(写真=PIXTA)
研究員の眼
賃貸住宅だけでなく、ペット飼育可能物件が増えている分譲マンションでも猫の飼育への配慮はあまりないのが現状です。
たとえば、脚洗い場やグルーミングルーム(ペット洗い場)、汚物流し、リードフック、ドッグラン(犬用の広場・運動場)など、毎日散歩に連れ出す必要のある犬を想定した共用設備ばかりで、室内飼いの猫にはほとんど関係ないものが少なくないからです。
むしろ、専有部から共用部や屋外に猫が逃げ出さないような対策や、猫の爪研ぎや立体的な動き(猫は高いところから見下ろすのが好きです)を想定した猫仕様の内装や設備が求められます。
通常、新築分譲マンションでは、飾り棚や食器棚、和室の洋間への変更、照明、エアコン、食洗機、鏡、カーテン、フロアコーティングなど契約時に選べるオプションが多数用意されていますが、残念ながら猫用のオプションは見たことがありません。
たとえば、網戸は猫がよじ登っても破れないよう網の強度を高めたもの、壁紙(ビニールクロス)は爪とぎの引っかき傷や破れができにくい丈夫なもの、床材は丈夫で滑りにくいものが理想的です。猫用のくぐり戸、キャットウォーク(猫用の通路)、キャットステップ(猫用の階段)、飛び出し防止用フェンスなどもオプションとしてぜひ用意して欲しいものです。
また、分譲でも賃貸でもマンションは多くの人が住むわけですから、猫と飼い主だけでなく、猫が苦手な人やアレルギーなどの理由で飼いたくても飼えない人も含めた住人みんなが気持ちよく暮らせる管理運営の仕組みやサポート体制が重要です。
最近、管理規約のペット飼育細則の中に、「ペットクラブ(動物飼育者組織)」規定を設けてペットを飼育する住人に加入を義務付け、ペット飼育に伴う問題解決に活用しようというマンションが増えているのは喜ばしいことです。
賃貸住宅にせよ分譲住宅にせよ、猫と人との共生の試みはまだ始まったばかりで、住宅の内装・設備、管理運営に、愛猫家の意見や経験、動物専門家や保護団体などの知見をもっと反映させる必要性を感じます。しかし、住宅の内装・設備というハードウエアと管理運営というソフトウエアが猫の飼育を前提にしたものなら、猫にとって理想的な「住まい」になるわけではない点にも注意が必要です。
つまり、飼い主の意識や能力などヒューマンウエアがお粗末な場合、どれほど住宅の内装・設備、管理運営が猫用に作り込まれていても、猫にとって理想的な「住まい」には絶対にならないからです。住宅という不動産のあり方だけの問題ではないのです。
ヒューマンウエアとして、飼い主自身が猫の習性をよく理解しており、また飼い主としてのマナーもしっかり身につけていることが求められますが、最も重要なヒューマンウエアは、飼い主の猫に対する終生にわたる愛情です。
飼いたいという意思がある以上愛情があるのは当たり前といわれそうですが、行政の保護施設へ猫を持ち込む人の2割は飼い主自身という事実があります。さらに、完全室内飼いの猫は平均でも15、6歳まで生きますから、子猫を譲り受けたとしても将来は老化や病気で介護が必要になる可能性があることも覚悟しておくべきです。
猫を家族の一員として迎え入れ、一緒に幸せな日々を過ごすためには、終生にわたる愛情があるのはもちろんのこと、飼育に伴う費用など将来のさまざまな負担に対する覚悟も問われるのです(以上)。
(注)このコラムは3回連続で、2015年11月17日発売予定の光文社新書『猫を助ける仕事~保護猫カフェ、猫付きシェアハウス~(山本葉子・松村徹共著)(*1)』の内容の一部を加筆修正したものです。山本葉子は猫カフェ型の開放型シェルターの運営を行う特定非営利活動法人(NPO法人)東京キャットガーディアン代表です。同団体は、設立から7年を迎えた2014年度末時点で里親への譲渡総数は4164頭、2015年9月末では4501頭という実績を上げている動物保護団体です。
http://www.tokyocatguardian.org/
(*1)山本葉子・松村徹著『猫を助ける仕事~保護猫カフェ、猫付きシェアハウス』光文社新書
松村 徹
ニッセイ基礎研究所 金融研究部
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