地域おこし,総務省,地方創生,クラウドファンディング
(画像=Webサイトより)

人口減少や高齢化に悩む地方自治体へ都市部の若者に一定期間、移住してもらう国の地域おこし協力隊事業で、任期を終えた隊員の起業を後押しする総務省のクラウドファンディング事業がスタートした。

ヤフー <4689> 、楽天 <4755> などポータルサイト運営事業者とも連携、ふるさと納税の枠組みで一般から起業資金を募る。

地域おこし協力隊に参加する若者は年々増えているが、任期満了後の定住者は全体の半数ほどにとどまっている。総務省は過疎地域で起業する若者を増やし、地域活性化につなげたい考えだ。

起業資金をふるさと納税の形で隊員へ寄付

総務省地域自立応援課によると、隊員への寄付はプロジェクトがある自治体へふるさと納税の形で行われ、寄付金の全額がそのプロジェクトに使用される。寄付した人はふるさと納税の仕組みに従い、確定申告することで寄付金控除を受けられる仕組み。

資金を募る事業は、公益性や地域が抱える課題解決に結びつくかなどを各自治体が判断して決める。総務省はクラウドファンディングで起業資金を募るポータルサイト「地域おこし協力隊クラウドファンディング」を立ち上げた。隊員のプロジェクト第1弾としては、愛媛県西予市、岡山県真庭市、高知県越知町の3自治体のケースが掲載されている。

西予市では、隊員の藤川朋宏さんが重要伝統的建造物保存地区にある喫茶店をおしゃれなカフェバーとして復活させるプロジェクトを掲げた。越知町では3月で協力隊員の任期を終えた金原隆生さんが仁淀川の清流を目指してやってくる観光客向けに古民家を改修してゲストハウスを計画。ともに300万円を募っている。

真庭市では、隊員で韓国ソウル出身のカン・ユンスさんが、さまざまな国からやってきた外国人の若者が共同生活しながら、地域の農家や商店の仕事を手伝うインターナショナル・シェアハウス構想を打ち出し、350万円を募集中だ。集まった費用は空き家の改修などに充てる。

ふるさと納税は寄付金の使途が不明確として問題視する声が出ていたが、クラウドファンディングの方式を採り入れることで使途を明確にし、寄付者の理解を得られやすくした。

今後、ヤフーや楽天などWeb上でふるさと納税を受け付けるサービスを展開している民間企業が、この仕組みを動かせるようシステム対応する。さらに、それぞれのポータルサイトで広報やPRも進める。

急増する協力隊員、県単位での募集も

地域おこし協力隊は、地方の活性化と若者の定住促進を目指して総務省が2009年度から始めた。都市部の若者が1〜3年の任期で地方に定住。外部の目で地域振興に向けて活動し、任期満了後に定住してもらうのを目的としている。1人当たり年間400万円を上限に給与と活動費が支払われる。

隊員数は2013年度978人、14年度1511人と右肩上がりで伸びてきた。15年度は全国673自治体で2625人が活動、2014年度に比べ受け入れ自治体で1.5倍、隊員数で1.7倍以上に増えている。

これ以外にも農水省の交付金を活用した地域おこし協力隊(旧田舎で働き隊)もおり、実数はもっと多い。さらに従来の市町村単位ではなく、香川県や徳島県など県単位で隊員を募集する地域も出てきた。

隊員の37.2%が女性で、76.1%を20歳代、30歳代の若い世代が占める。長崎県対馬市で害獣のイノシシやシカの肉をソーセージに加工、特産品として売り出し、徳島県三好市で廃校を芸術家の活動の場に改造した事業も、若者たちの柔軟な発想から生まれた。

ここ1〜2年は受け入れ自治体が増えてきたこともあり、若者争奪戦の様相も示してきた。島根県美郷町、津和野町のように30人近い隊員が活動しているところがある一方、隊員の確保に苦戦する自治体も出てきた。

兵庫県新温泉町は2014年度に2人を募集したものの、応募がなく、追加募集でやっと1人を確保した。2016年度の隊員は2015年夏から前倒しで募集し、何とか枠を埋めた状態だ。協力隊の情報サイトでも、同じ自治体が何度も募集を掲載しているほか、再募集も繰り返されている。

定着は全体の47%、就業先不足が原因

ところが、隊員数の急増にもかかわらず、隊員の定住は思うように進んでいない。総務省が2015年3月末までに任期を終えた全隊員の動向を追跡調査したところ、隊員を務めた自治体に定住している人は全体の47%に過ぎないことが分かった。

前回調査(2013年6月末現在)の48%を下回っている。近隣自治体に暮らす12%を加えても地域に定住した人は59%に過ぎない。

同一自治体内に定住した人のうち、就業が47%、就農が18%。起業は前回調査の9%から大幅に増えて17%となり、株式会社だけでなく、NPO法人や経営コンサルタント、農業法人も設立している。

総務省は定住が進まない理由として、就業先が乏しいことも原因の1つと考えている。そこで目をつけたのが起業だ。しかし、若者が起業するとなると、どうしても資金の調達が障害になる。それを解決するために考え出したのが、クラウドファンディングというわけだ。

総務省地域自立応援課は「隊員には活動後、地域に定着して起業してほしい。それを社会全体で応援するため、クラウドファンディングを活用していきたい」と意気込みを語った。

高田泰 政治ジャーナリスト この筆者の記事一覧
関西学院大卒。地方新聞社で文化部、社会部、政経部記者を歴任したあと、編集委員として年間企画記事、子供新聞などを担当。2015年に独立し、フリージャーナリストとしてウェブニュースサイトなどで執筆中。マンション管理士としても活動している。