政府・日銀は一体となって2%の物価上昇(インフレ)を目指している。そして、日々の生活では確かに物価が上がっていると実感する。しかし、物価は上がっているが給与が上がらないので生活が厳しくなっているのはなぜだろうか。
実はインフレには「良いインフレ」と「悪いインフレ」とがあり、今の日本は「悪いインフレ」に陥っている可能性があるのだ。
良いインフレは、経済が活性化し需要が供給を上回る
良いインフレとは、経済が活性化し需要が供給を上回ることで物価が上昇するというインフレである。戦後の高度経済成長期の日本は正にその状態だった。復興に向けて経済が勢いよく成長し、将来に明るい兆しが見え、人々はより良い生活をしたいと消費も急拡大したからだ。
需要が増え商品やサービスの供給が追いつかなくなると価格は上昇する。商品やサービスの価格が上がると企業の利益は増え、企業の株価は上昇する。そうすると株式投資をしている人の資産は増え購買力も増加する。
また、従業員の給与も上がるためこちらも購買力が上がる。購買力が増えればさらに消費が増えるので、益々商品は不足し価格は上昇する。これが好循環に至る「良いインフレ」だ。このような「良いインフレ」は、需要により引っ張られるという意味から「デマンドプル」型とも呼ばれる。重要なのは、需要の増加があって価格が上がるということである。
このような「良いインフレ」の場合、株や持ち家などの資産がある人は、資産の価値がどんどん上昇し、給与やボーナスも毎年上がることになる。このようなインフレなら誰もが望むのではないだろうか。
そして、インフレ局面では時の経過によって物の値段が上がるので、早く購入しようという動きにもなるため、さらに消費が進み好循環になる。インフレが行き過ぎた場合には、金融政策によって金利が引き上げられるが、預金しているだけでも数%の金利が付くようになるので、それは別の意味おいしい。
悪いインフレは、原材料高騰などにより物価が上昇する
一方、悪いインフレとは、景気が良く需要が増えるのではなく、原材料高騰などにより物価が上昇するインフレである。世界的な需給関係の変化や為替の変動などにより輸入コストが上昇したり、生産者の減少により供給が減少したりすることで商品価格が上昇するといった物価の上昇である。
今の日本はこの状態にあるのではないかとみられている。原材料高騰によって商品価格が上昇しても、需要が増えているわけではないので、物は売れず企業の利益は増えない。利益が増えなければ従業員の給与も増えないので物価だけが上がり、実質的な所得が減少し生活が苦しくなる。このような「悪いインフレ」は、費用の増加に押されて物価が上がることから「コストプッシュ型」と呼ばれる。
「悪いインフレ」は、個人の生活を圧迫し、企業業績にも悪い影響しか及ぼさないため、景気は後退し「スタグフレーション」となってしまう。スタグフレーションとは、経済が停滞しているにもかかわらず物価が上昇し続けることをいう。
シャープや東芝の低迷と食料品とはじめとした物価の上昇を見ていると、今の日本はスタグフレーションの状態にあるのではないかと思ってしまう。幸い、石油価格が低いためかつてのオイルショックのような事態には陥っていないが、もしこれで石油価格も上昇していたら、もっとひどい状態になっていただろう。もちろん、こんな状況は誰も望まないだろうし、政府・日銀も「良いインフレ」を目指している。
ただ、日銀による異次元金融緩和は、急激な円安を生み、輸出企業を中心に売上の増加と株価を上昇させたが、その弊害として円安による食料や原材料費の調達コストを上昇させた。輸出企業の利益によってそれをカバーできると思ったが、企業は簡単には給与の増額はせず、消費税増税の影響も重なり消費が伸びにくいという状況が続いている。
もちろん、政府・日銀も現在の状態がコストプッシュ型インフレになっていることは認識している。しかし、それでもデフレマインドを転換しインフレになっているという実感を持たせることができれば、いずれ経済が追い付いていき景気が回復すると考えている。
解決策はあるのか?
では、コストプッシュ型からデマンドプル型に転換していくことはできるのだろうか。デマンドプルにするためには、文字通り需要を増加させる必要があるわけだが、需要を増やすためには何より賃金を上げることが必要である。だからこそ、政府は企業に対して賃金を上げるように再三にわたり要請している。
では、なぜ企業が賃金を上げないかといえば、一度賃金を上げると下げられないという実態があるからだ。雇用や給与の安定は従業員にとって非常に重要であるが、一度上げたら二度と下げられないというのはあまりに硬直的だ。
このような雇用慣行は、ギリギリまで企業が頑張っていよいよダメになってリストラという最悪の結果を起こしやすい。利益が上がったらすぐに給与を上げられるようにするためには、損失が出たときには一定の賃金は守るとしても給与を下げられるようにしなければならない。
日本経済を成長させるためには企業や政府にだけ頼っているだけでは解決しない。国民自らも意識も変え、日本全体で経済を立て直す取り組みをしていかなければない。(ZUU online 編集部)
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