生活資金を預けたり、家賃や高熱費を支払ったりする銀行口座に、株式や為替、債券の取り引きで必要な証券口座。金融商品を取り引きするためには開設しなければならない一方で、口座を悪用した犯罪に使われることもあるという。
例えば、振り込め詐欺や相場操縦を狙った犯罪者は、一般に生活する第三者から入手した銀行や証券の口座を使っていたという。詐欺師を狙う詐欺師を題材にしたマンガ『クロサギ』の中にも、振り込め詐欺の振り込み先に、第三者の口座を活用するシーンが出てくるし、犯罪者にとって自分自身の身元を隠せる第三者の口座は都合のいい道具なのかもしれない。
今回はそんな、銀行・証券口座の不正利用から、金融のウラガワを覗き込んでみよう。
ウラで売買、犯罪に使われる銀行口座
全国銀行協会(全銀協)によると、犯罪に利用される口座が実は多数あるという。使い道としては例えば、闇金の返済金振込口座や、架空請求代金の振込口座、振り込め詐欺の入金口座など、法律に抵触していたり公序良俗に反したりする目的で、銀行口座が悪用されているそうだ。
過去の統計からも明らかだ。具体的には、2014年度には、こうした不法行為に利用された4万3070口座に対して、利用停止や強制解約などの措置が取られており、少なくない口座に対して不正利用を理由に制裁を科した格好だ。また、全銀協の会員ではない信用金庫、信用組合の口座も加えれば、さらに多くの口座が犯罪に利用されていると見られている。
しかし、口座売買などいったい、どのように行われるのかと疑問に思うかもしれない。直接的にそうした疑問に答えれば、全銀協によれば、インターネットやダイレクトメールで、口座売買に勧誘するケースがみられるという。「手軽な高収入」を謳っているが、その実態はクセものだということだ。
また、闇金業者が顧客から口座を調達するケースもあるという。かつては、闇金業者が債務者に対し返済原資を作るために預金口座の売却を勧める事例も報告されていたが、最近では債務者に銀行口座の貸出を条件にした融資を持ち掛けているとの指摘があるのだ。
例えば、「通帳、印鑑、キャッシュカードは、あなたの信用力を高めるために取引実績を作った後で返却する」と言われ、最後には実際にそれらを返してもえる。が、貸し出している間に、振り込め詐欺などの犯罪に利用されてしまう寸法だ。
インサイダー取引や相場操縦にも利用?第三者名義の証券口座
第三者から取得した借名口座の典型的な利用方法は、闇金業者や詐欺業者による資金回収やマネーロンダリングだが、資金取引だけでなく証券取引で不正行為を働く者の利用も増えていると言われている。
不正利用者による証券口座の収集拡大の背景にあるのは、株券の電子化だ。現在では、株式は証券保管振替機構が電子的な帳簿で管理することになり、印刷された紙の株券は廃止された。結果、あらゆる上場株式の取引を証券取引等監視委員会が漏れなく把握できており、インサイダー取引や仕手戦(相場操縦)が難しくなったとされている。
その中で、犯罪者らが証券口座を手に入れられれば、インサイダー取り引きや相場操縦を狙うこともできることから、口座を不正利用する傾向も強まっているという。
実際に、ネット上では最近、証券口座の売買が行われているとされている。中には、1口座5万円で取り引きされているという話もある。NISA(小額投資非課税制度)のスタート時に各社が口座獲得競争を繰り広げたが、取敢えず開いた口座を売ってしまっている人もある程度いるのではないかとも疑われているのだ。
中には、知人に口座開設の対応マニュアルを渡して200以上の借名口座を集め仕手戦を行った事例も摘発されており、大量の証券口座が不正利用者にわたっている様子だ。
犯罪に巻き込まれないための銀行・証券口座管理術
さらに言えば、犯罪者に口座を渡してしまう一般の個人にとっても、無縁の問題ではない。なぜかといえば、犯罪者へ口座を売却してしまえば、悪意の有無にかかわらず、刑事罰の対象になってしまうからだ。
制度的な裏付けも見ておこう。犯罪による収益の移転防止に関する法律第27条第2項は、「通常の商取引又は金融取引として行われるものであることその他の正当な理由がないのに、有償で、預貯金通帳等を譲り渡し、交付し、又は提供した者」は、1年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金(併科あり)に処すことを定めている。言い換えれば、もし口座の売却が犯罪だと知らなければ、誰もが気付かないうちに犯罪者になってしまう可能性すらあるのだ。
こうした犯罪に巻き込まれない上で一番重要なのは、怪しい取引に応じないことだ。「簡単に高収入が得られる」といった話には必ずウラがあると考え、口座売買や貸借を持ち掛けられても絶対に応じてはならない。
また、使わなくたった口座を早めに解約することも重要だ。特に、インターネットバンキングの口座を乗っ取ってしまい、不正利用される可能性は否定できず、使わないのであればすぐに解約すべきだ。残高ゼロで損をする心配がないという理由だけで未使用の口座を放置してはいけないのだ。
加えて言えば、預金通帳やキャッシュカードを紛失したときも残高の多寡に拘わらず銀行へ届出て不正利用を防止することが大切だ。安易に口座を売らないこと、通帳などの紛失時や不審な取引を発見した際には必ず銀行へ届出ることを徹底すれば、無用な犯罪に巻き込まれるリスクを大幅に低減できることをしっかり認識すべきだろう。(ZUU online 編集部)