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学生時代に海外へ留学した経験をお持ちの方もいらっしゃるかと思いますが、近年、企業に所属する人材が海外の公的機関や現地法人に赴任する「留職」が少しずつ増えてきていることをご存じでしょうか。

「留職」とは「留学」にちなんだ造語です。勤務している会社に籍を置きながら、一定期間、職場をいったん離れ、今までとは異なる環境のなかで、本業で培ったスキルや自社のノウハウを生かして働くことを指します。この「留職」が、企業の社会貢献とグローバルリーダーの育成施策が合わさった新しいムーブメントとして、いま注目を集めています。

アメリカではIBMなどが導入中。日本国内の動きも活発化

「留職」はアメリカで2008年ごろからICV(International Corporate Volunteering:国際企業ボランティア)と呼ばれて急速に広がった活動が原点といわれています。そのアメリカではIBMやグラクソ・スミスクライン、スターバックスといった大手企業を中心に導入。多くのビジネスパーソンが新興国に派遣され、現地で社会貢献活動に従事しています。

日本でもこの「留職」を導入する企業は増えつつあり、特定非営利活動法人クロスフィールズという団体が「留職」を日本で初めて実施。その後、日立製作所やパナソニック、ベネッセコーポレーションなどの企業も「留職」の取り組みをスタートするなど、その動きは少しずつ広がりを見せています。

「留職」の仕組みについて

「留職」は、大きく分けて派遣前、派遣中、派遣後の3段階で構成されます。

派遣前には、適切な留職者の選定や留職先および業務内容の決定などを行うほか、受け入れ先の国の文化や風土についての理解を深めます。期間は会社にもよりますが、数週間から1カ月前後でスケジューリングされることが多いようです。

派遣中は、現地で決められたテーマの解決に向け、他の国や企業および現地の人々と連携して作業を進めていきます。留職者が本業で培ったスキルを活用できるフィールドであることが大前提ですが、日々のコミュニケーションや業務に対する姿勢・取り組み方の違いなども考慮しつつ、周りを巻き込みながら現実的な課題解決に当たることが求められます。

そして派遣後は、学んだ経験を振り返り「留職」の取り組みを広め、日常業務の糧とします。現地での試行錯誤、計画や課題に対してどうコミットメントしたか、最終的なパフォーマンスはどういったものがあげられたかなど、きちんと振り返ることで、今後の働き方につなげていくことが目的です。

通常では経験できないような現地の課題解決に携わる

ビジネスや情報のグローバル化が進むなか、世界を相手にできるグローバルリーダーの育成は避けられない経営課題となっています。優秀な社員に海外経験を積ませるための施策として、これまでは海外拠点への異動や海外大学でのMBA取得などがありましたが、これらに変わり得る1つの選択肢が「留職」です。

「留職」では、新興国に身を置く普通の駐在員だと、ビジネス上、普段対応する機会すらない現地の課題解決に携わります。特定非営利活動法人クロスフィールズがカンボジア村落開発を手がける非政府組織(NGO)と協力・実施した「留職」では、「手工芸品工房の生産管理の仕組みと、早期黒字化に向けた貢献」「外国人観光客をターゲットにした手工芸品直営店の売り上げを倍加させる施策立案」などの実践業務を行いました。

参加者からは「留職」ならではの経験が積めたとの声

参加者からは「言語の問題よりも日本的なコミュニケーションの方法がまったく通用しないことが壁になった」「現地では会議で資料を使う習慣がなく、一から粘り強く説明する必要があった」「現地の人々の輪に入り込むと同時に、自社のノウハウをどう活用すれば課題の解決に役立つかを真剣に考えるようになった」といった声が寄せられ、日本では得難い経験ができたことに対する意見が多いとのこと。これらは新興国を相手にビジネスをする際に大切な感覚です。また、普段とは異なる業務プロセスの責任を負う経験もまた、ビジネスリーダーとして貴重なものになるはずです。

「留職」に関する取り組みは、日本企業の人材に不足していた「海外赴任先に溶け込み、自社のノウハウを赴任先に合わせて活用させる」ための意識変革と、スキル習得の一助として注目される施策といえるでしょう。

(提供: HRreview

初出『HRトレンドハンドブック』(HR総研)

松本利明(人事・戦略コンサルタント/HR総研 客員研究員)

編集:大城達矢(HRレビュー編集部)