大学,偏差値,新入社員
(写真=PIXTA)

何かと忙しい年度末ですが、送別会や引き継ぎ業務は一段落したでしょうか。送り出す業務が終わっても、次は新卒社員を迎え入れる準備で忙しい、という方も多いかもしれません。

4月になって新卒社員が入ってきて、その初々しい自己紹介を見ていると、見ている側も恥ずかしいような、懐かしいような気分になりますが、もしかしたら、そこでみなさんは聴き慣れない名前の大学名を聴くことになるかもしれません。

「そんな無名の大学の人を採用するなんて、うちは大丈夫なのか」と不安に思う前に、その大学について調べてみたほうがいいかもしれません。

実はここ数年、旧帝大、早慶上智やMARCHなどの有名大学以外のところが特色を打ち出して学生の獲得を進めており、受験生からの人気度や企業からの注目度は大きく変化しています。そのため、もし、あなたが30代以上であれば、あなたの「学歴フィルター」が古くなっている可能性があります。

今回は新卒社員が入る前の予習として、最新の大学の動向と、大きく変化した背景について紹介します。

2015年最も人気があった大学は?人気が上昇している大学は?

まずは大学の人気度について紹介します。2015年に最も人気があった大学はどこだと思いますか。

東洋経済新報社の調査によると、2015年の一般入試志願者数トップに立ったのは「近畿大学」です。少子化が進む中、志願者数は前年比7814人、7.4%増で11万3704人にも上りました。これは10年前の志願者数のほぼ2倍に相当します。

近畿大学は出願の完全ネット化、国際学部(仮称)の新設、キャンパスの整備、クロマグロの完全養殖成功など様々な改革を実行し、それらを高い広報力を駆使して全国にPRしたことが高い人気につながっています。

その他にも、東洋大学、千葉工業大学、芝浦工業大学といった、これまであまり知名度が高くなかった大学も志願者が急増しています(10年前に比べ1.5〜2倍近く増加)。これらの大学は非常に独自色の強い施策を打ち出して、学生の人気を獲得しています。(例えば、芝浦工業大学はグル—バル化への対応を強化、2023年度には学生の留学経験率を100%にすることを打ち出しています)

その他にも、2004年に新設されたばかりの国際教養大学では、「全ての授業を英語で実施」、「留学生と交流するために1年間の寮生活を義務化」といった特色を打ち出し、秋田県という立地をものともせず、志願倍率が約10倍という高い人気を獲得しています。

こうした中、早稲田、慶応、立命館といったいわゆる名門大学の志願者は減少しており、直近は伝統よりも特色のある大学に人気が集まっていると言えます。

少子化だけではない、大学が特色を打ち出す理由

このように大学が特色を出しているのは、少子化で子供の数が減っている中で確実に学生数を確保するための戦略、というだけではありません。

あまり知られていないのですが、現在、日本は大規模な教育改革の最中なのです。

文部科学省は、今年度中に小中高校の学校教育の基準となる「学習指導要領」を約10年ぶりに全面改訂する方針を発表しています。

今回の改訂では、「暗記・再生型」から「思考・発信型」の授業への転換が掲げられており、これまでの、一斉画一的な内容を一方的に教師が教えるのではなく、自分の考えをまとめ、話し合い、伝える・表現する「アクティブラーニング」という手法を授業に取り入れることが決まっています。

また学習内容については「.英語教育の強化」と「地理歴史、公民を新必修科目に変更」の2点がメインとされています。具体的には、英語については、小学校3年生は週1回、5−6年生は週2回の授業を実施、高校では英語の発表やディベートを取り入れる、歴史総合、地理総合、公共という必修教科を新設する、といったことが決まっており、2020年度から順次導入される予定となっています。

大学受験についても、「高大接続改革」という大きな制度変更が実施されます。
具体的には、以下のような点が変わります。

高校
(1)学習指導要綱が改定される。
(2)全員が受講する「高校基礎学力テスト(仮称)」が実施される。

大学入試
(1)センター試験が廃止され、代わりに「大学入学希望者学力評価テスト」が年数回実施される。
(2)各大学の個別入試を「思考力・判断力・表現力」を測るものに改革。

大学
現在整備が進んでいるアドミッションポリシー(求める生徒像)のほか、
(1)カリキュラムポリシー(そのために何を教えるのか)
(2)ディプロマポリシー(最終的にどのような学生を社会に送り出すか)
の2点を整備する。

つまり、時代に合わせて、高校、受験、大学の意味合いを大きく変えようとしているわけです。

特に大学については、講義で何を教えるか、どのような人間にするのか、改めて教育機関としての意義を強く求められています。そういった背景もあって、今、大学は様々な試行錯誤を重ねて、特色を打ち出しているのです。

こちらも実施は2020年からの実施が検討されています。2020年はオリンピックの年、というだけでなく、日本の教育に関しても非常に重要な年になるといえます。

Edtechが大学を変える

これまで見てきたように、2020年の教育改革に向けて、大学の変化は更に加速していき早慶、関関同立、MARCH(最近は学習院を加えてGMARCHとする場合も多い)といった、名門校の顔ぶれが数年以内に大きく変わる可能性もあります。

その変化をさらに促進する可能性があるのがEdtechです。
Edtechとは、Education(教育)とTechnology(技術)を指す造語で、教育とテクノロジーを融合させ新しいイノベーションを起こすビジネス領域を指します。

Edtechの代表例が「受験サプリ」です。毎月980円を払えば、中学の総復習から大学受験対策まで、カリスマ講師が教える英・数・国・理・社、すべての科目の授業をスマホで見ることができる、というサービスで、高校3年生の約半数が使っている、超人気アプリです。

最近では、人工知能の研究を進め、獲得した受験生のビッグデータを使って、1人ひとりの理解度に合わせて学ぶアダプティブラーニングの導入や、学習に行き詰まっている生徒に、どこに戻って学習し直したほうがいいのかレコメンドするサービスの開発も進めているとのこと。実現すれば、教師が黒板に書いたことをノートに写す、という勉強方法自体が過去のもってしまうのかもしれません。

その他にもMOOC(Massive Open Online Courses)と呼ばれるサービスも注目されています。これは、インターネット上で誰もが無料で受講できる大規模な開かれた講義のことで、受講料は基本的に無料。

いつでもどこでも映像で講義を受けることができ、知識確認のための試験問題なども受けることができます。また参加者のユーザーコミュニティーも用意されており、運営側にも有益なフィードバックがかえるため、講義運営の質も向上させることができるため、大学と受講者の双方にメリットがあると言われています。
スタンフォード大学など、アメリカの有名大学では導入が進んでおり、日本では東大が提供しています。

こうしたサービスが普及すると、「大学に行って、講義を受けて、教授の話を聴く」ということ自体がなくなってしまう日が来るのかもしれません。

これまで見てきたように、制度の視点にも、テクノロジーの視点からも、大学は今大きな変革期にあり、このままいくと、数年後には、私たちが持っている「学歴フィルター」はさらに古くなって役に立たなくなってしまうのかもしれません。

また我々の時代とは学ぶ内容も学び方すら違う世代が、今後次々に入社してくることになります。新卒社員の方には、これまでにない視点での成果を期待していきたいものです。

高橋広嗣(たかはし・ひろつぐ)
フィンチジャパン代表取締役。早稲田大学大学院修了後、野村総合研究所経営コンサルティング部入社。経営戦略・事業戦略立案に関するコンサルタントとして活躍。2006年「もうひとつの、商品開発チーム」というスローガンを掲げて、国内では数少ない事業・商品開発に特化したコンサルティング会社『フィンチジャパン』を設立。昨年には新たにコンテンツマーケティング事業を立ち上げ、耳×ヘルスケアに特化した自社メディア「 耳福庵 」の運営も行っている。著書に『半径3メートルの「行動観察」から大ヒットを生む方法』がある。