ソニー <6758> は3月17日にウェアラブル端末「SmartEyeglass Developer Edition」をアプリ開発者向けに発売する。これはグーグルの「Google Glass」と同じ、透過型ディスプレイに文字や絵を表示させ、あたかも現実の世界に情報があるように見せる拡張現実ウェアラブル端末だ。ウェアラブル端末は、ソニーやグーグルの他にも、セイコーエプソン <6724> 、東芝 <6502> 、日立 <6501> などが開発、市場参入を予定している。

一見すると「Smart Eyeglass」は他社の製品と大きく違っているようには見えない。技術面も他社と比べて革新的というわけではない。また、購買意欲をそそるようなインパクトがある個性的デザインでもない。この「SmartEyeglass」には、世間が期待するような、いわゆる「ソニーらしさ」はないのだ。過去のような素晴らしいプロダクトを生み出す力をなくしてしまったのだろうか。もう「自由闊達にして愉快なる理想工場」ではないのだろうか。もしかしたらそうなのかもしれない。

しかし、このソニーらしさを感じられない「SmartEyeglass」を、2月18日に発表されたソニーの2015~2017年度中期経営方針を通してみると、この商品に込められたソニーの意志を推察できる。


中期経営方針からみる「SmartEyeglass」の位置づけ

ソニーの2015~2017年度中期経営方針では、事業ポートフォリオを「成長牽引領域」、「安定収益領域」、「事業変動リスクコントロール領域」の3つに分けている。「安定収益領域」であるイメージング・プロダクツ&ソリューション分野とビデオ&サウンド事業で経営の基盤を固めつつ、「成長牽引領域」のデバイス分野、ゲーム&ネットワークサービス分野などの成長に向け積極的な投資をする。そして「事業変動リスクコントロール領域」のモバイル・コミュニケーション分野とテレビ事業では、市場の変化に機敏に対応してリスクを抑えていく戦略だ。

では「SmartEyeglass」はどの分野にあたる商品だろうか?その特長のひとつにスマートフォンとの連携がある。それならばモバイル・コミュニケーション分野の商品だと思えるが、上述したように、この分野は市場変化への対応次第では、ソニーから切り離される可能性がある。そのような分野に実験的な商品を出すとは考えにくい。

むしろ、特定の分野の商品ではなく、デバイス、ゲーム&ネットワークサービス、映画、音楽すべての分野にまたがり、相乗効果を生み出すための商品である可能性がある。その視点から考えると「成長牽引領域」の商品と位置づけることができる。また、本体には加速度センサー、ジャイロスコープ、電子コンパス、照度センサー、カメラ、マイク、タッチセンサー、スピーカーなどが組み込まれている。「SmartEyeglass」の売上が伸びるほど、デバイス分野も潤う事となるのだ。


ウェアラブル市場の「一等地」を獲得するための布石

2014年のIFAでソニーの社長兼CEOの平井一夫氏は、日本人記者向けインタビューで「ウェアラブルは『不動産』です。腕につけるブレスレットは2つまでだし、メガネは1つ。4つはかけられません。その場所を占めた後の参入障壁は非常に高く、一等地の確保が重要です」と述べている。(西田宗千佳のRandomTracking 2014/9/5 07:00より)

すでにこの一等地争いは始まっている。優劣はアプリケーションの充実度が左右するだろう。ゲーム、映画などアプリケーションを変えるたびにウェアラブル機器を付け変えるのは非常に不便だ。特にメガネというウェアラブル機器の超一等地を獲るには、できるだけ多くのアプリケーションに対応できる機器の方が絶対に有利だ。

そのため、ソニーのウェアラブル機器はソニーが成長領域として位置づけているゲーム、映画、音楽分野のソフト事業が強みとなるのだ。これまでもソニーは、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)などの機器と映画やゲームのコンテンツで、没入感あるユーザー体験を積極的に提案している。スマートフォンとの連携にも意味がある。「SmartEyeglass」はまずアプリ開発者向けに発売される。これはいち早くユニークなアプリケーションを獲得すること、そして現在のスマートフォンでできることをこのウェアラブル機器で、より高いユーザー体験とともに提供しようという狙いだ。

現在のスマートフォンがこの先もこのままの形状であるとは考えにくい。部品やバッテリーの技術開発が進めば、新しいウェアラブル機器が一気にスマートフォンを通信市場から駆逐するだろう。

つまりソニーは、スマートフォンの次を見据えているのだ。スマートフォンに注力するのをやめ、次世代の通信端末市場をウェアラブル機器で巻き返そうとしている。

一見、「SmartEyeglass」にはなんのソニーらしさを感じることができない。しかしこのデバイスには、経営を立て直すことが最優先であるソニーの現状にあって、地味かつ着実に「ものづくりのソニー」復権への意志が込められているように思う。(ZUU online 編集部)

【関連記事】
2014年の不動産取得額1兆円近く?外国人投資家にとって日本の不動産が割安に見えるのはなぜか
生ける伝説「バフェット」の投資哲学 株価ではなく企業の資質を見抜け!
日経新聞も?過去1年分の新聞記事が全て閲覧可!ネット証券、最新情報サービスが凄い
2015年3月末の“長く持つほど得をする”株主優待銘柄6選!
10万円以下でも買える?2015年の目玉LINE株を上場前に買う2つの方法