ワインは「成功への近道」?
ワインは「一流の経営者が飲むお酒」というイメージを持つ人は多いだろう。だが、その理由は決して、「お金持ちだから」ではない。成功者がワインをたしなむのは、それがビジネスの成功をもたらすことを知っているからだ。
自らもワインエキスパートの資格を持ち、多くのワイン好きの一流経営者へのインタビューを行なってきた猪瀬聖氏に、その秘密を解き明かしてもらおう。
デキる人ほどワインに「ハマりやすい」理由とは?
古今の名経営者と呼ばれる人の多くがワインを愛好しているのはなぜか。その理由は、ワインとビジネスとの親和性の高さゆえに他なりません。
ビールや日本酒、焼酎などお酒は数多くありますが、ワインほど複雑な要素を持つお酒は他にありません。いくら学んでもすべてを知り尽くすことは到底不可能。だからこそ、好奇心旺盛で、一つのことに熱中するタイプが多いビジネスエリートほど、その「奥深さ」に魅力を感じるのです。
ワインの原料はブドウです。けれど、その品種は多種多様。主要品種だけでも約100種もありますし、世界各地の土着の品種まで数えればキリがありません。
また、ワインを語る際、「テロワール」という言葉がよく使われます。これは、フランス語で「土地」という意味で、「場所・気候・土壌」などを指します。ワインはとても繊細な飲み物で、同じ品種、同じ生産者でも、場所や気候などで味がまったく変わってくるのです。さらに、熟成によっても味がさまざまに変化していきます。これほど多くのストーリーが含まれているからこそ、そこから多くの話題が生まれてくるのです。
これは元ソニー社長の出井伸之氏から聞いた話ですが、音楽事業も手がけていたソニーのトップとして、歌手のマライア・キャリーと二人きりで食事をすることになったときのこと。その際、マライアは、自分の好きな「サッシカイア」というワインを用意していたそうです。フランス駐在時代にワイン好きになった出井氏はそのワインを知っており、話が大いに盛り上がったとのこと。それがビジネスに好影響を与えたのは言うまでもないでしょう。
経営者はここまでやって人を喜ばせる!
このことからもわかるとおり、名経営者がワインを好む理由の一つは、それが相手との人間関係を構築し、「人脈」を生むことにつながるからでもあります。人脈こそがビジネスで最も重要だということは、多くの経営者たちの共通認識です。
とはいえ、一流の人々は決して「ワインの知識自慢」をすることはありません。むしろ彼らに特徴的なのは、何よりも「相手を喜ばせる」という思いが根底にあることです。ワインはあくまで、そのための手段なのです。
たとえば、GMOインターネット会長の熊谷正寿氏は相当のワイン好きです。社員食堂にワインを置いたり、来客用ロビーにワインボトルを飾ったりするだけでなく、会食の際はレストランに専属のソムリエを連れていくほど。しかも、自らのソムリエナイフでワインを開けてみせることもあるとか。その手さばきは見事なもので、接待された相手も大喜びするといいます。
サイバーエージェント社長の藤田晋氏にもこんなエピソードがあります。あるとき、藤田氏は社員を自宅に招き、手持ちのワインを次々に振る舞ったそうです。しかも、そのうちの一本は、「ロマネ・コンティ」でした。時に100万円を超える値段で取り引きされることもあるという、あの「ロマネ・コンティ」です。
熊谷氏がわざわざワインを開けるパフォーマンスをするのも、藤田氏が自分の高級ワインを惜しげもなく部下に振る舞うのも、「相手に喜んでもらいたい」という一心からに他なりません。彼ら一流は、ワインには人と人をつなぎ、その場を盛り上げる力があることをよく知っているのです。