株式投資の世界には「5月に株を売れ」という格言がある。もしその通りなら投資家はそろそろ準備しておかなくてはならない。日本の株式市場を15年分振り返り、「5月が本当に売り時かどうか」を確かめてみた。
先人の言うことは一理ある?
株価の動きにはアノマリー、確率の高い経験則があるとされている。「5月に株を売れ」を検証するのに、昨年までの15年間(2001~16年)でTOPIX(東証株価指数)の月次の動きを追ってみた。
この間の5月の騰落は8勝7敗、単純平均で0.7%、中間値は1.1%のともに上昇だった。中間値とは上下真ん中の騰落率のことで、一部の大きな数字の影響を排除したものだ。以下では断りのない限りこの中間値を使うこととする。
5月は、02年の8.5%下落が平均値の足を引っ張った。この急落はこの15年間で歴代8位の下げ幅で、前年9月の米国同時多発テロの後遺症だったように記憶している。それでも平均してプラスということは、5月は確かに相場の強い時期といえるだろう。
年初からの上昇基調は5月にピークを迎える
8勝7敗の5月を上回るのはいずれも10勝の2月、9月、11月と、9勝の3月と5月だ。さらに月間騰落率の平均値、中間値がともにプラスだったのもこの5カ月で、上げ幅の大きい順に11月、2月、1月、10月、5月となっている。5月は上昇月の中で最も上げ幅が小さいのだ。
月間騰落率を年初から順にみると、1月から5月までがすべてプラス、6~8月は連続マイナス、9~11月がすべてプラス、そして12月はマイナスに転じている。年初から上昇が続いて5月がピークとなり、その後3カ月は下落基調となる。だから「5月に売れ」は的を射ていることになる。これを数字でみると、累積の騰落率は年初から5月までが7.4%の上昇、6~8月は4.4%の下落となる。
米国はバケーション・シーズンに備えて「Sell in May」
「5月に売れ」はもともと米株式市場で言われていたことが日本に輸入されたと考えられる。それは「Sell in May and go away. But remember come back in September(5月は株を売ってどこかへ行け。ただ9月に戻ってこい)」というものだ。米市場関係者がこれをアノマリーととらえているかは分からないが、6~8月はバケーション・シーズンで市場参加者(買い手)が減り、株価が下がりやすくなるとされている。
日本の金融関係者の夏休みはせいぜい1週間程度。8月前半のお盆の期間を除けば日本の市場参加者が極端に少なくなるとは考えにくい。ただ5月が上昇しやすい時期であることは、それが新年度入り直後だからという可能性もある。
海外投資家の影響を受け、日本株も「Sell in May」
機関投資家は決算を控える3月はあまり動けないが、年度明けの4月になるとたとえば年金ファンドには新たな資金が入ってくる。また新卒者や退職者が新年度入りを契機に新たな保険契約を結ぶことも多いため、保険会社もかき入れ時だ。これらの新たな資金が株式に向かえば株価上昇要因になる。
もっとも、日本の株価はその取引の7割を占める海外投資家の動向次第。こう考えると6~8月の日本株の下落アノマリーは実のところ“海外投資家のバケーション効果”と思えてくる。
米国の格言の後段「9月に戻ってこい」は日本ではそれほど言われていないようだが、実際は「5月に売れ」同様の説得力がある。先にみたようにTOPIXは過去15年間の実績で6~8月に4.4%下落したあと、9~11月の3カ月は5.1%上昇しているからだ。
8月の下落で買って12月に売る?
年末年始については「12月に売り、年初に買え」と言われている。この15年間の12月の中間値が0.3%のマイナス、1月は1.8%のプラスとなっているのがその理由だ。
これらを通年でまとめると、「年初に買い、5月に売れ。そして8月末に買い戻し、12月に売れ」となる。このようにうまく“泳ぎ切る”と、年間リターンは何と12.9%の高率になる。
もちろんこれは「獲らぬ狸の皮算用」に過ぎない。「5月に株を売れ」が少なくとも経験則として妥当であることは分かったが、今年はどうなるだろう。
5月までに中国、米国、日本で注目の1-3月期のGDP速報が発表される。日米の金融政策会合では、緩和策、追加利上げの有無が注視されている。5月末にはG7伊勢志摩サミットもある。今年は例年にも増して波乱のある月となるかもしれない。(上杉光、シニア・アナリスト)
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