投資信託,相続,税
(写真=PIXTA)

三菱UFJ信託銀行が「相続機能の付いたファンドラップ(投資信託)」を発売したが、基本的に投資信託には相続機能がついていない。「投資信託の相続」において、気をつけるべきポイントとは何だろうか。

投資信託相続は引き継ぐ側とのコミュニケーションが大切

⑴ 誰への相続資産なのか明らかにする

投資信託は長い期間をかけて運用するので、10年後の相続を見据えて投資を始めても、いざ相続の時には誰に残したいか考えが変わっている可能性もある。

たとえば、将来の資産形成に役立ててあげようと、独身の子供のために現金よりも(流動性の低い)投資信託を準備していたとしよう。結婚や出産によって家族構成が変わった場合、それにともなって「必要な資産」も変わる可能性がある。投資信託は面倒な手続きがないからと長い期間放置するのではなく、「投資信託は誰に相続させるのか」を3年や5年ごとの定期的に確認するようにしたい投資商品だ。

⑵ 投資信託の資産も相続財産に入る

面倒な相続手続きがないと忘れがちなのが、「投資信託に投資した資産も相続財産になる」ということだ。相続は現預金、不動産、株式とさまざまな種類があるなかで、投資信託の資産も含めたうえで、相続の分割協議を進めるようにしたい。

また、投資信託は「運用成績」がある。相続が発生するタイミングによって、相続資産額が変わることに注意が必要だ。遺言などで「投資信託の資産を〇〇に相続する」という形式であれば問題ない。注意が必要なのは遺言が存在せず、法定相続分による相続で、投資信託の額によって(現金などの)他の資産とのバランスが変わるような場合である。

⑶ 相続後の運用益は所得税の対象になる

相続人が投資信託を相続したあと、発生した運用益は所得税や住民税の対象となる。これは相続に関係なく投資信託を運用した際の課税ルール通りだ。

相続後に売却して、利益(購入時との差額)が発生したら、利益も課税対象となるため注意が必要だ。「相続で受け取った時の評価額と売却金額の差」ではなく、「購入した時の金額と売却金額の差」で計算されるため、相続した側は気をつけなければいけない。

これはひとつの考え方ではあるが、「評価額の低い投資信託を相続したら、多少の含み損には目を瞑り解約する」ことも賢い考え方だろう。評価額が購入金額より低い場合には利益は出ないため、売却時に税金がかからない。税金のこの特色を活かし、「余計な」課税をされないようにしたいものだ。

⑷ 予め相続人に伝え「教育」する

ここまで「投資信託の相続で気をつけるポイント」としていくつか伝えたが、共通しているのは「相続人が投資信託を継いで困らないようにすること」だ。投資信託はほかの資産とは毛色が異なり、「運用を『他人』に委ねる」資産運用である。そのため、相続人も投資信託の知識と、資産を他人に預けているという「認識」が欲しいところだ。

投資信託に加入した時から、親はいずれ訪れる相続に備えて、相続を考えている子どもに「投資信託の教育をする」ようにしたい。投資信託とはどのような投資方法なのか。信託報酬などの「控除」はどのような仕組みになっているのか。そして前項のような、税金制度はどうなっているのか。それが投資信託を相続する際の、最大のポイントといえるだろう。

相続機能が付いていても、ファンドラップも投資信託

冒頭で名前を出したファンドラップも、複数のファンド=投資信託をまとめて運用しているものなので、「運用を『他人』に委ねる」資産運用である。商品性として、相続が発生したと分かった段階で現金化されるため、相続手続き中に意に反して運用されないメリットがあるが、運用を続けたくてもできないというデメリットにもなる。今回の三菱UFJ信託の相続機能は、現金化された資金を誰に引き継ぐか指定できるというものだ。

投資信託にしても、ファンドラップにしても、契約者に「手がかからない」ものは多いが、それは利益を出すにあたっての「手のかからなさ」であって、投資信託を運営していくうえでの様々な知識は必須だ。投資信託を引き継いだ子どもが「よくわからない」ままでは、売却のタイミングを逃すなど失敗にも繋がりやすい。

親世代がどれだけ投資信託を「資産運用」として考えていても、引き継ぐ子世代によっては「ギャンブル」と考える人もいる。大切なのは、投資信託を親世代と同じく「運用」として考えている相続人に引き継ぐこと。

「自分は投資信託を否定的に考えていたが、仕方なく(投資信託での相続を)受けた。本当は現金や不動産の方が良かった」という感覚を持たれると、死亡後の「争族」の発生にも繋がりやすい。あらかじめ考え方を、家族間で共有しておくことも忘れてはいけない大切なポイントといえるだろう。


工藤 崇 FP事務所MYS(マイス)代表

1982年北海道生まれ。北海学園大学法学部卒業後上京し、資格試験予備校、不動産会社、建築会社を経てFP事務所MYS(マイス)設立、代表に就任。雑誌寄稿、WEBコラムを中心とした執筆活動、個人コンサルを幅広く手掛ける。ファイナンシャルプランナー(AFP)。