(写真=The 21 online)
(写真=The 21 online)

「鷹の顔のように」ーー方向性を一言で示す

もちろん、実現が難しそうなテーマを与えて、急き立てるだけでは、イノベーションは起こせない。本田氏は、目指すべき方向性を的確に見出し、それを一言で示すのが上手だった。

「たとえば、H1300クーペというクルマの前面のデザインを描いていたときには、『クルマの顔は、鷹が獲物を狙っているような鋭い目つきのキリッとした顔がいいんだよ』というアドバイスを受けました。そこで動物園に行ったり、野鳥図鑑を見たりして、鷹の顔を何枚もスケッチしているうちに、目の形がひし形なのと、その丸い目玉に鋭さの秘密がある、と気づいた。さらに、尖ったくちばしのイメージを加えてモデルにしたら、今までにない精悍な表情の車ができました」

「鷹の顔」というキーワードがあったことで、開発チームの間でも同じイメージが共有でき、仕事がスムーズに進められた。

「大勢の人を動かすためには、簡潔で共有しやすいイメージを示すことが重要、と学んだ。私も、何か伝えたいことがあれば、できるだけ簡潔でわかりやすい言葉(一口言葉)にまとめることを、常に心がけています」

最近は「ほめる」ことの重要性が言われるが、本田氏はほとんどほめない人だったという。

「ただ、良いものができると、こんなに喜んでもらえるのか、と思うくらい、嬉しそうな顔をされるんですよね。『君はできねえって言ったけど、できたじゃねえかよ!』と悪態をついたりして。すると、それまでの苦労がすべて報われる。そんな本田さんの顔が見たくて頑張っていたような気がします」

岩倉信弥(いわくら・しんや)多摩美術大学名誉教授/デザイン道場楽塾主宰
1939年、和歌山県生まれ。64 年、多摩美術大学卒業後、本田技研工業㈱入社。㈱本田技術研究所専務取締役、本田技研工業㈱常務取締役を歴任。日本発明表彰通産大臣賞、日本グッドデザイン大賞他受賞歴多数。立命館大学経営学博士。東京理科大学MOT客員教授。本田技研工業㈱社友。著書に、『本田宗一郎に一番叱られた男の本田語録』(三笠書房)、『1分間本田宗一郎』(ソフトバンククリエイティブ)などがある。

(取材・構成:杉山直隆 写真撮影:永井浩)(『 The 21 online 』2016年4月号より)

【関連記事】
「熱意と準備」で作る、 最高の第一印象
【PR】「成功する人」は、なぜ「偶然」を大事にするのか?
40代でターニングポイントを迎えた名経営者たち
これから10年、伸びる業界・沈む業界
「優等生社員のワナ」第1回 なぜ「できる人」が会社を滅ぼすのか