地方移住,過疎化,テレワーク
(写真=HPより)

場所にとらわれない新しい働き方の「テレワーク」を活用し、移住者を集めようとする地方自治体が増えている。総務省の「ふるさとテレワーク実証事業」には、全国15地域が採択され、約180の協力会社から1000人が地方へ移って実証作業を進めた。

各自治体が目論むのは、サテライトオフィスの誘致やクラウドソーシングの活用だ。しかし、サテライトオフィスの誘致競争は激しさを増すばかり。クラウドソーシングは報酬が極端に安く、生活できるだけの受注をどうやって確保するのかが課題となる。場所にとらわれない新しい働き方が移住者を呼ぶには、高いハードルが待ち構えているようだ。

徳島の過疎地がサテライトオフィスで社会増を達成

テレワークは情報通信技術を駆使し、場所にとらわれない働き方をすることを意味する。企業の社員がサテライトオフィスや自宅で仕事をする雇用型と、自営業者や個人が企業から仕事を受注する非雇用型に大別される。

仕組みは東京都心のオフィスが不足した1980年代から登場していたが、東日本大震災で職場に出社できない人が相次いだのを機に注目が高まってきた。情報通信技術の急激な進歩も後押ししている。

国土交通省によると、2014年に週8時間以上働いた在宅テレワーカーは約550万人。政府は2020年までにテレワーク導入企業を2012年の3倍に増やす目標を掲げている。総務省の実証実験もテレワーク推進を目的にスタートした。

テレワーク先進県ともいえる徳島県では、2010年から神山町でサテライトオフィスの誘致が始まった。推進役となったのは地元の人たちで設立したNPO法人「グリーンバレー」(大南信也理事長)だ。

町内は過疎が進む山間地なのに、IT、広告など12社が進出、都会から来て子育てする若い姿の姿が目立つようになっている。約30人の地元雇用を生んだほか、2012年1月には一時的ではあるものの、転入人口が転出人口を上回る社会増を達成、「神山の奇跡」ともてはやされた。

サテライトオフィスの誘致は他の県内自治体にも広がった。徳島県集落再生室によると、進出企業は3月現在で33社。過疎が深刻な県南部の美波町には13社、県西部の三好市には5社がオフィスを構え、人手不足のうれしい悲鳴も聞こえる。

全国15地域で総務省が実証実験

総務省の実証事業では、15地域が協力企業の社員らにお試し移住してもらい、テレワークに問題がないか点検してきた。さらに、テレワーク用の共同オフィスを設け、クラウドソーシングによる仕事受注を推進しているところも目立つ。

京都府京丹後市は2015年8月、明治大学や大阪市のスマートフォンアプリ開発会社などとコンソーシアムを立ち上げ、市内の丹後地域地場産業振興センターに共同オフィスを設置して1月まで実証実験を続けてきた。

京丹後市商工振興課は「サテライトオフィスの活動に支障がなく、実証実験に参加した企業に継続して社員を派遣してもらえるよう要望している。京丹後の自然や住み良さをアピールし、誘致を進めていきたい」と意欲を見せる。

福岡県糸島市はサテライトオフィスの誘致だけでなく、インターネットの仲介サイトを通じて文書やデザイン、コンピュータープログラム作成などの仕事を受注するクラウドソーシングで移住者の誘致を目指している。日本テレワーク協会(東京)などとコンソーシアムを設立し、市内に共同オフィスやテレワークセンターをオープンさせた。

糸島市地域振興課は「クラウドソーシングだけで生活するのは難しいようだが、当面は在宅で働きたい子育て中の女性らに仕事を受注してもらうとともに、糸島の魅力をPRして移住を推進したい」と意気込む。

沖縄県八重山諸島の竹富町は離島部の仕事不足を解消するため、在宅テレワーカーの育成を進めてきた。北海道の北見市と斜里町は地元大学に隣接したサテライトオフィスで卒業生の地元定着を目指している。

乗り越えなければならない2つのハードル

若い世代が地方から東京へ向かうのは、地元に魅力的な職場が少ないことが最大の原因だ。特に過疎にあえぐ山間部や離島は、農林水産業以外だと役場やJA、漁協ぐらいしか雇用の場所がない。

以前はこうした地域の活性化策として、製造業を中心とした企業誘致が進められてきた。工場が来れば従業員の消費を当て込み、スーパーなど小売店も進出してくる。地域振興を手っ取り早く実現する方程式といえ、これでにぎわいを取り戻した地域もあった。

しかし、企業の生産拠点が賃金の低い海外へ移ったことにより、製造業の企業誘致は次第に難しくなっている。地域振興の方程式を失い、地方が途方に暮れていたところへIT技術の進歩という新しい波が押し寄せてきたわけだ。

テレワークが推進されれば、地方にいながら東京の仕事をすることができるが、課題も残る。サテライトオフィスの誘致で地方間の激しい競争が始まりそうなことがその1つだ。全国津々浦々を満足させるだけのサテライトオフィスがあるはずもなく、開設を希望する企業を奪い合う時代が来るだろう。

クラウドソーシングを含めた在宅仕事の報酬が一流デザイナーやプログラマーを除いて極めて安いことも頭が痛い。女性に人気のウェブライターは価格破壊が続き、1000文字書いて200~300円の仕事もある。これではとても生活できない。

地域が持つ魅力をどれだけアピールし、サテライトオフィスの誘致に結びつけられるか、生業として成り立つ報酬の仕事をどうやって確保すればいいのか。テレワークを移住促進につなげるため、地方の真価が問われるのはこれからだ。

高田泰 政治ジャーナリスト
関西学院大卒。地方新聞社で文化部、社会部、政経部記者を歴任したあと、編集委員として年間企画記事、子供新聞などを担当。2015年に独立し、フリージャーナリストとしてウェブニュースサイトなどで執筆中。マンション管理士としても活動している。