中国(国土)全人口は約13億7000万人、そのうち富裕層は361万3000人となっている。中国人の約380人に一人が、世界の富裕層の仲間入りを果たしている。19世紀、アメリカでは産業革命を契機に、カーネギーやロックフェラーなどの富裕層が生まれた。彼らは100年以上にもわたって財を築き上げ、世界経済を先導し、そして、その後継者たちがさらに産業を発展させてきた。しかし、中国はこの数十年のうちに、世界経済の上層にまで上り詰めてきている。中国の驚異的な経済パワーは、もはや認めざるを得ない。

近年中国では、この富裕層人口が異常な速度で伸びている。2014年度と比較では実に17.5%もの伸びを見せ、資産総額は同時期19.3%の増加。45兆ドルを超えるまでとなった。昨年第2四半期における、世界の富裕層資産額は、依然としてアメリカの45兆ドル(5263兆円)がトップだが、来年度はおそらく、中国がその座を勝ち取る日も近いだろう。

中国人富裕層が世界トップ2位へ

近ごろ目にする「HNWI」という単語。これは富裕層を指すハイ ネット ワース インディビジュアルの略称で、「UHNWI」は超(ウルトラ)富裕層を指す。HNWIの定義は調査を行う主体により異なるため、明確なものではないが、1人当たりおよそ100万ドルの投資可能資産を所有している個人と考えればいいだろう。日本円で約1億円以上の流動資産を持っていれば、この層に含まれる。

世界の総資産数数では、GDPが17兆円を超えるアメリカが依然トップであり、世界一の金持ち大国の名を守っている。富裕層人口数でみても約690万人と世界一だ。

また、ヨーロッパでは富裕層が約130億ドルの資産を保有しており、中国に続く世界第3位の富裕国となっている。中でも、スイスには富裕層が集中しており、グローバル資産家が、資産分散を目的にスイスの銀行に預金しているのは事実である。あるヨーロッパ系のプライベートバンクなどでは、英語圏外のアジア富裕層を現地に観光目的で無料招待し、最終的に銀行に資産を預金させるといった優待を行い、顧客を獲得している。

これまで中国が富裕層数の世界上位に躍り出るまでは、北アメリカおよびヨーロッパの富裕層が、世界のナンバー1、2の座を守っていた。しかしながら、今後は中国に続く新興国、GDPの拡大により、格段に質が向上した生活環境のなかで、次世代の事業家たちが生まれゆく国々が、先進国とともに世界の経済をリードしていく可能性が大きい。中国はその先導となっているのである。

利益を求めるバイタリティー

中国の富裕層は40~50代が多く、平均年齢が若い。彼ら若手の起業家は事業をグローバル化させてブランドの名を高め、海外および国内の株式市場に積極的に上場している。

特に、近年の動きとして注目されているのが、若い中国人富裕層の海外流出だ。海外で成功を収め、財を成している中国人と言えば「華僑」が思い浮かぶことだろう。彼らはかつて、政治的な難を逃れるため、また、富を求めて海外へ移住した。欧米やアジア諸国、とりわけ東南アジアに渡った華僑は、各国で一大コミュニティーを築き、今ではその国々に影響を及ぼすほどの存在となっている。

現在、こぞって海外移住を図る若い中国人富裕層の狙いは、中国本土から資産を逃がすためだと言われている。加えて、子どもに対する教育事情も含めた、よりよい生活環境を望んだ結果でもある。

このように、海外に目を向ける中国人富裕層、個々の起業家が莫大な資産を形成していくなか、中国本土でも、株式市場に少なからず貢献している層がいる。それがシニア層だ。 中国本土の証券会社に掲げられる株価掲示板には、多くの年配者が連なり、画面を凝視している。政府が国民に対して実施した、都市開発のための農地や土地の借り上げによって得られた対価を、株に投資しているのだ。

また、土地の売却益から現金を得た国民の一部は、高まる人民元と外貨のヘッジに目を付け、個人の海外旅行が解禁になるや、海外でさまざまな「爆買い」を行った。そこで得た大量の商品を国内に持ち込み、個人や店などで販売して利益を得ているのである。

中国国内において、高級ブランド品、時計、ゴルフ用品や高級酒類におよそ10~30%の税金が掛かる。現金を持っていても、海外との価格差から、それらの高級品を国内で購入するのをためらう人々は多い。そういった人々に平行輸入した商品を販売し、利益を上げている人も少なくないのだ。

中国人は、手段の善し悪しはあるものの、手に入れた現金をさまざまなかたちで運用する。損をせず利益を出せるよう、資産を活用している人が多いのは事実である。日本人のように、ほぼゼロに等しい利子しか付かない銀行に預金を寝かすようなことはせず、より利率の高い商品に積極的に投資する。

中国人が資産形成に長けているのは、 利益の出る可能性のあるものに対する嗅覚の鋭さと、価格競争が起こる前に、自ら仕掛けるバイタリティー、これらの積み重ねによるものだろう。

人口14億人に到達する日もそう遠くないだろう。中国では、1人頭の収入が1カ月に1円増えるだけでも、10億円近い資金が市場に流動する計算だ。しかし、今後の中国の課題は人口の老齢化である。一人っ子政策の下、恵まれた環境で育てられてきた子どもたちや、彼らの下の世代が、これまでのようなハングリー精神で国を支えていくかどうかがポイントである。(香港在住ジャーナリスト)