(写真=PIXTA)
◆東証一部企業は2013年度、2014年度に2期連続で最高益を更新した。2015年度も二桁増益が見込まれ、3期連続の更新が期待されている。しかし、キャッシュ・フローの動向と合わせて最高益更新の要因を探ると、減価償却費の影響も大きく、注意が必要といえよう。
日本株式は8月上旬以降やや軟調な展開となっているが、今年6月には東証一部の時価総額はバブル期ですら届かなかった600兆円の大台に乗せるなど、アベノミクスが始まってから概ね堅調に推移してきた。株高の背景には日本企業の業績改善がある。
実際にTOPIXの一株当り利益(EPS)は2013年度84ポイント、2014年度88ポイントと2年連続で、それまでの最高益であったリーマン・ショック前の2007年度の81ポイントを超えた。さらに今2015年度のEPSも100ポイント超えが予想されており、最高益更新の期待がかかっている。
EPSからは堅調な日本企業の業績がうかがえるが、利益は会計上の数値であり事業の好不調以外にも様々な要因にも左右される。企業の「稼ぐ力」の動向を別の視点でも確認するため、利益と合わせてキャッシュ・フロー(以下、CF)(i)の予想値を時系列に見てみよう。
図表1はリーマン・ショック前の最高値が100となるようにTOPIXのEPS、CPS(一株当りCF)の予想値を指数化したグラフだが、CPSは2012年下旬以降、EPSと同様に拡大傾向にある。
ただし、傾向は同じでもその度合いは若干異なっている。EPSは2008年のピーク時を7%も超える予想になっている。一方、CPSは2008年のピーク時の水準は超えたもののほぼ同程度の数値が予想されている。EPSのほうがCPSと比べて拡大が急になっていることが分かる。ここでCFと比べて利益の拡大が大きくなっている要因として、減価償却費(ⅱ)を挙げたい。減価償却費は減少すれば、その分費用負担が軽くなり増益要因となる。
図表2は一株当り減価償却費と利益の実績値の推移だが、実際にリーマン・ショックが起こった2008年度を境に減価償却費は減少基調だった。ショック以降、2008年度に多くの企業が赤字に転落するなど厳しい収益環境の中で固定費削減の必要性が高まった。ゆえに新規の設備投資を控え、減価償却費を抑制した側面が強い。
企業マインドが好転した2013年度に反転したが、市場全体で見ると依然としてショック前と比べて減価償却費は引き続き低位に抑えられている。直近2014年度でも一株当りの減価償却費が2007年度と比べて9ポイント低く抑えられており、EPSがそれに伴い底上げされていたのだ。
ただし、減価償却費はあくまでも会計上の費用である。実際に支出は発生しないため、減価償却費の減少による増益はあくまでもCFの増加を伴わない帳簿上の増益である。つまり増益からキャッシュの増減を考える際には減価償却費の減少を差し引くことが必要となる。
2014年度は2007年度対比で8ポイントの増益だったが、そのほとんどが減価償却費の抑制の効果で説明できる。まさにCFの増加を伴わない増益であったのだ。最高益を大きく更新した2014年度でもCFつまり事業から実際に資金を得る力は利益ほど改善していなかったことが分かる。
法人企業統計によると、今年4-6月期の大企業・製造業の減価償却費は前年同期比でほぼ横ばいとなっている。2015年度も前年度同様に減価償却費負担が軽く、利益を上げやすい状況が続くことが予想される。
ただ、積極的な投資を行うと減価償却費負担は重くなるが、それを跳ね除けての最高益更新こそが継続的な業績拡大につながるのではないだろうか。昨今の最高益更新は喜ばしいことではあるが、やや割り引いてみる必要があるといえよう。
(i)CFはキャッシュ・フロー計算書の営業CFの意味。ただし、営業CFの予想値は算出困難なため、データはI/B/S/EデータのCFで代用した。なお、I/B/S/EデータのCFは「投資および財務項目を考慮に入れない事業からのCF」となっている。
(ⅱ)設備投資などにかかった資金を数年(耐用年数)に分けて費用として計上したもの。設備投資を積極的に行うと翌年の減価償却費は増え、設備投資を控えると減る傾向がある。
前山 裕亮
ニッセイ基礎研究所 金融研究部
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