(写真=リフォーム産業新聞)
サンゲツ 安田正介社長
【プロフィール】
1950年3月2日生まれ。73年3月一橋大学経済学部卒業。同年4月三菱商事㈱入社。2004年4月三菱商事㈱執行役員機能化学品本部長。08年4月同社常務執行役員中部支社長。12年6月同社顧問。同月サンゲツ社外取締役就任。14年4月代表取締役社長就任。
権限委譲、ROE経営...多様な改革
インテリアのトップ企業として今や国内5割のシェアを持つサンゲツ(愛知県名古屋市)。これまで創業家の日比一族を中心とした経営によって成長を遂げてきたが、昨年4月に、三菱商事出身の安田正介氏が社長に就任した。創業家以外からの初のトップになって1年余、これまで実行した改革、さらには今後の方向性について話を聞いた。
事業基盤の整備を
■本誌は1987年、住宅リフォーム市場をターゲットにしながらも当初、題号は「インテリア産業新聞」でスタートしたんです。その当時からサンゲツさんはトップ企業で、かつ日比一族による経営の会社として知られていました。安田社長とサンゲツの出会いはいつ頃からですか。
私は三菱商事で化学品、樹脂の担当をしていて、今から20年近く前に、日比賢昭さんのところに来ていました。
■結構長い付き合いなんですね。日比賢昭さんは50年にわたってサンゲツの社長を務めて町の表具屋にすぎなかった山月堂を今のサンゲツという大企業に成長させた。しかし、マスコミには会わないんで、パーティーで名刺交換したくらいです。
実は私も賢昭さんとはそんなに話せていないんです。私が三菱を辞める時に訪ねて来られ、社外取締役をやってほしいと言われてオーケーしたら、その後すぐにご本人が亡くなられてしまったんです。
2012年の6月末に私が入って、9月末に亡くなり、それこそ二言三言しか話ができなかった。それから今の会長が社長を継がれて、1年半後に私に社長を交代しました。
■インテリアの業界では「サンゲツ=日比賢昭」というイメージが強かったから、安田?Who?って感じだったのでは。
入社当初「あなたは7代目の社長だ」と言われたんです。確かに創業の嘉永年間から数えるとそうだけど、僕は別に家業を継いだのではないんで勘弁してくださいって(笑)。
■ところで、社長になられて発表した中期経営計画の一つに事業基盤の整備を挙げています。
例えば従来の人事制度がそぐわなくなってきている。これをやりなおしましょうと。いままで昇進昇格の客観的な基準が未整備だった。
これを整備すると。給与制度については、やはりサンゲツで働く安心感という基本線は維持しつつも、頑張った人間が報われるよう、働きに応じたものにしようと。今、骨子ができていて正式には7月1日付で発表しようと考えています。
■メーン商材である壁紙などの商品開発・営業の分野で新たに整備し直した点はありますか。
組織的には、壁、床、カーテン、そして新規と海外という5つの事業部があるのですが、壁、床、カーテンの3事業部に関しては、それぞれの事業部の権限で「商品開発」、「購買」、「マーケティングの基本政策の決定」を任せるようにしました。
今までは日比賢昭さんに全部集中していて、彼がすべてを決めていました。壁、床、カーテンを3つに分けるとバラバラになるんじゃないかという議論もあって、それをバラバラにしないで、しかし権限を分散、委譲を進めて自立的にやらせるようにした。
3つを束ねる事業部も作り、かつそれを社長が直轄で見るようにしています。この組織改革は去年、第1弾としてやりました。
■商品開発の方法も変わってくるのでしょうか。
今年の4月1日に第2弾として、各事業部の営業課長といった中堅ベテランどころを本社に持ってきました。商品開発力を強化するためです。
私は「市場起点」といっているんですけど、今までは、明確に、賢昭さんが作った商品をみんなが売るという仕事でありました。それは、現実的にはいろいろな問題があると。やはり本当にサンゲツの商品が市場の要求に合致しているかどうかという問題があるとも思うし、もう一回、市場起点の商品化というものをやりたい。
■サンゲツはトップ企業だけど、生産設備を持っていないブランドメーカーですよね。そのあたりの違いは、例えば、社員数に表れていて、同じ年商規模の例えば住設メーカーのクリナップとか、タカラスタンダードだと、御社の3倍以上の人員を抱えています。商品力強化という面では、こうしたことを考えていく必要があるのでは。
うち自身が工場を作っちゃうっていうのは考えていない。やっぱり、僕自身が商社マンであるっていうこともありますけど、ものづくりが一番難しいですよ。商品差別の大きいものになればなるほど、私ども自身がそうノウハウがない中、自分たちがそこに出ていくのは考えにくい。
リフォーム需要の把握から
■各メーカーとも、今はリフォーム商流での拡販を強化しています。社内にリフォーム事業強化のための推進部署を立ち上げたそうですが、このマーケットでの事業をどう分析していますか。
住宅リフォームにおいてインテリアは非常に受動的な仕事で、例えば水まわりリフォームに付随して行われたり、もしくは、大型リフォームの中で行われたりするもの。
かつ、そこで使われる商品は買う側にしても、売る側にしても、通常のセールスチャンネルの中で出ていくので、どの商品が、どのようにリフォームに使われたのか、さらに、今日出て行った商品はリフォームなのか、新築なのかっていうのも把握できていない。
■まあ、実際それが現実でしょうね。
だから、リフォームが大事だって言っていても、実際に起きているのは受動的であり、見えない、不可視である。これをやっぱり変えなくちゃいけない。
先ほどの話にもつながるのですが、基本的に今までのビジネスモデルは、商品ありきで、商品ができたら見本帳を作って、営業が見本帳を担いで、代理店さん、もしくは直接業者さんに渡して、お客さんに流れていって、ものが売られていくというもの。
その結果として、マーケットで何が起きているか分からない状態だと。これをこのままにしておくわけにはいかない、という問題意識です。それに、尽きます。
能動的な仕事にできるかどうかはまだ分からないけれども、少なくとも見える化、もしくは知見の向上を図らないと、どうしてこの内装材が、実際にどう流れて、かつ、どういう需要が個々のお客さんにあるかということをまずつかまないと、対策を立てようもない。
■安田社長自身、リフォーム会社のトップに会ったり、精力的に情報収集されていますが、本来インテリアは一番ユーザーに身近で、提案の仕方次第ではリフォームの潜在ニーズは大きいと思います。
究極的には、私どもが能動的に需要を起こし、需要自体が直接つかめるような体制作りをしたいが、まだとてもそんなことをエラそうに言える段階ではないと。やはり基本的には、末端のリフォームのお店やハウスメーカー系の方、いろんなところに行って、私どもが声を聞くっていうことをやるしかないと今は思っています。
ROEの数値目標を
■昨年の6月にはROEを重視した経営方針を発表しました。
中期経営計画を発表した中でROEを打ち出しました。今回の計画は14年度、15年度、16 年度になりますが、16年度の目標はあくまで純利益63億円だけなんです。それだけじゃ、方向性としてちょっと説得力がないと。
ただ、この14、15、16というのは、あくまで将来の成長の基盤作りである、仕込みの時期だという位置付けをしているので、ここで大きな収益の拡大をやるということを申し上げている訳ではないけれども、次の中期経営計画、すなわち17、18、19年度の19年度はROE8%~10%の達成を目標とします、という言い方なんです。
■その後、日経新聞などの大手メディアでもサンゲツのニュースが目立ちました。
去年11月に資本政策を発表して自社株買い、増配ということによって自己資本を100~200億減らします、という言い方をしている。これは、決してROE8%~10%を達成させるためにというよりも、株主還元を、といっているわけです。
けれども、当然付随的にROEのための効果はありました。ただ、計算すればすぐに分かるんですけど、100~200億円自己資本を減らしても、8~10%なんてとても達することができない。収益そのものを上げないと達成できない。
■株価は上昇しストップ高になりましたね。
そのあと、また落ちだして元に戻った。そんなもんかと思いました。一発目の具体策として30億円の自社株買いを発表して4月30日までやりますよって言っていたら、それが2月の頭で終わっちゃったんですね。早めに終わったので、4月30日までもう30億円やりますって打ち出したら、またガーッと上がった。
マーケットっていうのは分からないものですけど、意外と本気かな、と見られた。それと株式マーケット自体が今いいから、どっちがどっちとは言えないけれども。時価総額は就任時に1200億円弱でしたが、今は1400億円ほどです。
■今後、東京のショールームが移転して、大きく生まれ変わると聞きました。
今、東名阪、岡山、広島、九州と6カ所のショールームがありますが、東京を変えます。新ショールームは600坪くらいの広さで、今のアークヒルズにあるのが350坪ですから倍くらいになります。テーマは、デジタルとライフタイル。展示はコーディネーションを提案できる内容にして、壁と床をシミュレーションできるようにする考えです。(提供: 6月9日 リフォーム産業新聞 掲載 )
【会社概要】
設立 * 1953年4月(創業は嘉永年間) / 資本金 * 136億1610万円
売上高 * 1320億円(2015年3月期・連結) / 従業員数 * 1145人(2014年3月期)
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