2015年暮れの世界経済は、米連邦準備制度理事会(FRB)による約9年半ぶりの利上げに注目が集まった。減速するGDP世界第2位の中国経済、債務危機からの回復テンポが鈍い欧州を尻目に、米国が1人勝ちの様相を見せる。
一方、シティ抱える英国も、失業率が5.1%と世界金融危機が発生前の2006年以来の低い水準までに落ち着いてきている。
これまでFRBが先陣を切って利上げに動き出すまでは、英中央銀行(BOE)は静観するとみられてきた。米国が利上げした今、BOEが後に続くのか。政策金利の引き上げ以外にも通貨ポンドに影響を及ぼしそうなポイントをまとめる。
原油安が足かせ 遠のく利上げ
BOEは2009年3月以来、政策金利を過去最低水準の0.5%に据え置いている。BOEのカーニー総裁はこれまで2015〜16年にかけての年末年始には利上げの時期に関する決定がより明確になるという姿勢を示し、市場では利上げ観測も広がっていた。
特に15年5月に実施された総選挙では与党保守党が単独で過半数を獲得し、政治的な不透明感が消え去ったことも利上げ観測を後押ししていた。しかしFRBによる利上げのあおりをうけて、新興国経済が減速。特に中国経済の減速は英国にも暗い影を落とす。
英国は中国が設立を主導したアジア・インフラ投資銀行(AIIB)に欧州勢としてはいち早く参加を表明。さらに15年に中国の習近平国家主席が英国を訪問した際、中国から原発を輸出することで合意するなど両国間の経済的な結びつきが強まっている。
そうした中、16年に入り上海市場の株価が急落し、為替相場ではリスク回避から円高が進むと、ポンドも年初めの1ポンド=177円台から一時に164円台まで水準を切り下げた。
さらに急激な原油安で、英国でも低インフレ状態が当面続くとみられ、英国経済も減速し、金利の引き上げ観測が後退している。今年の後半あるいはそれ以降までBOEによる金利の引き上げはないとの見方がすう勢だ。
EU脱退を問う国民投票は6月にも実施か?
BOEの金融政策のほか、ポンド相場に影響を及ぼしそうなのがヨーロッパ連合(EU)からの離脱を巡る国民投票だ。シェンゲン協定に基づくEU圏内の自由の移動により、英国への移民の流入に歯止めがかからず、移民への教育や医療など公共サービスの負担への不満が収まらない。
こうした状況を受け、17年末までに国民投票で、EU離脱の賛否を問うことを公約しているが、キャメロン政権は、早ければ16年6月にも国民投票の実施が可能との見方を示している。
仮にEUから離脱する事態となれば、EU圏内での自由な貿易が阻害される恐れから、企業の中には英国から別のEU圏内に拠点の移動を検討する動きもある。
気になる世論の動向だが、15年のパリでの同時多発テロ事件を受けて、英国でも移民や難民の受け入れに対する懸念が高まり、EU離脱の支持と残留が拮抗。16年初来すでに国民投票を意識してポンドは対米ドルで5年半ぶりの安値となる1ポンド1.43ドルの水準まで落ち込んだ。国民投票でEUからの離脱が多数となった場合は、一段とポンド安が進む可能性も指摘されている。
ポンドの変動 FXに注目
16年の年明けから続いていた対円でのポンド安は、日銀のマイナス金利の導入により、一旦はポンド安に歯止めがかかった状態だ。英国ポンドは外国為替証拠金取引(FX)でも取引が活発な通貨で、為替市場での変動幅も相対的に大きい。特に16年は、EUからの脱退を巡る国民投票など大きなイベントが控えており、為替相場も大きく変動する可能性があり、FXでも注目を集めそうだ。
まずは6月とも目されている国民投票がいつ実施されるのかという点に注視する必要がある。さらに、投票に向けて各種の世論調査の結果についても把握していかなければならない。国民投票前の世論調査で、EUに残留派と離脱派に大きな差が生じれば、その段階で為替相場が大きく反応する可能性がある。
仮にEU圏内に残留が過半数を超えると、リスク要因が解消され、ポンドの一段高が進むと予想される。投資スタンスとしては、国民投票前後を境にして、EU圏内に残留するとの見方が強まれば、先にポンド円を仕込んでおけば大きなチャンスとなりそうだ。
一方、事前の世論調査で両者の差が拮抗して先行きの展開が読めない場合は、下手に仕掛けるよりは国民投票の結果まで様子見を決めるのが賢明かもしれない。
とはいえ、、英国の国内事情だけにとらわれていると、思わぬ形で足下をすくわれる危険性もある。国民投票だけでなく、原油価格の動向、中国経済の動向などもポンドへの影響が大きく、こちらからも目が離せない。2016年は英国にとって試練の年となりそうだ。(ZUU online 編集部)
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