厚生労働省千葉労働局は5月19日、違法な時間外労働をさせていたとして、千葉市の棚卸し業務代行会社エイジス <4659> を是正指導したと発表した。同省が2015年5月に設けた「違法な長時間労働を行う大企業への行政指導時に社名を公表する」という新基準に基づく初の事例となった。

今回の公表を機に、エイジスや違法残業を繰り返している企業が改善することを、心理カウンセラーとして強く望む。

とはいえ、それだけの仕事があるから残業せねばならない以上、残業を急激に減らせば業務に支障をきたし兼ねない。そこで、「残業と心身の健康の両立」のためにはどうすべきか提案する。

残業が心身に与える影響

まずは残業が心身にどう影響を与えるかを見ていく。

睡眠不足とモチベーションの低下−−。残業続きで心身の健康を崩した方が皆、共通して抱える問題がこの2つだ。睡眠不足の問題は、単純な睡眠時間の減少=量の低下だけではない。「疲れているのに寝付けない」「何度も目が覚めてしまう」と言った質の低下も合わせて起きる。睡眠の量と質が低下することで、回復が追いつかなくなり、徐々に疲労が蓄積していく。作業効率が落ち、残業が増え、さらに疲れが溜まり……という負のスパイラルはこうして起きる。

また、残業は働く意欲も低下させる。内閣府の世論調査によると、働く目的について約半数が「お金を得るため」と回答している。そのお金は、安定した生活や家族友人との楽しい時間、趣味や自己啓発といった私生活の充実のためのものだが、残業が続けばそのための時間が持てない。こうして、働く目的が見えなくなり、意欲の低下が起きる。

長時間労働が「頑張れないカラダ」と「頑張りたくないココロ」を作ることは明らかだが、それでも必要な残業はあるだろう。そこで、部下に残業を課す際、守るべき3つのルールを提案する。

カラダとココロへの対処

1つ目は「休みの確保」。これは、主に頑張れないカラダへの対処が目的である。寝溜めは出来ないが、既に溜まった疲労には、やはり睡眠が一番効果的。週に一度でいい、時間を気にせずゆっくりと寝られる日を設けるべきだ。十分な睡眠は部下の健康だけでなく、作業効率低下の防止にもなる。また、1日であれば、ゆっくり寝ても生活リズムへの影響は出ない。

この時、休日をしっかりと休みに充てられるような配慮もあわせて行って欲しい。実際、カウンセリングで、「休日はあるが持ち帰って仕事しなければ追いつかない」と訴える方は多い。これでは、休日無しと変わらない。休み明けにプレゼンや締切が来ないようにするなどして、心身ともに仕事から解放される日を作る。これが大きなポイントとなる。

次に提案するのが「期間の設定」である。学生時代を思い出して欲しい。受験勉強や卒論作成といった長く続くストレスも、ゴールがあるからこそ頑張れた、そんな経験の一つふたつは誰にでもあるだろう。終わった後の旅行や遊びの予定が、日々の課題へ取り組むモチベーションとなっていたはずだ。

仕事も同様である。期間を決めることでプライベートの予定を立てられるようになり、心の健康の維持につながる。繁忙期と閑散期が明確な場合はもちろん、そうでなくても仕事の見通しを立て、メリハリを持たせることが重要である。年間通じて、いつ残業になるかわからない状態は、それだけで大きなストレスとなる。

たった一言の重要性

3つ目のルールはとてもシンプルで、今日からすぐにできるものだ。残業をしている部下への「ありがとう」である。

人は誰でも心の奥では自分を「価値ある重要な存在」と認めて欲しい、大事にして欲しいという気持ちを持っている。これを承認欲求と呼ぶのだが、これが満たされないと不安や緊張が高まり、ストレスが増す。その環境への帰属意識も低下する。

反対に承認欲求が満たされると、自分は組織にとってかけがえのない存在だと感じ、自己重要感が高まる。加えて帰属意識も高まり、「辛いけど、良くしてくれる上司のために頑張るか」という気にもなる。

この承認欲求を満たす簡単な方法が、「ありがとう」である。おはようやご苦労様といった挨拶とともにこの言葉を伝える。1人ひとり目を見て、しっかり心を込めて伝えるとさらに効果的。仕事は成果が大事だが、日々の働きぶりを労われて悪い気のする人間はいない。ありがとうは、相手の心と体に、もうひと頑張りする力を与える魔法の言葉。そう思って、今日から惜しまず使ってみることを強く勧める。

残業と心身の健康の両立のための3つのルールを提案したが、あくまでも「長時間労働がどうしても必要なら」というのが大前提である。

可能なら、残業など無いほうが良い。まずは業務の効率化や人員増加など、長時間労働の解消を改めて検討し、3つのルールなど意識しないで済む環境を作って欲しい。

藤田大介 DF心理相談所 代表心理カウンセラー この筆者の記事一覧