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(画像=Webサイトより)

過疎地の足として一般の運転手が客を有料で同乗させる「ささえ合い交通」が、京都府京丹後市でスタートした。地元のNPO法人「気張る!ふるさと丹後町」(村上正宏理事長)が市の補助金を得て始めた事業で、スマートフォンなどのアプリで車を呼ぶためのシステムをライドシェア世界大手の米ウーバー・テクノロジーズ(Uber)日本法人が提供した。

過疎地は人口減少と高齢化が進む中、公共交通が弱体化している。京丹後市の「ささえ合い交通」は過疎地の交通弱者を救えるのだろうか。

市民ドライバーが自家用車で目的地まで送迎

「ささえ合い交通」は市民18人の自家用車を使う。利用者が市民ドライバーにアプリで乗車を頼むと、車が迎えに来て目的地まで送ってくれる仕組みだ。運行は午前8時から午後8時までで、年中無休。乗車できる地域は京丹後市丹後町、降車できる地域は京丹後市内に限定される。地域の住民だけでなく、観光客も利用できる。

利用はUberのアプリをダウンロードし、登録すれば良い。運賃は最初の1.5キロまでが480円と、路線バスより高いが、タクシーより安い。初乗り運賃以後は1キロ当たり120円が必要になる。

初日は20人を超す利用者があり、おおむね好評だった。試乗した報道関係者の1人は「運転ぶりは危なげなかった」と評価した。同NPO法人も「決済用のクレジットカードなど高齢者に慣れてもらう部分はあるが、時が経てば浸透するのでないか」という。

国内では自家用車で乗客を有償運送することが「白タク」として原則禁止されているが、過疎地など公共交通機関の空白地帯は特例として認められている。「ささえ合い交通」はこの制度に従い、過疎地の交通弱者対策としてスタートさせたわけだ。

このため、Uberは配車と決済のアプリを提供するだけにとどまった。乗降車場所が制限され、運転手や車両も国土交通省に登録しなければならない。日々の運行実績を市に報告することも求められている。

いわばがんじがらめの法規制に合わせてサービスを作ったため、Uberが欧米で実施する自由なライドシェアサービスとはかなり異なる形となった。

タクシー事業者の撤退で公共交通空白地に

京丹後市は日本海に面した京都府の最北端にあり、峰山町、大宮町など6町が合併して2004年に誕生した。人口は約5万7000人。天女の羽衣伝説や丹後ちりめんの産地として知られるが、人口は1970年から一貫して減少している。

丹後町は市内の最北部にあり、人口約5500人。そのうちのざっと4割を65歳以上の高齢者が占めている。「間人(たいざ)ガニ」と呼ばれるズワイガニの産地だが、過疎と高齢化の進行が深刻さを増している。

もともと公共交通の発達した地域ではなかったが、2008年にタクシー事業者が撤退した。このため、2014年から小型の市営デマンドバスが運行しているものの、利用には事前の予約が必要なうえ、乗車できる曜日や地域も限定されている。住民の間からはもっと利用しやすい新たな交通手段を求める声が上がっていた。

さらに、市は訪日外国人観光客の誘致に力を入れているが、現在の公共交通は外国語やクレジットカードによる支払いに対応できていない。そこで45言語に対応し、クレジットカード決済機能を持つUberのアプリに白羽の矢が立った。

Uber日本法人の高橋正巳社長は記者会見で「公共交通の補完的な役割を果たしたい」と述べた。京丹後市企画政策課は「何としても過疎地の住民の足を確保したかった」と狙いを語っている。

過疎地の新交通手段確保が自治体の急務

しかし、Uberのライドシェアに対しては、日本の規制が厳しい。Uberは世界70の国と地域で自家用車の配車事業を展開しているが、国内での事業展開は東京都心部でのハイヤー、タクシー配車に限定されてきた。

2015年2月に福岡県で実施された配車実験は、運転手への報酬に違法の恐れがあるとして国交省から行政指導を受け、中止された。今年2月には富山県南砺市と無償の実証実験計画を合同発表したものの、市議会などから批判が出て、市が予算を取り下げる騒ぎに発展している。

タクシー業界を中心に反対の声も根強い。全国ハイヤー・タクシー連合会は「京丹後のケースは別にして、白タク行為は容認できない。事故時の対応や安全性には疑問を感じる」と警戒感を隠さない。Uberに出資したトヨタ自動車 <7203> も規制などの状況を考慮し、国内を協力の対象外としている。

シェアリングエコノミー企業は利用者間のマッチングに徹することが多く、サービスの質や安全性を担保する仕組みが既存業界より弱い。こうした点は急ぎ改善しなければならないだろう。

ただ、過疎地の人口減少は今後も進み、高齢化の進行とともに交通難民がさらに増えると予想されている。それぞれの地域事情に合う効率的な新しい交通手段の確保は待ったなしの課題だ。新たな交通手段としてライドシェアに対する自治体の関心は高まっている。

全国では自家用車による搬送以外にも、乗り合いタクシーの運行、住民団体によるバス運行などさまざまな移動手段が模索されている。それぞれの地域に合った過疎地の足は何なのか、各自治体は真剣に考える時期に来ているのではないだろうか。

高田泰 政治ジャーナリスト この筆者の記事一覧
関西学院大卒。地方新聞社で文化部、社会部、政経部記者を歴任したあと、編集委員として年間企画記事、子供新聞などを担当。2015年に独立し、フリージャーナリストとしてウェブニュースサイトなどで執筆中。マンション管理士としても活動している。