(写真=PIXTA)
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日銀がマイナス金利を導入すること決めた今、各種メディアで、今後の変化、生活にどういう影響があるのかという記事、報道が散見される。

たとえば住宅ローンを変動金利で組んでいる人、これから組もうという人なら、今後の展開について「いつ借りればお得なんだろうか?」と予想して行動するだろう。特別に住宅ローンに関心がないなら、「定期預金の金利も下がるのだろうか?」といった程度の関心度合いかもしれない。

とかく個人のレベルでは「ローン」「借金」は遠ざけられがちだ。「はばかられるもの」「良くないもの」、さらにいえば「悪」とすら考えられている。

マネックス・ユニバーシティで金銭教育に携わり、現在は資産デザイン研究所を設立して個人投資家の啓発にも務める内藤忍氏も、著書『10万円から始める! 貯金金額別 初めての人のための資産運用ガイド』(ディスカヴァー)などで、「多くの日本人は『借金=悪』という固定観念に縛られている」と指摘する。もともと金融機関にいた内藤氏ですら「自分も含めて(固定観念に縛られている)」と断りを入れているように、この悪いイメージは残念ながら日本ではすっかり定着してしまっている。

特に「個人の借金」はよくないイメージを持って語られることが多い。住宅ローンやマイカーローン、教育ローンといった目的別のローンはともかく、カードローンや生活費の補てんのためのローンはあまりよくないイメージではないだろうか。個人の借金のイメージが良くないものになった背景には、消費者金融が「サラ金」と呼ばれた時代の、違法な取り立てをはじめとしたメディアの影響があるのかもしれない。

お金を借りる=時間を買う?

そもそも「借金」とは、何も個人が生活に困って誰かからお金を借りるという行為だけを指すわけではない。貸し借りの当事者が個人が法人かを問わないし、その目的も関係なく、すべてお金を借りるという行為のことだ。だから個人が消費者金融や個人から遊興費のために借りるものもあれば、企業が銀行から設備投資のために借りるものもある。

もちろん「お金を借りる行為はすべて借金だ」とはいえ、目的はそれぞれだろう。借金のなかには「投資のため」に行われるものもあれば、「消費のため」に行われるものもある。

前者の「投資のため」は、たとえば不動産投資を行う場合が考えられる。銀行から安い金利でお金を借りて不動産をローンなどで購入し、それを転貸すれば毎月家賃収入が生まれる。管理費や手数料をなどを除いてもローンの支払い額よりも多ければ、「借金が利益を生んだ」ことになる。貸すのではなく転売することで利益を出すこともできるだろう。

こうした「低い金利で借りたお金を元手にして増やす」ことは金融機関など事業レベルでは盛んに行われているが、個人には縁遠いものなのかもしれない。

お金を借りるということは、時間を買うということでもある。たとえば5000万円の家を買うために、5000万円たまるのを待っていたらいつ買えるか分からない。そこで住宅ローンを利用すれば、毎月の返済額を月収の範囲内に収めながら、家を買うことができる。時間を買うという意味では企業による他社やサービスの買収と同じことだ。イチからサービスをつくるよりも、既に広く知られ、利用されているサービスや企業を買ったほうが早いかもしれない。

企業で借金額が多いとされるのがソフトバンクグループだ。同社の孫正義社長は2009年、「着実に稼ぐ時期に入った。純有利子負債は2014年度にゼロになり、借金会社のイメージは変わるだろう」と言い放った。しかしその後、「借金ゼロ宣言」は撤回。13年の米国の携帯会社スプリントなど海外企業の買収を積極的に行なっている。

同社の借金は今や売上高を上回る水準となっており、倒産の懸念を指摘する声もなくはない。ただ同社は有利な調達環境で資金が得られていると主張。低金利下にあることをうまく活用しているということだろう。

良い借金・悪い借金?

ところで「借金には良い借金と悪い借金がある」ともいわれる。上で触れた目的別の「消費のための借金」が「悪い借金」とは一概には言えないが、こんなことを言った人がいる。

「いい借金とは『利息よりも大きな価値を将来的に得られる可能性が高い』そんな出費に関する借金です。悪い借金とは、『将来的な価値を生み出さない、ただ目の前の欲求を満たすためだけ』の借金です」--。

ロバート・ベラーディという男性の発言だ。実は彼は東京スター銀行のCEOを務めた「お金の貸し手」なので、その分差し引いて考える必要があるが、発言の意図は納得できるものではないだろうか。なぜか借金のイメージが悪いのは、ベラーディ氏がいう「悪い借金」が思い起こされるからかもしれない。

「ローン」「借金」を取り巻く環境は一昔前と比べれば大きく変わった。サラ金と呼ばれた会社は消費者金融となり、大手は銀行の傘下に収まった。貸金業法が改正されて総量規制が導入され、年収の3分の1程度までしか借りられなくなった。事業者もコンプライアンスを意識し、違法な取り立てはなくなった。アイドルなどを起用した若者向けのテレビCMも流すようになっている。

たしかにこうした変化がいい影響ばかり生んでいるとはいえない。総量規制をはじめ環境が変わったことから、貸金業者の数は減っており、それがヤミ金の増加と暗躍を助けているという指摘もある。最高裁が過払い金の返還請求を過去の借金についても遡って認めたことについては、今なお疑問が残る。また若者向けの消費者金融のテレビCMは、消費者金融のイメージ向上にはなったが、「気安く、無計画に借りる人を増やしたのではないか」とも言われている。

お金持ちほど借金を活用している

いずれにせよ、賢い人は「借金」を味方につけている。今はお金が安く借りられる時代だ。返すアテがないのに借りるのはよくないが、しっかりとした目的があり、運用利回りが利息を上回る自信、投資する事業や起業を成功させられる自信があり、増やして返せる見込みがあるなら、この状況を使わない手はない。実際、お金がある人ほど借金に躊躇しないとも言われる。金持ちほど借金がうまい。

使途が限定されていないカードローン。収入が少ない層が生活費のために借りているイメージがあるかもしれないが、ある調査では,個人年収200万以下の利用者は17%で、1000万円以上が23%使っているという(年収700万から1000万円の層も同じ23%程度)。年収1000万といえば、生活に困窮している訳ではないだろう。中には収入に見合わない支出をしている浪費家庭もあるだろうが、こうした一定のキャッシュフローがある層がカードローンを活用しているという実態もある。「お金があるから借りない(お金があれば借りなくていい)」という公式は必ずしも成り立たない。「うまく活用できるならお金を借りることも考えたほうがいい」のだ。

マイナス金利が現実のものとなれば、お金を借りても金利が高くないため、借りやすくなる。持っているお金をただ定期預金などに預けていても、たいした金利はつかない。ならば自分のお金にはしっかり働いて(殖えて)もらうべきだ。そのためにはしっかり投資について学ぶべきだし、その際の武器として「借金」「ローン」を使えるようになっておいたほうがいい。その時は当然、リスク管理はしっかりと行うべきだ。投資においても生活・消費においても、「借金・ローン」は選択肢を広げてくれるはずだ。(ZUU online編集部)