出産,妊娠,出産一時金,妊婦健診,助成金
(写真=PIXTA)

現在の日本が抱える問題の中で、とりわけ女性に関係があるのは、やはり少子化問題。筆者が出産を経験してからわずか10数年ですが、「婚活」「妊活」「マタハラ」「海外出産」などは、当時はあまり耳にすることのなかった言葉です。

日ごろのライフプランニングにおいて、20~30代の夫婦が最も重視するのが「子どもにかかるお金」であることは、同じく子育て中の筆者も十分実感しているところ。子どもにかかる費用といえば「進学費用」などに目がいきがちですが、それは、妊娠、出産を経てからのこと。今回は、妊娠から出産にかかるお金のお話をしましょう。

妊婦健診の助成充実、負担の少ない日本

妊娠を自治体に届け出ると、母子手帳とともに妊婦健康診査(以下、妊婦健診)受診票(助成券)が交付されます。妊婦健診の助成金は、1人当たり12万円が「地方交付税」として国から各自治体へ支給されています。2007年にそれまで2回だった健診費用の助成が5回に増え、 現在では「妊婦の健康管理の充実及び経済的負担の軽減を図るため」、推奨健診回数の14回程度まで公費負担で受けられるようになってきました。

ただし、この助成額は自治体によって差があります。厚生労働省が2015年に発表した調査によると、妊婦1人当たりの助成額は全国平均で約9万9000円。自治体によっては最大約8万円の開きがありました。この助成金は地方交付税として国から各自治体に支給されるもので、お金の使い道は各自治体に委ねられているためです。

ちなみに、筆者が在住している大阪府某市では、14回分の助成で合計11万6840円でした。初期~23週は1カ月に1回、24~35週は2週間に1回、36週から出産までは毎週医療機関での検診が推奨されています。

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妊婦健診では、内診など通常の診査以外に、梅毒や風疹ウイルス抗体などを調べる血液検査のほか、子宮頸がん(しきゅうけいがん)検診やクラミジア検査が多くの自治体で実施されています。また、おなかの赤ちゃんの様子を画像で見られる超音波検査(エコー検査)も、妊婦健診の一つです。

妊婦健診の費用は、通常の診査に加えて検査費用を考慮すると、1回につき約5000円~1万円ほどかかります。自治体からの助成額を超える分は、当然ながら全額自己負担です。妊娠は「病気」ではないため、健康保険の適応外となるのです。

アメリカでは妊婦健診費用が30万超?

他国と比べて私たち日本人には、病院の診療には高額なお金がかかるという感覚が薄いかもしれません。日本は国民皆保険制度によって健康保険の加入が義務付けられています。そして、この健康保険のおかげで、診察費や薬代が3割ほどの負担金で済んでいることはご存じでしょう。しかし、それが当然であるような認識でいると、妊娠は「病気」でないという当然の理由であるにもかかわらず、妊娠に関わる費用を「高い」と感じてしまうのかもしれません。

医療費の高さで知られているアメリカを例に挙げてみましょう。アメリカは健康保険の加入義務がなく、個人がそれぞれの自由意志で民間の保険会社と契約をします。妊娠や出産についても同様で、州や病院よって差はあるものの、妊婦健診に合計3000ドル~4000ドル(30万~40万円)かかることも珍しくないようです。

妊娠から出産までにかかる費用は人それぞれ

日本において、逆子や妊娠中毒症など 母子に異常が見つかれば、健康保険の適応となり、保険から補填(ほてん)されます。同じ時期に妊娠しても、かかる費用は人によって大きく異なる場合もあるのです。それはアメリカでも同じこと。加入している保険によって保障内容に差があるため、出産までの費用の格差は日本以上に大きいようです。

筆者も妊娠後期に、「胎児の体重が出産までに著しく足りない」との理由で約2週間入院しました。当時はファイナンシャルプランナー(FP)になる前で、病院の領収書を詳しく見ることもなかったのですが、この入院も実は健康保険の対象でした。

「出産」にお金は必要か?

さて、いよいよ出産を迎えます。日本における出産時の助成といえば「出産育児一時金」です。健康保険への加入と、妊娠85日以上を経過した出産(死産・流産含む)という要件を満たしていれば、申請するともらうことができます。

一時金の額は1児につき最大42万円 、双子なら最大84万円ということになります。2011年4月からは、一時金を医療機関が直接受け取る「直接支払制度」が始まり、出産前に病院で申請をしておけば、多くの場合、出産一時金との差額分のみ退院時に支払えばよくなりました。

それまでは、一旦自分たちで出産にかかった費用を用意して退院時に精算し、その後、一時金を受け取るという仕組みであったため、一時的とはいえ、まとまった金額が必要だったのです。現在の日本では、出産時にかかる経済的負担の心配は少なくなり、費用が42万円以下で済んだ場合、差額が後日支給されます。以前に比べて出産に臨みやすい環境になったといっていいでしょう。

日本は本当に子どもを産みにくい?

ここで再度、アメリカの出産事例を見てみましょう。日本との文化の違いもあるのか、入院期間が非常に短く、出産翌日の退院が主流だといいます。帝王切開など、手術が必要な場合でも4日ほどで退院するのが一般的。また、訴訟国家であるためか、赤ちゃんの命の危険を避けるとして医師が帝王切開を選択する確率も非常に高いそうです。

分娩は無痛分娩が主流なので、麻酔の費用も発生します。日本と比べて入院期間が非常に短いのにもかかわらず、出産費用はおよそ100万円。日本とは大きな差がありますね。

「日本は子どもを産みにくい国」というイメージは、こと出産前後の費用負担に関しては当てはまらないといってもよさそうです。

佐々木 愛子
ファイナンシャルプランナー(AFP)、証券外務員二種、相続診断士。国内外の保険会社で8年以上営業を経験。リーマンショック後の超低金利時代に、リテール営業を中心に500世帯以上と契約を結ぶ。FPとして独立し、販売から相談業務へ移行。10代のうちから金融、経済について学ぶことの大切さを訴え活動中。 FP Cafe 登録FP。

(提供: DAILY ANDS

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