配当は本来であれば株主の損得はゼロだが…

配当利回りは個人投資家の関心が高い指標だ。株価に対する一株当たり年間配当金の比率であることから金利と同じように解釈され、昨今のゼロ金利時代には債券や預金より株式の利回りが高いと考える投資家が多い。

しかし配当は金利ではない。配当を支払うと企業資産が減り、理論的には株価がその分下がるため、株主の損得は本来ゼロである。ただ、株価は配当落ちを埋めることが多いため、何となく得したような気分になり、株価がその分割高になっていることはあま余り意識されない。

バリュエーション比較時の注意点

バリュエーションを他社と比較する場合はよく注意する必要がある。例えばA社はPERがB社より高いから割高だとは言い切れない。A社の利益成長のほうが高ければ資産の増え方が速く、PERも高くて当然だからである。バリュエーションには企業の潜在成長率が反映されていることを覚えておきたい。

PBRも同様で、他社比較にそれほど意味があるとは思えない。その理由のひとつは、業態によって保有資産の額が大きく異なることで、例えば素材産業が多くの土地や工場を保有する一方、ゲームソフトのメーカーは資産が少なく、したがって必要資本も小さい。

また、同じ業種であっても借入金と株主資本の構成割合(資本構成)次第でPBRに大きな差が生じることがある。いずれも比較企業のどちらが割安とは必ずしも言い切れない。

「PER=株価÷EPS」という算式を、「株価=PER x EPS」に置き換えてみると、株価はPERかEPSのどちらか、あるいは両方が高くなれば上がることになる。多くの場合、株価は利益の増加に伴って上昇するが、バリュエーション(PERが高くなる)が切り上がることで上昇することもある。

これは例えば、画期的な製品やサービスを新たに開発したために先行きの利益成長が高まるとか、買収企業が現れて資産価値が上がる、など新たな期待が加わって突如として起こることが多い。

言い換えれば、成長力や資産価値の潜在的な変化が高まることがバリュエーションの切り上げ、あるいは切り下げにつながるわけである。

バリュエーション比較は逆方向から考えると新たな発見も

潜在成長力という観点からひとつ付け加えておこう。前述のように、日本市場は海外市場に比べ上昇余地が高いという見方が多い。確かに日本のTOPIX(東証株価指数)の直近PER14倍ちょっとに対し、例えば米国市場は16倍程度だ。ただ、経済の潜在成長率は日本が1%にも満たないのに対し、米国は2%程度と高い。

極端な例だが、かりに両国に国内事業しか持たない似たような会社があったとすると、日本企業の利益成長が10%であれば米国企業は20%となり、1年後の利益をベースにすると日本企業のPERは12.7倍(14倍÷110%)、米国企業は13.3倍(16倍/120%)となる計算だ。

果たして日本株には相対的な上昇余地がそれほどあるのだろうか。バリュエーション比較は単に数字をみるのでなく、なぜ格差がついているのかと逆方向から考えてみるとのも有効であることが多い。 (ZUU online 編集部)