ⅲ)配偶者控除廃止+子育て支援策を想定した場合の影響・夫の年収別

検討されている子育て支援策について、詳細は明示されていないものの、何らかの給付措置がとられることが予想できる。配偶者控除の廃止とあわせて下記(A)~(C)の3つの給付措置が導入されたと仮定し、家計への影響を確認しよう。

配偶者控除見直し12

加えて所得制限を設け、年収900万円以上(*19)には子育て支援給付を支給しないこととする。また子育て支援給付策は子ども人数についても加味していない。

(A)子育て世帯に年間10万円給付・所得制限なし

まず(A)について確認すると、夫年収200~400万円の世帯では、可処分所得が夫年収の4.8万円負担減(マイナスは負担減)となるなど、低所得者層は子育て支援給付額(10万円)が、配偶者控除の廃止による負担増(約7.2万円)を上回るため、可処分所得は増加する(図表12)。

一方、夫年収700万円以上になると、配偶者控除の廃止による負担増が、子育て支援給付額を上回る。高所得者層は、配偶者控除廃止による名目の負担増額が大きい。

配偶者控除廃止による名目の負担額は低所得層ほど小さくなるため、定額の給付措置は、低所得層への恩恵が大きくなる。加えて高所得層でも、負担増により可処分所得の減少割合は、0.2%程度と低い水準に留まる。

配偶者控除見直し13

(B)子育て世帯に年間10万円給付・所得制限あり

次に(A)に所得制限を設けた(B)について確認しよう(図表13)。

所得制限が設けられたことで1000万円を超える高所得層では名目の負担額は、(A)に比べ10万円程度増加(図表15)、もっとも負担割合でみれば(A)に比べ0.3%から1%程度と上昇幅はわずかに留まっている(図表16)。給付策導入にあたっては必要財源が問題になることから所得制限の導入が妥当と判断される可能性が高い。

配偶者控除見直し14

(C)子育て世帯に年間5万円給付・所得制限あり

次に給付額を年間5万円に減額した(C)についても確認しよう(図表14)。

配偶者控除見直し15

給付水準が5万円の場合、配偶者控除の廃止による負担増が全年収層で給付額を上回る。低所得層においても負担増となることから給付水準については検討の余地があるものの、夫年収別にみた、年収に対する世帯の負担割合は概ねフラット化しており、0.24~1.0%程度に収まっている(図表16)。

現在の税制から家計への影響を最小限に留めるという視点からすると、今回検討とした中では(C)の「給付水準は5万円かつ所得制限を設ける」ケースは一つの目安となろう。

配偶者控除見直し16

単純に配偶者控除を廃止すれば、妻年収141万円未満である世帯は負担増となる。その場合、低所得層かつ専業主婦またはパート世帯については配慮が必要と思われるが、廃止による負担増分以上の子育て支援と給付金を支給することで子育て世帯の低所得者層には配慮した措置をとることができる。

もっとも、政府税調が指摘しているように「子どものいない低所得者層の世帯への負担増」に対しては、別途配慮する必要があるか検討が必要だろう。

◆おわりに

配偶者控除の見直しによる家計に与える影響を概観すると、配偶者控除は税制上の優遇措置であることから、廃止すれば専業主婦世帯、共働き(会社員、パート年収141万円未満)世帯などで負担増となるものの、同時に子育て世帯への支援策の拡充を行えば、子育て世帯を中心に負担を回避できる。

例えば、所得制限付きで子育て給付金を支給するといった施策が導入されると予測するが、年間5万円程度の給付金を支給することが可能であれば、低所得層・子育て世帯の負担増をほぼ回避できる。

給付額をさらに増やすことができれば、主に低所得層・子育て世帯の負担を軽減できる。また廃止による高所得層の負担増は、年収に対する負担割合でみれば低所得層ほど高くないことから、給付金支給にあたっては一定の所得制限を設けることも妥当であると考えられる。

これらは「働き手を増やす、子育て世帯を支援する、低所得者に配慮する」といった、現状の日本が向かうべき方向性に合致していると思われる。ただし、見直しにより世帯によって負担増と負担減となる世帯が生じることから、国民には丁寧に説明する必要があろう。特に配偶者控除の見直しによって生まれる財源は、子育て世帯または低所得者対策に重点的にまわすべきだ。

配偶者控除の見直しは、女性の活躍を妨げる一つの壁を解消することにすぎない。本稿で紹介した壁を解消できても、家事・育児・介護などの事情で働く時間を増やしたくても増やせないという現状もある。男性の家事・育児への参画促進や保育環境の整備、そして長時間労働の見直しなど、多様な働き方ができる環境を整えていくことも必要だ。

そのような施策も同時に進めていくことができれば、配偶者控除の見直しに対する理解も得られやすくなるだろう。女性の活躍推進、一億総活躍社会実現に向けた改革は始まったばかりであり、今後も一つ一つ丁寧な取り組みが求められる。