家事代行スタッフの大半はアルバイト契約ですが、私たちが海外から受け入れるフィリピン人スタッフは、ビザの要件上「正社員」として雇用しなければなりません。つまり、仕事があってもなくても固定の給料が発生します。

だからこそ「スタッフの空き時間を浮かせておくのはもったいない」という発想になり、この革新的なアウトレットサービスが生まれました。外国人材を正社員雇用している弊社ならではの強みです。

家事代行から介護、人材紹介へ。外国人材が日本の未来を支える鍵となる

── 今後の展望や成長戦略について教えてください。

茂木 まずは家事代行サービスのエリア拡大です。現在は国家戦略特区という特殊な枠組みの中で、東京、神奈川、大阪、兵庫で展開しています。今後、千葉や福岡など特区が広がるのに合わせ、より多くのお客様にサービスを届けます。

さらに、今年の春からは外国人専門の人材紹介サービスを開始します。現在、日本には約400万人の外国人がいますが、特に「特定技能」というビザは転職が可能であり、外国人材の流動性は今後さらに高まります。彼らがより適正な場所で働ける転職市場の環境を作ります。

また、深刻な人材不足に悩む介護分野への進出も視野に入れていますし、外国人が日本に来てよかったと思えるような、安くて快適な「ハウジング(住居)」の提供など、生活支援も含めた総合的なプラットフォームを目指しています。

── 深刻な労働力不足に直面する日本企業は、今後どのように外国人材と向き合っていくべきでしょうか。

茂木 これからの日本において、外国人材の活用は企業の存続を左右する最重要課題です。AIがどれだけ進化しても、家事や介護、建設など人が実作業を伴う分野は代替できません。安定的な人材確保のために、外国人材をいかに戦略的に受け入れるかが勝負の分かれ目になります。不安もあるかと思いますが、まずは目を向け、積極的に手を打った企業がこれからの時代を勝ち残ります。

ピナイもこれまで500人以上のフィリピン人スタッフを雇用してきましたが、彼らは本当によく働き、一生懸命です。自社に合った活用の仕方を掴めば、日本人以上に定着し、大きな力になってくれます。外国人材と共に、日本の未来を切り開いていきましょう。

氏名
茂木哲也(もてき てつや)
社名
株式会社ピナイ・インターナショナル
役職
代表取締役

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