英国,REIT
(写真=PIXTA)

不動産投資を有価証券化したREIT(不動産投資信託)は、1960年代に米国で生まれた。海を渡って英国に導入されたのは2007年。日本よりも6年遅れのスタートを切った。

設立当初は「Buy-To-Let」に押され気味

新しい市場チャンスとして、開始当初から大手上場不動産管理会社の関心をひいていたが、「Buy-To-Let(投資目的の賃貸用住宅購入)」の人気に加え、当時は政府によって初期資産の上場に2%の手数料が課されていたことなどが足かせとなり、世間の反応はややユックリめだ。

しかし2012年の手数料制度廃止に続き、2014年に不動産購入への印紙税率が改正されると、時代の流れと市場の需要が一致。投資家からの関心が高まり、現在は9社の投資企業がマンションやオフィス、商業施設、店舗など30銘柄をREITとして発行している。

「Buy-To-Let」派もREITに切り替え

いつの時代も英国では人気だった不動産投資。住宅バブル真っただ中の英国では、昨年7万5000人の「不動産ミリオネア」が誕生したといわれている。その勢いは最高15%までの土地印紙税が導入されて以来、若干ペースに乱れは見られるものの、今なお健在だ。

しかしこうした急激な土地価格の値上がりとともに、不動産投資は「一般人には手の届かない商品」のカテゴリーに押し上げられ、近年は海外投資家を含むごく一部の裕福層に与えられた特権となってしまった。

そこで人気に火がついたのがUK-REITだ。不動産投資に興味はあるが分散投資をするには資金不足、あるいは物件の購入や転売、又貸しにツキ物の煩わしさや価格変動などのリスクから解放され、もっと気軽に高利回りを得たいという投資家に支持されている。

かつては多数の物件から家賃収入を得ていた「Buy-To-Let」派の間でも、REITへの切り替えが流行っている。家賃収入の安定性と高利回りを兼ね備える一方で、リスクを最低限に抑えた商品としてはまさに理想的といえるだろう。

UK-REITの特徴

標準的な収益分配課税率が10%であるのに対し、UK-REITには20%の課税が発生する。しかしISAやSIPP(自己投資型個人年金)を通した投資対象にすることで非課税が適用され、100%の配当金を受け取ることができる。

投資家への配当金は課税所得の90%以上。ほかのUK-REITから得た利益に関しては100%と定められている。平均利回りは4.4%。1.4%台まで落ち込んでいる10年回り国債などより、はるかに大きなリターンが期待できる。

REIT促進に向け、金融規制改革以降は条件が緩和

UK-REITで有名な大手として、ロンドンを中心に5000万ポンド相当の不動産を運用しているFTSE100企業、ランド・セキュリティーやハマーソン、ブリティッシュ・ランドなどが名を連ねている。昨年はASSURA、AEW 、K&C グループといった新手も進出してきた。

英国でREIT企業として登録するには、政府によって定められた条件を満たしている必要がある。UK-REIT を促進する目的で、2012年以降は規制が緩められた。

現在は英国で法人税を納めているロンドン証券取引所上場企業(新興企業用のAIMも含む)で、普通株、許可をうけた優先株、転換優先株を発行していることが第1条件となっている。米国のようなプライベートREITは認可されていない。

そのほか総資産の75%以上が不動産および関連資産であること、評価額が総資産の40%以下の不動産を3軒以上所有していること、といった一定の条件を満たした場合にのみ、REITを発行することが可能だ。

伸びる? 伸びない? UK-REIT

最も勢いのあるアジアREITはもちろん、現在138銘柄を誇る大規模なUS-REITなどと比べ、欧州REITは全体的に元気がない。

国際資産運用グループ、フィデリティ・インターナショナルは、英国におけるREITの確立には相当の年月と努力を要すると見ている。「小規模なうえに多様性に欠けるUK-REITから、投資家が得られる利益は微々たるもの」というのが主な理由だ。

各国のREIT市場には異なる特徴が見られるが、米国やオーストラリアなどが30年かかってようやく熟成期に達したという前例からも、「英投資家はREIT以外の投資商品、あるいは海外のREITにも目を向けるべきだ」としている。

一方、ロンドンに本社を置く国際法律事務所、Nabbaroが不動産ファンドマネージャーや投資家238人を対象に昨年実施した調査では、18%が今年はUK-REIT銘柄がさらに増えると予想。市場が拡大される追い風が吹いているという見方を示している。

真向から対立する見通しの勝敗は、歴史の浅いUK-REITに懐疑的な投資家を市場に引き込めるかという一点にかかっているのかも知れない。(アレン・琴子、英国在住のフリーライター)