今、ちまたでVR(Virtual Reality:仮想現実)やAR(Augmented Reality:拡張現実)が注目されている。英国の投資銀行Digi-Capitalによる予測では、2016年の世界の市場規模は約50億ドル。2020年には1500億ドル規模まで拡大するとされており、注目度も非常に高い。どこもかしこも、猫も杓子もVR/ARだ。

VRは簡単に説明するとコンピュータが作った仮想現実世界の中に、利用者である私たちが入り込んで、さまざまな体験をするもの。ARは情報表示用のディスプレイなどを通して現実世界に情報を重ねて表示するものだ。

VRは映画「マトリックス」、ARはドラゴンボールの「スカウター」

まずはVRを分かり易く解説しよう。映画の「マトリックス」を想像してもらえれば、わかりやすいだろう。

「マトリックス」の作中では、主人公・ネオは、仮想現実に住んでおり、本当の“現実”は全く異なるものだったという世界観だ。もともとネオ自分自身が住んでいると思っていた日常世界はすべて、コンピュータが作っていたという設定だ。

他方で、ARは例えばGoogleが開発している「Google Glass」のように、特殊な情報端末を通すことで、現実世界の追加的な情報を表示するものだ。例えば、鳥山明氏の大人気マンガである「ドラゴンボール」に登場する、スイッチ一つで覗き込んだ相手の「戦闘力」を表示してくれる「スカウター」のだといえるだろう。

VR/ARが注目される理由とは?

では、VR/ARはなぜ今、こんなにも注目を集めいるのか。考えられる理由をいくつか挙げよう。

一つは「ゲームや映像市場で幅広い利用が見込める」からだろう。言うまでもなくゲームや映像市場はVR/ARによって、より臨場感と迫力のある魅力的な作品が多く出てくるだろう。VRを駆使した作品を見ている最中に、関連する情報を素早く調べて画面に表示するなどの使い方も出来るとみられ、用途の広がりにもまだまだ余地がある。

また「地理的・時間的な制約がなくなり、いつでもどこでも臨場感のある仮想体験ができる」という魅力もあるかもしれない。実現すれば、わざわざデパートに買い物に行く必要がなくなり、家に居ながらにしてVRを生かして、まるでデパートにいるかのように買い物出来るようになるかもしれない。もちろん、そうなれば営業時間など関係なくなる。

三つめには「不動産販売を劇的に変えてしまうかもしれない」という理由も挙がってくる。家を建てる前にVRで実際に建ったあとの様子を見られるとしたらどうだろう。また、実際に建てる場所に行かなくても、VRでその場所にあたかも居るように体験出来るとしたらこれは素晴らしいことである。

ほかにも例えば、犯罪現場ではあらかじめ現場をレーザースキャナや高解像度カメラでスキャンしておき、その情報を保存し、VR技術を使って仮想空間化する。作られたVRによる現場は時間がたっても荒らされたりしないので、あたかも事件発生後すぐの現場にいるかのような現場検証を繰り返し行うことが出来るという。

映画・ドラマ化された「チーム・バチスタの栄光」などのヒット小説を出し、海堂尊氏の医療小説の『田口・白鳥シリーズ』犯行現場をCGで再現して、捜査を進める手法が登場。そんな応用例も注目を集めている。

三菱地所のVR内覧装置で住宅展示場はもういらない?

さらにVR/ARの注目度を高める理由の一つでもある不動産での活用例を具体的にみてみよう。「建つ前にあたかも出来上がった家の中にいるかのように中を見られる」「もうわざわざ遠方の不動産物件を見に行く必要がない」そんな、VRの効果が現れるかもしれないのだ。

具体的には、三菱地所 <8802> のギャラリーで導入しているVRを活用した営業ツールがその象徴例だ。もしもどこでも使えるようになrば、顧客に住宅展示場まで足を運んでもらったり、紙などの模型を使って建物の説明をしていたりという従来の不動産販売からの大変革を起こすかもしれないのだ。

三菱地所のVRを活用した「VR内覧」は、私たち顧客と販売側の両方にメリットがある。顧客側としては、実物がなくても、その住宅があるかのように想像を膨らませられる上に、建築前でも出来上がった物件であるかのように確認できるなど、利便性が向上する。

逆に、販売側からしても、買うかどうかわからない顧客を現地まで案内しなくてよくなり、現地説明会も開かなくてよくなるなど、営業の手間やコストを大幅に減らせるかもしれないのだ。

もしも、VRで住宅展示場で実際に内覧したかのような体験を得られるのであれば、「もはや従来型のモデル住宅が展示されている住宅展示場というのは必要ないのでは」との想像も働きかねない。まさにこのVRを使えば、住宅展示場は必要ない。必要なのはVRシステムを使って歩き回れる若干のスペースだけなのだ。

「住宅VR」のポテンシャルは建築にも

従来から不動産販売ではブロックなどを使って実際に建てる住宅の間取りや家具の配置を販売員と顧客とが決める方法があった。最近は、これにもVRを取り入れる試みが始まっている。

部屋の間取りや家具に見立てたレゴブロックを置いて作った室内。Oculusの開発したヘッドマウントディスプレイOculus Riftを使って、あたかも現実の家の中を歩き回るかのように見られる「GRID VRICK」は、不動産サイト「HOME’S」を運営するネクスト <2120> が紹介しているサービスだ。

これは従来からのブロックを使った間取り案内にVRを組み合わせたもので、ブロックの間取りを変えるとVRで作った仮想建築の間取りも変わる。そして仮想空間の中の家はまるで実際の家にいるかのようにリアルだ。これによって顧客は、自分が求める家をよりはっきりとイメージしながら決めていけるのである。

従来からの方法と新しい技術であるVRを融合した画期的なサービスである。VRの活用によるサービスは、住宅販売にも新たな顧客の開拓など良い影響をもたらすことは間違いない。今後どのような革新的なビジネスがさらに登場するのか、楽しみだ。(ZUU online 編集部)