保有税収の負担増や総税収比率の変化は不動産価格に影響

保有税収の負担増や総税収比率は、当該国の不動産市場にどのような影響を及ぼすのだろうか。ここでは、歳入統計とともに、OECDが整備した加盟国の住宅価格指標を用いて、保有税の税収比率(保有税収比率)が近年の住宅価格変動に及ぼす影響を調べてみた。

この住宅価格指標は、近年における米国やEU、新興国などの住宅価格変動が、各国経済に大きな影響を与えたことから、住宅価格の変動をモニターする重要性を念頭に整備されたものである。

現時点では、加盟国のうち必要な情報が提供されている32ヶ国について、1970年第1四半期から2013年第4四半期までの4半期別の季節変動調整済み価格による指標が、名目及び実質ベースで整備されている。ただし、日本だけは住宅価格統計や価格指標が整備されていなかったため、住宅地価によって代替されている。

本論では、この住宅価格指標と歳入統計から一定期間の統計値を得ることができた20ヶ国を対象に、2つの指標の関係ついて分析した。各国の評価制度や税制、市場状況には個別性が強いことから、この分析では、大まかでも一定の関係を把握できるように、1975~79年、80~84年、85~89年、90~94年、95~99年、2000~04年、2005~09年、2010~13年の8期間のデータを比較する簡便な方法を採用した。

保有税収比率については、各期間の平均値をとった上で、さらに各期間の変化量を用いた(18)。住宅価格(実質)については、4半期別の対前年変化率を求めた上で、各期間の平均値を用いた。これら2指標の20ヶ国における単純平均値の動き及びG7各国の動きを示したのが表1、20ヶ国平均値とG7の動きをグラフにしたのが図7である。

相関係数の符号のように、保有税収の総税収比率の変化量と住宅価格の変化率は20ヶ国の単純平均及びG7中、カナダを除く6ヶ国において逆相関している。

20ヶ国のうち、これら6ヶ国以外で符号がマイナスになったのは、フィンランド、アイルランド、オランダ、ノルウェー、スペイン、スウェーデン、スイスの7ヶ国であり、G7の6ヶ国を加えると13ヶ国となる。一方、プラスの符号をとったのはカナダと豪州、ベルギー、デンマーク、韓国、ニュージーランド、ポルトガルの7ヶ国であった。

固定資産税 表1

英国にみられる強い土地利用規制による新規供給の抑制効果による価格変動の大きさや各国にみられる住宅バブルの形成や崩壊、金融危機後の住宅資金制約による価格下落など、各国の住宅価格変化に対する要因は保有税収比率以外にもある。

経済成長自体は税目毎の税収イールドに差がないとすれば、保有税収比率には変化を与えることなく、住宅価格を上昇させるはずである。したがって、2つの指標の関係は時期によっては逆相関をとらない場合もある。

固定資産税 図7

また、課税評価の方法が市場価格や適正価格、インフレ調整済み租賃貸価額など、各国において異なることや保有税収比率は、住宅価格の変動のみならず商業不動産の価格動向も左右することなどから、この分析は、保有税の影響だけに着目したかなり大まかなものである。

しかし、分析対象である20ヶ国中13ヶ国で相関係数の符号がマイナスになったことや、経済規模の大きなG7各国のうちカナダを除く6ヶ国でも同様であったことから、保有税収比率の変動と住宅価格(実質)の変動との関係が、マクロレベルでもある程度は説明できるものと考えられる。

参考までに日本と米国における両変数の動きを散布図に示し、空間的かつ時系列で両国における分布の推移を追跡してみた(図8)。