(写真=PIXTA)
アベノミクスの影響で日本の経済は成長への一歩目を踏み出しました。日経平均株価は、8月下旬に中国の経済失速懸念から発生した世界の株価の乱高下によって2万円台を割り込んだものの、再度2万円台突破へ向けて上昇を続けています。しかし急速な好況は、投資家にとっては不安要素でもあります。隣の中国では不動産バブルの崩壊が懸念され、日本でも同じことが起こるのでは?と考える投資家の方もいるのではないでしょうか。今回は不動産バブルはどのような仕組みで発生し、崩壊していくのか、現在の日本で不動産バブルの発生・崩壊が起こる可能性はあるのか、解説していきます。
不動産バブル発生のメカニズム
そもそも不動産バブルはどのようなメカニズムで発生するのでしょうか。バブルを一言で言うと『根拠なき熱狂』です。ある資産の価格がその資産のファンダメンタル価格から乖離していると、投資して利益を上げる機会が存在することになります。
不動産の場合のファンダメンタル価格とは、その資産から得られる利益の現在価値の合計です。投資家がある不動産を10年後に売却するとし、その10年後まで毎年100万円の収益をもたらし、売却時に500万円の利益が得られると予想したと仮定します。するとこの不動産のもたらす利益の合計は「(100万円×10年)+500万円」となります。このときの不動産のファンダメンタル価格は1,500万円となります。もしも投資家が不動産からの収益が今後減少していくと考えれば、ファンダメンタル価格はこれよりも小さくなります。収益が毎年5万円ずつ減少していくとしたら、1年目は100万円、2年目は95万円、10年目は55万円になります。この不動産から得られる収益の合計は、500万円+775万円=1,275万円となります。現在の不動産価格がこれよりも高ければこの物件は割安であるため、投資家はこの不動産を購入するでしょう(現在価値の計算は複雑になるため省略しています)。
通常市場で取引されている資産は、すべてこのファンダメンタル価格に対して割安か割高になっています。割高の資産は誰も買わないため価格が引き下げられ、割安の資産は多くの人が買おうとするため価格が引き上げられます。こうした取引が繰り返されると、理論上の価格であるファンダメンタル価格に、実際の取引価格も一致していきます。
しかしこれは理論上の話です。実際には資産の価格がファンダメンタル価格から乖離する状況が長期的に続くこともあります。これがバブルです。なぜファンダメンタル価格から乖離してしまうのでしょうか。ある資産から得られる収益がより高いと予想されれば、投資家は多少資産が高くても資産を購入します。たとえば長期的な金融緩和政策がとられれば、低金利が続くと市場が予想し、資産価格が上昇します。しかし金融緩和政策は永遠に続くものではありません。金融緩和が縮小されれば利子率が上昇し、資産価格が下落します。得られる収益が減少すると考えられると、投資家は資産を売りに転じ、資産価格はさらに下落するようになります。これがバブルの崩壊です。不動産バブルも株式市場のバブルも、同じ原理で発生します。
資産価格が上昇しても、たとえば実体経済が成長しているとか、人口の増加による不動産需要の高まりなどの根拠があれば、バブルとは言いません。しかしそのような根拠がなく、強気の期待という熱狂によって資産価格が上昇してしまったときには、バブルだったと言えます。
80年代日本での不動産バブル
バブルの芽
80年代後半から90年代初頭にかけて日本で発生したバブルの生成・崩壊について見てみましょう。日本のバブル経済の発生とその崩壊には、金融緩和政策が長期化したことが背景にあります。
金融緩和政策の原因の一つに1985年のプラザ合意があります。80年代に日本の製造業が国際競争力を増し、自動車の輸出ラッシュなどで米国の貿易赤字が問題化したことでドル安誘導のためのプラザ合意が結ばれました。
プラザ合意をきっかけに円高が進み、今度は日本の製造業が苦しくなったので円高阻止のために、日銀に対してさらなる利下げ圧力が加わりました。80年代の日本は国内にバブルの芽があるなかで、日銀がさらなる利下げに踏み切ったことで、バブルに拍車が掛かりました。なお、日銀が引き締めに転じるのは1989年の公定歩合の引き上げからです。
カネ余り
バブルのきっかけとなったのは金融緩和政策だけではありません。円高と国際市況の低迷によって日本企業は多額の余剰資金を抱えるようになりました。この余剰資金を設備投資だけでなく資産への投機に利用したため、バブルが発生したのです。企業の余剰資金が資産市場、特に不動産市場に向かったのには『景気回復による資産価格の上昇』や土地価格は下がらないという『土地神話』が背景にありました。余剰資金がこれらの資産へ向かい、取引が拡大したことでさらに資産価格は上昇し、民間銀行は強気で企業に貸し出しを行いました。民間銀行は貸し出しの審査を甘くし、建設業や不動産業、流通業などの不動産に関連する企業に莫大な資金を貸し出します。銀行から貸し出しにくい融資は子会社(ノンバンク)を通じて融資され、これが後に莫大な不良債権となります。
バブルの崩壊
このようなバブル経済を崩壊させたのは、金融政策の変更です。1989年5月に日銀は公定歩合を引き上げ、金融引き締めに政策を転じました。また、1990年3月には当時の大蔵省が金融機関に対して、不動産向け融資の伸び率を総貸出の伸び率以下に抑えるよう行政指導を行いました。いわゆる『総量規制』です。
金融引き締めと総量規制の導入をきっかけに資産価格は暴落に転じ、バブルは崩壊しました。不動産バブルの崩壊によって、不動産開発業者は巨大な過剰ストックを抱えてしまい、ストック調整に長い時間を必要としました。
では、現代の日本で不動産バブルが発生する可能性はあるのでしょうか。結論から言うとまったく可能性がないことはないものの、非常に低いと考えられます。なぜなら日本の大企業の銀行からの融資は80年代に比べてずっと少なく、銀行も貸し出しの審査は当時よりずっと厳しくなっているからです。また株主の発言力が当時よりもはるかに強くなっており、企業が投機的な投資に走る可能性は非常に低くなっています。
またバブル崩壊の経験から、政府による金融市場の規制も当時より洗練されています。政府も、銀行も、企業も、もちろん個人も、バブル崩壊の経験から学んでいるのです。
これらの背景から、現在は資産バブルも不動産バブルもほとんど発生していないと言えるでしょう。不動産市場は好況ではありますが、ファンダメンタル価格から大きく乖離しているわけではなく、むしろ景気の低迷から抜け出して正常な水準に戻っている最中であると言えるでしょう。
中国経済と不動産バブル
しかし世界経済の不安要因となっている中国の不動産バブルはどうでしょうか。現在の中国は当時の日本と似た状況にあり、中国経済の失速懸念から始まった株価下落はバブルの崩壊が始まったのではという見方もあります。中国は共産党主導で、政府が国有地を開発業者に貸し、銀行、国民から集めた資金を使って住宅やオフィスビル、インフラを建設していました。
政府主導で不動産市場を活況にすることで、不動産市場を柱として経済成長を支え、実体経済の好況がさらに不動産市場を成長させるというサイクルが生まれていました。しかし2014年から2015年にかけて、中国の各地で不動産価格が下落に転じ、不動産バブルは徐々に崩壊していると言われます。
80年代の日本で起こったような、資産価格の下落、信用収縮、過剰ストック、需給の不均衡、不良債権の発生と隠蔽などが中国でも起こっています。ただし、中国政府は中国経済の安定化のためになりふり構わない介入を実施するおそれがあるため、今後の中国政府の動向から目が離せません。
※この記事は2015年9月4日に掲載されたものです。
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