霞が関,中央省庁
(写真=PIXTA)

文化庁を数年以内に京都府へ全面移転させるとした政府機関地方移転の基本方針がまとまった。消費者庁の徳島県移転、総務省統計局の和歌山県移転は検証作業を続け、8月末までに結論を出すことにしているが、観光庁など4庁は移転を見送られた。

政府の研究・研修機関も全面移転は既に移転済み1機関を含めた2機関だけ。地方行きを嫌がる官僚の抵抗から、形だけの地方移転にとどまり、地方創生を看板に掲げる安倍政権の本気度が問われそうだ。

中央省庁の移転決定は文化庁だけ

政府の「まち・ひと・しごと創生本部」によると、地方移転の検討対象となった7省庁のうち、正式に移転が決まったのは京都府へ移る文化庁だけ。徳島県が誘致を進める消費者庁、和歌山県が受け入れを希望する総務省統計局は、試験移転の結果や人材確保の見通しなどを検討するとして、8月末まで結論を先送りした。

移転先候補が大阪府の中小企業庁、大阪府と長野県が手を挙げた特許庁、三重県が誘致を進めた気象庁、北海道と兵庫県が希望した観光庁は、移転を見送り、地方拠点を拡充する。

政府の研究・研修機関では、計23機関が全面、一部移転、地方との連携強化をすると決まったが、このうち全面移転は大阪府が手を挙げた国立健康・栄養研究所と、広島県に既に移転済みの酒類総合研究所のわずか2機関にとどまった。

このほか、東京国立近代美術館が工芸館を石川県へ部分移転する一方、産業技術総合研究所が愛知県、国立がん研究センターが山形県に連携拠点を置くなどする。

政府機関の移転は東京一極集中を是正する方策として打ち出された。首都圏の1都3県を除く43道府県を対象に誘致したい機関を公募、鹿児島県を除く42道府県から69機関に対する提案があった。

菅義偉官房長官は記者会見で「政府としてこれらの取り組みが国と地方の双方にとって有意義なものとなり、地方創生に効果をもたらすよう努めたい」と述べたが、掛け声倒れに終わった感は否めない。

消費者庁の徳島移転は予断許さぬ状況

中央省庁で移転が唯一決まった文化庁は、定員230人のうち、数十人を国会対応などで東京へ残し、長官を含む残り全員が京都府へ移る。

京都府は京都市上京区の府警本部本館や東山区の市上下水道東山営業所など11の移転候補地を提案した。山田啓二知事は施設建設について安倍晋三首相に地元として応分の負担をする覚悟があることを示し、スムーズな移転を目指している。

具体的な移転場所の選定など課題も残るが、山田知事は「今般の移転が文化振興、地方創生の契機となるようオール京都で支えていきたい」と意欲的なコメントを発表した。

結論を先送りされた徳島県では、消費者庁の板東久美子長官らが実証実験第1弾となるお試し移転を行った。神山町の共用オフィスから徳島県庁の飯泉嘉門知事とテレビ会議をしたほか、国民生活センターの誘致先となる鳴門市撫養町の県鳴門合同庁舎を視察した。

県は消費者庁を県庁本館内、国民生活センターを防災無線施設が整備されたばかりの東部県土整備局鳴門庁舎を急きょ閉鎖して受け入れ先に充てるなど、誘致実現へ懸命の対応を示している。

飯泉知事は徳島市で開かれた消費者問題県民大会であいさつし「移転により消費者行政のレベル向上を図りたい」と意欲を見せたが、板東長官はICT(情報通信技術)を活用した執務について「有用性に限界を感じた点もある」と語った。移転が実現するかどうかはまだ予断を許さない。

これに対し、誘致が実現しなかった自治体からは、相次いで失望の声が上がっている。特許庁の誘致を目指したものの、認められなかった長野県の阿部守一知事は「踏み込んだ対応とならなかったのは大変残念な結果」とするコメントを発表した。

水産総合研究センターの移転を目指した宮城県、教育研修センターの誘致を進めた秋田県では、「政府が大々的にアピールしていたのに残念」などと失望の声が漏れた。

都落ち嫌がる官僚が激しく抵抗

形だけの移転となった原因と考えられているのが、東京を離れたくない官僚の抵抗だ。退官するときの勤務地が地方だと、格落ちになると考え、退官後の処遇に不安を感じる官僚が少なくないという。

特に今回、移転が検討された庁は外局と呼ばれ、省内に設けられている。庁のトップに省内ナンバー2の官僚が就任しているところが多く、省を挙げて反対行動を起こしやすい。移転を見送られた4庁がそれに該当する。

これに対し、文化庁や消費者庁は外部の人材が長官に起用されることが多い。このため、政府が移転させやすいと考え、政権の体面を保つために強く移転を求めたとも伝えられている。文化庁の職員からは「政権からスケープゴートにされた」と不満の声が出ている。

政府の思惑が官僚の抵抗で骨抜きにされた例は過去にもあった。竹下内閣時代の1980年代、政府機関の地方移転で約70機関が東京を離れている。しかし、首都圏を離れるのに官僚が抵抗し、大半が神奈川県や埼玉県など首都圏内で移転、首都圏を離れたのはわずか3機関しかなかった。当時と同じ状況がまた繰り返されたように見える。

今回の基本方針に移転見送りとなった機関の出先機能強化が盛り込まれていることも気になる。出先機関の強化を名目に組織が肥大化することが考えられるからだ。政権の体面を保ちたい政府の意向を逆手に取り、官僚側が焼け太りを図っているとの見方も出ている。東京一極集中の是正という地方創生の目的は、官僚のエゴの前にかすんでしまった。

高田泰 政治ジャーナリスト
関西学院大卒。地方新聞社で文化部、社会部、政経部記者を歴任したあと、編集委員として年間企画記事、子供新聞などを担当。2015年に独立し、フリージャーナリストとしてウェブニュースサイトなどで執筆中。マンション管理士としても活動している。