訪日外国人が増えるとともに、日本でレジャーを楽しむ外国人観光客の姿も珍しいものではなくなった。外国人観光客によって活気づく観光地がある反面、思いがけないトラブルも多発している。2016年1月には長野県や福島県のスキー場付近でコース外滑走した外国人客の遭難事故が発生している。

雪山での登山やスキーが原因で、救助される事例が毎年報告されている。日本語での意思疎通が難しい外国人だけでなく、雪山登山の知識に乏しい初心者や若年層も同種のトラブルを引き起こしている。雪山での立ち往生など、思いがけないトラブルに巻き込まれた時、救助費用は誰が負担しているのだろうか。

救助費用は誰の負担となるのか

スキー場でコースアウトしてしまい元の場所に戻れなくなった時、スマホがあれば救助を求めることは容易だ。GPS機能もついているため、遭難場所の特定も現在では可能となった。地方警察が遭難の連絡を受けた場合、遭難者の捜索にヘリコプターを動員することがある。そして一般的にヘリコプターの飛行には高額の費用がかかるとされている。では、遭難者の捜索にかかったヘリコプターの費用は誰が負担しているのだろうか。

遭難者の救助に要した警察や消防のヘリコプターの費用は、税金で賄われるために無料だ。救助された遭難者が費用負担を求められることはない。つまり、納税者が負担している。救助に際して費用が発生するのは、民間人を投入して捜索活動が行われた場合に限られる。

山岳救助隊や山岳警備隊だけでは手が足りず、地元山岳会や消防団などに呼びかけ大規模な捜索活動が行われた時には、民間人に日当が支払われる。大規模な捜索活動は行われなくとも、救出に際して特殊な技術を必要とするために民間の協力を仰いだ場合にも費用が発生する。捜索隊人数分の日当や民間ヘリコプターチャーター代、救助に使用した装備などを含めれば100万円を超える費用が請求されることもある。

コース外滑走で事故、遭難者の個人負担とする地域も

捜索活動に民間が関与すれば費用が発生し、山岳救助隊や山岳警備隊、あるいは大規模災害で自衛隊など公的機関が独力で救出した場合は、納税者負担となる。救急車を呼んでも利用者には費用負担が発生しないと考えれば納得のいく仕組みだ。しかし、救急車と違ってヘリコプターは高額となる。救助に向かった捜査員が二次災害に遭った例も過去にはある。

雪山での遭難者が増え続け、安易に救助を呼ぶケースが増え続けると、救急車と同じく利用者無料に対して見直しの声も出てくるだろう。人員への負担も重く、費用も高額な雪山遭難者に対する捜索費用の負担をめぐっては、条例等で見直される可能性も高い。

近年外国人観光客に人気の長野県野沢温泉村では、すでに条例化されている。スキー場で、正規ルートを外れたスキーヤーやスノーボーダーから遭難救助があった場合は、捜索救助にかかる費用は遭難者の自己負担となっている。

万一の場合に保険加入で備える

雪山に限らず、遭難時の捜索・救助費用に備えた「捜索救助費用保険」がある。思いがけずに遭難してしまった場合、費用が発生するかどうかについて、遭難者ではコントロールできない。

例えばスキー場でコースアウトして現在地を見失い、警察に救助を求めた場合、捜索方法については警察に委ねられる。山岳救助隊が単独で救助に成功すれば、ヘリコプターを使ったとしても捜索費用は無料だ。捜索が大規模になった場合、どれくらいの費用がかかるかについては、「捜索救助費用保険」で設定されている保険金額が参考になる。保険金額は契約者が自由に選べる設定になっているタイプと定額に設定されているタイプに分かれるが、おおむね100万円から300万円で設定されている。

従来からある傷害保険に、遭難などアウトドア特有のリスクをカバーしたタイプの保険と、山岳遭難特有のリスクのみをカバーした保険とに分かれ、前者はアウトドア用品店などを窓口に加入することができ、国内外のリスクを幅広くカバーしている。海外登山の場合などに利用されている。

少額短期保険でカバーすることも可能

高いリスクに特化した保険は逆選択となるため、今のところ山岳遭難特有のリスクのみをカバーした保険は販売されていない。山岳遭難の増加を受け、少額短期保険の形で提供されている。

少額短期保険は、保険金額を比較的低額に抑えた短期間の保険で、少額短期保険業者によって運営されている。大手保険会社でカバーすることの難しい、地域や業界特有のリスクに対応するため、少額短期保険会社が設立されているケースもある。運営会社に疑問を感じた時は、まずは公表されている加盟賛助団体名を確認するとよい。資本金が少なくとも事業規模や財政基盤を知ることができる。

雪山登山や山スキーなど楽しいアウトドアも天候の急変により、思わぬ災難に巻き込まれることが起こりうる。雪山登山にあたっては、本来入山届や登山計画書の提出が義務付けられているが、周知徹底されているとは限らない。入山届や登山計画書は、事故があった場合の救助活動にも役立っている。条例により、捜索救助にかかる費用は遭難者の自己負担となっている地域ではもちろんのこと、それ以外の地域でもきちんとルールを守ることが大切だ。さらに、万一の事態に備えてからレジャーを楽しむよう、保険加入を習慣とするとよいだろう。(ZUU online 編集部)