研究員の眼
皆さんはもう『猫を助ける仕事~保護猫カフェ、猫付きシェアハウス』(*1)を読まれたでしょうか?本書は、ソーシャルビジネスの手法で猫の保護活動に取り組むNPO法人「東京キャットガーディアン」代表の山本氏と弊社松村が、保護活動と不動産ビジネスの視点から猫と人の幸せな共生について綴った一冊です。
現在、日本では毎日300頭の猫が殺処分されています。山本氏は、この現実を変えて殺処分ゼロ社会を実現するのに「足りないのは愛情ではなくシステム」だと指摘します。
「東京キャットガーディアン」では猫カフェスペースを設けた開放型シェルター(保護猫カフェ)を運営し、飼育を希望する里親に猫を譲渡する活動のほか、猫の居場所を確保するために考案した「猫付きマンション」(*2)や「猫付きシェアハウス」の普及にも取り組まれています。
私は人と猫の出会いと別れ、生と死を描いた筆者のエピソードを読んで3度涙しました。同時に、日頃リサーチを担当しているJ-REIT(不動産投資信託)の仕組みをうまく活用して、もっとたくさんの猫を助けられないだろうかとの思いを強くしました。
なぜならJ-REITは、不動産を介して「世の中のお金」と「ノウハウを持つ事業者」を結びつける力と、全ての利用者が安全で快適に過ごせる環境整備の役割を担っていると言えるからです。
動物の居場所づくりという点で、保護活動と不動産ビジネスは切っても切れない関係にあります。
例えば、山本氏が考案した「猫付き住宅」は、猫との生活を希望する住人と賃貸経営を安定させたい大家さん、猫を救いたい保護団体、保護猫の4者みんなが幸せになれるシステムですが、猫の習性を理解しリスクを取って差別化を図ろうとする大家さんは、まだまだ少ないようです。
そうであるならば、不幸な境遇にある小さな命を助けたいと思う人が集まり、人と動物が幸せに暮らせる不動産を運用するJ-REITの投資主(=大家さん)になることはできないでしょうか。
つまり、猫カフェのあるオフィスビル、ペット飼育可や猫付きの賃貸マンション・シェアハウス、ペットとふれ合える商業施設、アニマルセラピーの効果で元気に過ごせる高齢者向け住宅など、様々な「ペットウェルカム不動産」に投資する総合型REITのイメージです。
言うまでもなく、「ペットウェルカム不動産」は管理運営の難しいオペレーショナルアセットですから、REITを組成するスポンサー企業(設立母体)は、ペットビジネスについての造詣とノウハウを持つ事業者との協業が求められます。
一方、J-REIT市場が銘柄数52社・運用資産15兆円に拡大し成熟期を迎えつつあるなか、新規上場を検討するにあたり既存のREITで代替できる平凡な投資方針では投資家の高い評価は得られません。J-REITのポテンシャルを世に示す"アニマルスピリット"を備えたJ-REITの登場に期待したいと思います。
(*1)山本葉子・松村徹著『猫を助ける仕事~保護猫カフェ、猫付きシェアハウス』光文社新書
(*2)現在、「猫付きマンション」は東京都内を中心に80物件が稼動しています。
松村徹
ニッセイ基礎研究所 金融研究部
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