貧困問題
(写真=PIXTA)

食事は学校給食だけで夏休み明けには痩せて登校してくる小学生。ペット用のゲージに入れられ、ひもでつながれていた3歳の子ども。不安と緊張で暴力的になり、大人の目を盗んでは妹を攻撃してしまい、「ぼくは生まれてこなければよかった」と口にする4歳の子ども。今、子ども達に貧困が襲い掛かっている。経済大国であり、世界有数の「豊かな日本」であるはずの我が国で、今何が起きているのだろうか。

子どもの貧困率の現状

2012年の厚生労働省の調査によると、17歳以下の子どもの貧困率は16.3%となっている。これは子どもの6人に1人の割合だ。少なくない子どもが今貧困に苦しんでいる。その理由の1つが、大人も含めた相対的貧困率の上昇である。

相対的貧困率とは可処分所得の中央値の半分、言わば一般的な所得の半分に満たない世帯員の割合であり、2012年では所得が122万円以下の世帯員が該当する。この相対的貧困率でみると、1985年には12%だった相対的貧困率は、2012年には16.1%まで上昇した。貧困にあえぐ家庭が3割以上増加しているのだ。特に大人一人で子どもを養育している家庭が特に相対的貧困率が高く、54.6%となっている。シングルファーザー・シングルマザーとして子どもを養育している家庭が経済的に困窮し、子どもにも大きな影響を与えているのが現状だ。

世界との比較で見えてくるもの

国際比較を行うと日本の独自性がより強く見えてくる。先進国諸国といっても良いOECD加盟諸国の相対的貧困率を比較すると、全34か国の中で6位と高位になっており貧富の差が激しい国となっている。

子どもの貧困率だけでもみるとやや順位が下がるものの9位と高位となっており、果たして本当に「豊かな日本」であるのか疑問に思えてしまう。さらに大人一人で子どもを育てている家庭で見ると、データが存在しない韓国を除けばOECD1位の貧困率となっている。

また日本の特色として、ひとり親が無職である場合の相対的貧困率は51.5%でありながら、有職の場合は54.6%と働いている場合のほうが、貧困率が高いという特色がある。OECDが2008年に発表した所得分配と貧困に関するレポートによれば、労働をする事が貧困率を減らすと言う、当たり前の様に思えるデータが報告されているが、日本においては働いている方が、貧困率が高いということになってしまっている。

2014年5月にケネディ駐日米国大使も「USJC-ACCJウィメン・イン・ビジネス・サミット」で「日本は、仕事を持つことが貧困率を下げることにならない唯一の国になっています」と述べ、改善すべきとの指摘をしている。手厚いセーフティーネットがあるが故に、モラルハザードを含め意図せざる結果が発生してしまっているのだ。

子どもの貧困が及ぼす日本への影響

子どもの貧困は日本経済に対しても、大きな損失を与えることとなる。日本財団と三菱UFJリサーチ&コンサルティングが行った研究によれば、現在15歳の子どもの貧困を放置すれば、彼らの将来の就業は、正社員は8.1万人、非正規社員3.6万人、無職4.8万人となると想定され、彼らによる経済効果は約22.6兆円となると推定される。

しかし、放置するのではなくしっかりとした対応を行い、大学の進学率を上昇させることで、正社員は9万人、非正規社員は3.3万人、無職は4.4万人に減少して、彼らによる経済効果は約25.5兆円となり、2.9兆円もの経済効果が増加するとの推定がなされている。

経済効果が向上すれば税収も増える。貧困を放置した場合は国の財政負担額は約6.8兆円だが、しっかりとした対応を行うことで財政負担額は約5.7兆円へ減少する。財政的にも1.1兆円もの改善が行われるのである。これはあくまで現在の15歳だけを対象にした調査、推定でしかないが、18歳までの各年齢層全てを対象にするならば単純計算で18倍以上もの損失額に膨れ上がっていく。子どもの貧困を放置することは、子どもたちの将来だけでなく、日本の将来経済の為にも看過できない問題として、経済対策としてしっかりと取り組んでいかなければならない問題である。

子どもの貧困をなくすために

もっとも、日本政府も子どもの貧困の問題を放置しているわけではない。2013年には議員立法により「子どもの貧困対策の推進に関する法律」が全会一致で成立した。この法律に基づき「子どもの貧困対策を総合的に推進するための大綱」を策定。家庭の経済状況に関わらず学ぶ意欲と能力のあるすべての子どもが質の高い教育を受け、それぞれの夢にチャレンジできる社会を作るために、幼児教育の無償化や高校生等少額給付金の充実といった支援を充実させている。

子どもへの学習支援や親に対する支援を通じて、子供の将来がその生まれ育った環境によって左右されることの無いようにしっかりとサポートをしていく方向である。子ども貧困は簡単に解決できる問題ではなく、様々な社会福祉制度にもかかわる問題である。「豊かな日本」で起こっているこの問題について、他人事ではなく国民全体の問題としてしっかりと解決に向けて皆で考えていかなければならない。

岸 泰裕(きし やすひろ)
1985年生まれ。大学卒業後、シティグループの日本持株会社の財務部門に勤務しながら金融工学のMBAを取得。その後、スタンダードチャータード銀行日本支店に勤務すると共に大学にて金融リテラシー論を教え、2014年よりは各種セミナー等での講師として活動している。