訪日観光客,地方,観光
(写真=PIXTA)

訪日外国人客2000万人時代が始まった。政府観光局がまとめた2015年の訪日客推計値は2014年を47%上回る1973万7000人。為替の円安基調やビザの発給要件緩和、免税制度の拡充が奏功し、中国人を中心に訪日客が急増、「2020年に2000万人」を打ち上げた政府目標にほぼ到達した。

しかし、訪日客の大半は東京、京都、大阪の「黄金ルート」に集中している。地方では北海道が雪を売り物に中国南部や東南アジアの観光客に人気だが、その他の地域に大きな波及効果は見られない。訪日客を地方に呼び込み、地方創生につなげるには何が足りないのだろうか。

訪日客の宿泊先は東京、大阪、京都が半数

政府観光局によると、2015年の訪日外国人客を国別にみると、中国が2倍強の499万人、韓国が45%増の400万人、台湾が30%増の368万人、香港が65%増の152万人、米国が16%増の103万人。このほか、タイ、シンガポール、マレーシアなど東南アジア諸国も2014年を21〜49%上回り、アジアを中心に訪日客が激増している。

観光庁によると、2015年の訪日客旅行消費額は過去最高の3兆4771億円。日本の主要製品年間輸出額と比べると、半導体など電子部品(3.6兆円)や自動車部品(3.4兆円)に匹敵し、中国人を中心とした爆買いが日本経済に好影響を与えていることがうかがえる。

ところが、訪日客の宿泊先を見ると、黄金ルートといわれる東京都(1778万人泊)と大阪府(934万人泊)、京都府(481万人泊)に集中した。全国の訪日客延べ宿泊者数は6637万人泊で、過去最高を記録したが、この3都府で全体のほぼ半数を占めている。

その結果、3都府では、宿泊施設の客室稼働率が大阪府の85.2%を筆頭に、東京都82.3%、京都府71.4%と異様に高く、週末となればほとんど部屋を取れない状況になった。国内全体でも2014年を3.1ポイント上回る60.5%に上昇している。

この恩恵は3都府とその周辺の観光地、テーマパーク、デパート、量販店、高級ブランド店にもたらされた。爆買いがデパート、量販店の売り上げを大きく押し上げたほか、観光地やテーマパークも過去最高の人出を記録するところが続出、うれしい悲鳴を上げている。

地方に広がらない訪日客増加の恩恵

地方で宿泊する訪日客も増えている。3大都市圏の訪日宿泊客の伸びが41.6%なのに対し、それ以外の地方は59.9%。数字の上では急増といえるが、もともとの数が少ないため、地域にもたらす恩恵は限定的だ。

訪日客の延べ宿泊者数が300万人泊を上回ったのは、3都府を除けば、北海道と沖縄、千葉両県だけ。中でも北海道は中国南部や台湾、東南アジアから雪を目当てに訪日客が殺到、新千歳空港が大混雑するなど観光ブームにわいている。

しかし、東京ディズニーランドのある千葉県が東京観光の延長線上にあると考えれば、日本を代表するリゾート地の北海道、沖縄以外の地方に、訪日客の目は十分に向いていない。

各都道府県や市区町村がまとめた地方版総合戦略では、訪日客誘致による観光振興を目標に掲げたところがほとんどだが、今のところそれほど大きな効果を上げていないのが実情だ。

徳島県は糖尿病の検診、治療と鳴門海峡の渦潮観光をセットにし、全国に先駆ける形で2010年から中国人訪日客の誘致に乗り出した。糖尿病死亡率が長年、全国トップを続けていたことから、飯泉嘉門知事は「ピンチをチャンスに変える」と意気込んだものの、誘致は進んでいない。

医療観光を望む中国人の多くは、医療施設や観光地が充実する首都圏や京阪神に流れている。尖閣諸島問題など日中間の対立が深刻化するという不運があったものの、見通しの甘さは否めない。

スノーモンキーや日本の原風景が人気沸騰

そんな中、訪日客に人気のスポットとなった地方もある。地獄谷野猿公苑で温泉につかるニホンザルが「スノーモンキー」として有名になった長野県山ノ内町がその代表だ。2014年の延べ宿泊者数は過去最高の2万8600人泊。山ノ内町商工観光課は「2015年の数字はまだ確定していないが、それを大きく上回りそうだ」と喜んでいる。

先進国で野生のサルが暮らすのは日本だけ。しかも雪と戯れるサルも日本にしかいない。欧米人訪日客の間では、東京駅から3時間かけて地獄谷野猿公苑へ足を延ばすのが口コミで定番になりつつある。

だが、訪日客に満足してもらわなければ一時的なブームに終わるかもしれない。訪日客の多くはパソコンや携帯端末を無線ランでインターネットに接続するWi-Fi(ワイファイ)の利用を望んでいる。このため、山ノ内町はホテル、旅館のWi-Fi整備に補助金を出し、訪日客をつなぎとめようとしている。

岐阜県北部の飛騨地方も人気急上昇中だ。お目当ては白川村の世界遺産白川郷や飛騨市のサイクリングツアーなど。白川村には台湾や中国、飛騨市は香港、台湾、豪州からの訪日客が目立つ。

白川村観光振興課は「日本の原風景ともいえる光景が、訪日客の心をつかんだのではないか」、飛騨市観光課は「地域の良さが広まり、関西から足を延ばしてくれる訪日客が増えてきた」と笑顔を見せる。地域一体となったプロモーションも知名度向上につながっているようだ。

訪日客のニーズ見極めが必要

日本人観光客と訪日客のニーズが必ずしも一致するとは限らない。地方が単に地元の有名観光地を抽出してPRするだけなら、魅力的な観光スポットを多数抱え、知名度の高い東京や大阪、京都との競争を勝ち残れるはずがない。

訪日客のニーズに合うスポットやイベントを探してPRするとともに、訪日客が不満を持つWi-Fi環境や多言語案内表示の整備を急いで進める必要がある。日本ブームがいつまで続くかは分からない。ブームのうちに地域を挙げてもてなす態勢づくりも進めなければならないだろう。

高田泰 政治ジャーナリスト
関西学院大卒。地方新聞社で文化部、社会部、政経部記者を歴任したあと、編集委員として年間企画記事、子供新聞などを担当。2015年に独立し、フリージャーナリストとしてウェブニュースサイトなどで執筆中。マンション管理士としても活動している。