BOSS, ママ, ダブルワーク
インタビューに答える「ボス」(写真=DAILY ANDS)

昼は大手保険会社の管理職、そして夜はスナックのママとして働く女性、通称「ボス」に人生観をお聞きするインタビューの後編。※前編は こちら

会社勤めから20代で水商売の世界に飛び込み、その後、30代でもう一度一般企業勤めとなった「ボス」は、保険会社で順調にキャリアアップします。ところが35歳で管理職になったとき、トップダウンの方針に周囲がついてゆけず、自身から人が離れていったことがあるといいます。そのとき、「ボス」が取り組んだ「変わる努力」とは?

部下と同じ目線に立たないと、組織を良くすることはできない

――35歳で管理職になったとき、人が離れていった経験があり「変わる努力」をしたということですが、どんなことをしたんですか?

部下と同じ目線に立たない自分が、その人を引き上げること、ひいては組織を良くすることなんてできない、と実感して……なんて言ったら、カッコつけすぎかしら(笑)。

でもね、20代の人には20代の、子持ちの人には子持ちの人の目線があるわけじゃないですか。それぞれの目線を知るために、部下の価値観や境遇についてたくさん聞いたり、話したりするようにしたの。そうしたら、徐々にみんな、付いてきてくれるようになりましたね。

「いろんな人を知っている」ことが自分の武器になる

――他に、人との関わりを大切にする理由はありますか?

20代、30代はある程度、若さや美貌が武器になります。でも50代、60代になったらそうはいきません。おばちゃんですからね(笑)。その代わり、「いろんな人を知っている」ことが自分の武器になる。ひと言で表現すると「不得意なことをカバーできる力」が身につくんです。

BOSS, ママ, ダブルワーク
人生観や仕事観を語る「ボス」(写真=DAILY ANDS)

例えば、私はアナログ世代なので、インターネットやスマホの扱いには詳しくありません。でも、若い知り合いがたくさんいて、得意な人にお願いすれば、私にとって難しい設定をしてくれたり、教えてくれたりするじゃないですか。仕事であれば、得意な人にそれを任せることもできます。

何でも自分でやるんじゃなくて、困ったときは誰かにお願いできれば、それで十分足りますよね。だから、いろんな人と出会ってきたことが、私にとっては大きな財産なんです。

疲れたときは思い切って休む

――なるほど。ただ、それだけ人との関わりを大事にしていると、精神的に疲れることはありませんか?

そりゃもう、ありますよ。本当のことを言うと、一人が好きなんです。こんなに人と関わる仕事をしているくせに。「普段は大人しいんだ」と言っても、誰も信じてくれないんですけどね(笑)。

――確かに、信じられないです!(笑)

休日はスポーツクラブで黙々と走ったり、一人でサウナに入ったり。飲み会でも、みんながお喋りする横で、ポツンとお酒を飲むのが好き。

だって、どんなに人が好きでも、毎日数十人と話していると、やっぱりエネルギーを消費しちゃうじゃない。だから、一人でいる時間を作ることで、自分のバランスを保っているのかもしれません。

――「ボス」の人間らしい部分に、ちょっとキュンとしました(笑)。ストレス発散のための趣味などはありますか?

基本的にストレスは溜め込まないタイプです。でも、結局は仕事が趣味なんだと思います。仕事をしていないと、病気になっちゃいそうな気がするし。

もちろん、仕事が嫌になるときもあります。でも、嫌になったときは、思い切って3日間くらい休むことにしています。本当に休んで、何もしない。そうすると、3日で限界が来て、仕事がしたくなっちゃう。

休んでいる間に、頭の中がクリアになって、自分の中にエネルギーが満ちてくる感覚です。「あそこに営業の電話をしなきゃ」とか、「今度はこんなアイディアはどうだろう」とか。そうやって切り替えることで、今まで嫌なことも乗り越えてきました。

「陰口を叩かれるうちが華」

――「ボス」って、嫌いな人はいるんでしょうか?

えっ、どうして(笑)?

――なんというか、人を嫌いそうにないと思って。

嫌いというか、苦手な人はいるわよ。私のことを嫌いな人も、だいたいわかっちゃうから。ただ、どんな相手でも、自分から好きになろうと努力をしています。

私は女性から嫌われることが多いのよ。ヤキモチを妬かれて。そういう相手には、あえてプレゼントをしたりおごったりして、積極的に距離を縮めるようにしているかな。

男性からもありますけどね(笑)。女性がいる職場だと、年上の女性からイジメられたり陰口を叩かれたりすることもあるじゃない?

――そのような女性のコミュニティ特有の問題には、どのように対処されていたんですか?

「陰口を叩かれるうちが華だ」「私っていい女だな」と思うようにしていました。だって、嫉妬してもらえているんだから。

捉え方によっては陰口にもなってしまうことも、「私もまだまだ通用するんだ」と思えばうれしいでしょう? そういう風に冷やかしてもらえなくなったら、それこそ終わりなんじゃないかな、と。

女性が長く仕事を続けるために、必要なこと

――「ボス」は、家庭と仕事の両立を考えたことはありましたか?

結婚したいと思ったことも、何度かありました。でも、結婚しようと思った人がガンで亡くなってしまって。それ以降はあまり考えていませんね。

――そうだったんですね……。もしこれから結婚をするとしたら、どんな方がいいですか?

私の仕事欲を理解してくれる人がいいかな。同僚や取引先の男性と飲みに行って、仕事の話をすると、引かれてしまうことがよくあるので。

男性は「仕事の話ばっかりでつまらない」と思うかもしれないけど、バリバリ仕事をしている女性は、仕事欲も理解してくれて、仕事の相談ができるパートナーのような存在が欲しいんじゃないかしら。

――パートナー選び以外で、女性が長く仕事を続けるには何が必要だと思いますか?

常に恋をしていないとダメだと思います。恋をしていないと、女の人ってすぐに「女」じゃなくなっちゃうから。

好きな男の人がいなくなると、口紅が剥がれようが、眉が整ってなかろうが、どうでもよくならない? この諦めが、仕事にも影響してしまうと思う。

――確かに、異性の目を意識する方が、背筋がピンと伸びる気がします。

そうよね。例えば、好きな男の人がいると、ファンデーションの塗り方から変わってくる。トキメキがあるだけで日常が彩られて、お仕事も頑張れるの。

――仕事を続けられているのは、そのトキメキのおかげでしょうか……?

おそらくは(笑)。だって私も仕事がなければ、一日中ダラーっとしていたいから。

別に本気で恋愛をしたいと思っているわけではないわよ。ただ、これは男女問わず、いくつになっても素敵な人は素敵よね。そういう気持ちを忘れないでいたいです。

50でも60でも「諦めなければなんでもできる」と伝えたい

――不躾な質問ですが、仕事を辞めたい……と思ったことはありませんか?

実は、スナックを誰かに任せて、自分は経営に徹しようと思ったこともありました。でも、性に合わなかったのよね。

やっぱり、自分で切り開いていきたかった。若い子が接客した方がいいかもしれないけど、結局、私もお店に出てしまいました。「おばちゃんと話したい」と言ってくれるお客様もいてくれるから!(笑)

――たしかに、「ボス」と話したいと思う方の気持ちはわかる気がします。

私と話すと元気になるでしょ(笑)。そんな風に、一緒に働いているスタッフたちやお客様に元気を与えたいんです。こうやって、私が働いている姿を見せることで、50でも60でも、諦めなければ何でもできるとみんなに知ってほしい。

若い子たちによく言うんですよ。「可能性は誰にでも満ちていて、それはみんな一緒なんだから、自分がまず動かなきゃダメなんだよ」って。そして「止まっていたら何も生まれないから、常に動いていなさい」と。偉そうに言うなら、この言葉を自分自身が体現していかないと、ね。

――私も心掛けます。最後に、「ボス」には今、夢や目標はありますか? あればぜひ、お聞きしたいのですが。

2年後に60歳を迎えるんです。さすがにもうダブルワークはキツい年齢ですよね。だから、その前に保険の仕事を辞めて、この「BOSS」を手始めに、いくつかの飲み屋をやりたいの。

お金や老後のためではなく、「BOSSのママの顔を見られてよかった」と言ってくれる人のために続けていきたいです。

――ありがとうございました。

BOSS, ママ, ダブルワーク
「ボス」が経営するスナック『BOSS』の入り口(写真=DAILY ANDS)

なかがみさえ+ノオト
下町育ちのライター。大学では社会学を専攻。現在編集プロダクションで修行中。趣味は動画制作と町歩き。お金は食費とマンガに消える。

(提供: DAILY ANDS

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