(1)平成27年度税制改正の大綱には、「現下の経済情勢等を踏まえ、デフレ脱却・経済再生をより確実なものにしていくため、成長志向に重点を置いた法人税改革、高齢者層から若年層への資産の早期移転を通じた住宅市場等の活性化のための税制上の措置を講ずる。~」とあり、固定資産税に関連した今後の対応方針等については記述されていない。しかし、総務省の税制改正(案)には、固定資産税の充実確保、税負担の均衡化の検討を行うことが記述されている。
(2)ミクロ経済では資産選択理論に基づき、将来の地代収入の割引現在価値(ファンダメンタルバリュー)に基づく地価決定の理論式Pt=rt/(i-g+τ)がしばしば用いられる。ここで、Ptはt期の地価、rtはt期の地代、iは代替資産の収益率、gは地代上昇率(将来の期待上昇率で一定。ただしg (3)宮崎智視・佐藤主光(2011)「応益課税としての固定資産税の検証」内閣府経済社会総合研究所「経済分析」184号、林勇貴(2014)「応益原則から見た固定資産税の評価~ヘドニック・アプローチを用いた実証的研究」などがある。
(4)特例により東京都23区では、都が課税する。
(5)総務省による「税負担軽減租関係」資料がネット上で得られ、この特例による平成22年度減収見込み額は4兆円との記載があるが、現状で土地からの税収が4兆円弱であるから、この数値は疑わしい。ただし、本則化した場合は大きな増税になることは確かである。
(6)この特例による平成22年度減収見込額は上記(5)によると1,447億円である。平成13年度における銅賞「地歩税関係資料(非課税特
別措置)では、新築住宅の2分の1特例の減収額は770億円となっている。特に脚注(5)の減収額については取り上げられていない。
(7)佐藤和男(2000)「固定資産税制改革と今後の課題~平成12年度改正論議をふりかえって~」土地総合研究所「土地総合研究」第8巻第2号(2000年春)による。
(8)内閣府統計局「国民経済計算年報2013年度確報(平成25年度)」ストック編、土地の資産額の都道府県別内訳(民有地)に基づく。
(9)住宅地の課税評価は特例によって商業地よりも優遇されているために、商業用途に使われるべき土地が賃貸等の住宅用途に使われ、土地利用の混乱と非効率化をもたらしたという見方がある。しかし、この背景には20数年にわたる長期の地価下落と実効税率の上昇という極めて異常な状態に直面した土地所有者の特殊事情がある。わが国の土地利用の混乱は税制の責任も否めないが、欧米に比べて規制の緩やかな用途地域制度の下、こうした特殊事情が働いたためと言えよう。欧米の大都市においても、住宅地が商業地よりも優遇されるのは一般的であり、日本の住宅地への特例措置が珍しいわけではない。それにもかかわらず土地利用の混乱が少ないのは、厳格な土地利用規制が行われているためである。筆者が知る限り、土地利用の混乱として欧米で報告された事例としては、シカゴ等において、工場等の施設が居住施設に過剰にコンバートされる事態が生じたこと程度である。しかし、これは地域経済や産業の変化に対応した政策的誘導に始まったものである。逆に土地利用規制が厳しいため、商業地の衰退や荒廃、空地が問題となり、規制緩和による都市再生事業が展開されてきた経緯がある。米国では居住・商業用に関わらず1~1.2%程度の比較的低めで一律の財産税率(固定資産税率)を課す自治体もあるが、同時に居住世帯の状況(高齢者や障がい者世帯、世帯人員数、所得等)により課税標準の減額や税額控除、補助等を行っており、実質的に居住者への負担を政策的に軽減している場合がよくみられる。米国の財産税額は持家の場合でも連邦所得から控除できる(概算控除ではなく実額控除の場合)ので、財産税の実効税率は限界税率分だけ軽減されている点に留意が必要である。
(10)総務省「平成26年度固定資産の価格等の概要調書(土地都道府県別表)」による課税標準の比率。ここでいう三大都市圏は、茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、東京、神奈川、山梨、岐阜、愛知、三重、滋賀、京都、大阪、兵庫、奈良、和歌山による都府県。
(11)主に固定資産税。毎年定期的に不動産所有に対し課される各国の地方及び国の税目の税収合計。富裕税や相続税、流通税などは除く。以下、OECD歳入統計を用いた分析では保有税という表現を使うが、実質的にわが国の固定資産税と同義である。
(12)政府や税調などの資料において、GDP比率は、こうした観点からよく用いられている。また、分母に社会保障費を含め、国民所得で除したものは国民負担率、総税収(=国税+地方税)を国民所得で除したものは租税負担率と称されている。
(13)古くは地租・地代収入に対する課税だったが、その後、地代や賃料収入は所得課税や法人課税の対象になったことに加え、土地の評価額に基づいて課税されるのが固定資産税である以上、課税方法から実務的に固定資産税は資産課税である。
(14)平成6年における日本の土地資産額/GDPは3.8である。平成2年のピーク時には5.4であり、バブルによって資産価額が上昇していた結果である。
(15)米国のように税負担の軽い国(総税収のGDP比率が低い)と日本とを、保有税の総税収比率で比べても仕方がないという議論もあるが、G7中、GDP比率では日本は米国に次いで税負担が少ない。イギリスは総税収のGDP比率は日本よりも高いが、日本の保有税の総税収比率はほぼイギリスと同等である(資産課税の総税収比率はイギリスを超えている)。
(16)米国の固定資産税は財産税(PropertyTax)と呼ばれ、州毎に税率や特例措置等は異なるが、課税評価は原則市場価格による。
(17)現在の加盟国は34ヶ国である。加盟国名は、http://www.oecd.org/tokyo/about/members.htmを参照。
(18)たとえば、1980~84年については、同期5年間の平均値から1975~79年の5年間の平均値を差し引いた変化量を指標とした。
(19)原田泰・井上裕行(1991)「土地・住宅の経済学」他にならった。
(20)保有税収の総税収比率'(保有税収比率)の上昇は、保有税収増とほぼ同義と考えられる。自然な経済成長率の変化等は、保有税の総税収比率に対し中立的である一方、実際に保有税収比率が上昇するのは、7割評価を導入した場合や、今後、法人税減税分を他の税目、仮に固定資産税で補おうとした場合などにしか生じないからである。つまり、保有税収総額をAtaxとすると、 固定資産税 計算式3 となるので、保有税収比率と保有税収総額が意味することは結局ほぼ同じになる。
(21)消費税は取引時点で家屋等に対し一括で課せられる。しかし、本来、消費税は、当該建物家賃の将来の住宅サービスの消費に対して課せられるべきであるところ、実務的には徴税が難しいことから、将来の課税分の現在価値に相当する分を取引時点で一括して支払っていると考えることができる。そうみると、家屋に対する消費税は、実際には家屋の固定資産税の一種とも考えられ、消費増税は、家屋という不動産に対する固定資産税の増税と同義という見方もできる。また、消費増税は住宅取引に際しては、短期的には駆け込みと反動減を生み、市場を見出すため、軽減税率や還付制度が必要という議論もある。

篠原二三夫
ニッセイ基礎研究所 社会研究部

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