元祖ビジョナリー・浅野総一郎の見た夢
そしてもう一人、日本の将来のために壮大なビジョンを掲げた経営者の名を挙げてくれた。
「明治から昭和にかけて活躍し、一代で浅野財閥を築いた浅野総一郎氏です。中でも大きな功績といえば、京浜工業地帯を造ったことでしょう。
浅野氏は視察でサンフランシスコを訪れた際、港湾開発によってアメリカの産業が大きく発展した様子を目の当たりにします。そして『日本にも港湾の近代化が必要だ』と確信し、同郷人である安田銀行創始者の安田善次郎から出資を受け、東京湾の埋め立てに着手するのです。その工事が完成するまで、実に15年もの歳月がかかりました。
その経緯は『九転十起の男』(新田純子著、毎日ワンズ)という本にまとめられていますが、私が感動したのは、浅野氏と安田氏が埋め立て前の海を見ながら語り合うシーン。まだ何もない場所を見ながら、『安田さん、あそこに船が走っているのが見えますか』『俺には石油コンビナートが見えるぞ』という会話を交わしたのです。
この時に二人が見ていたものこそ、まさに『ビジョン』ではないでしょうか。そこには自分の地位やお金のためといった自分ごとは一切なく、あるのは『日本の将来のためにこれをやるべきだ』という信念でした」
名経営者たちからメンタリティを学べ!
この強い思いこそ、今の日本の多くのリーダーに足りないものだと徳重氏は話す。
「皆さん頭が良いので、何でもロジックで考え、『できるか、できないか』を判断する。しかしロジックで考えることには限界があります。論理の枠の中で考えている限り、従来の発想を超えるようなイノベーションが起きるはずはありません。
グローバルで勝ち抜くためにも、思いの強さは武器になります。私もアジア各国を飛び回って交渉をしていますが、最後の決め手となるのは『自分たちのビジネスであなたたちの国の発展に貢献したい』『日本から世界トップクラスのメガベンチャーを育てたい』といった使命感です。英語力を磨いたり、相手の文化を勉強するといった表面的な努力より、気持ちの部分が勝負を左右する。そのことを日々実感しています。
よって今の時代のリーダーに何より必要なのは、マインドセットを変えることです。そのとき、土光さんや樋口さん、浅野氏のような往年の名経営者たちのメンタリティを知ることは大きな学びになります。
よく『日本人は農耕民族だから』『日本人はハングリーさに欠けるから』といった理由で、『だから欧米やアジアの企業に勝てない』と言う人がいますが、とんでもない。かつては日本にも数多くの優れたリーダーが存在したのです。それを伝える書籍や記録もたくさん残されていますから、ぜひ大先輩たちの言葉に触れてほしいと思います」
徳重 徹(とくしげ・とおる)Terra Motors[株]代表取締役社長
1970年、山口県生まれ。九州大学工学部卒業。住友海上火災保険[株](当時)にて商品企画や経営企画に従事した後、退社。自費留学でアメリカのサンダーバード国際経営大学院にてMBAを取得後、シリコンバレーでベンチャー企業の投資・ハンズオン支援を行なう。2010年、TerraMotors[株]設立。著書に、『「メイド・イン・ジャパン」逆襲の戦略』(PHP研究所)など。(取材・構成:塚田有香 写真撮影:長谷川博一)(『
The 21 online
』2016年04月16日公開)
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