最近、続編が放映されている「フルハウス」、主人公のタナー家が住むサンフランシスコは全米屈指の不動産価格が上昇している地域だ。ここ10年間で見ても、2倍近く不動産価格は上昇し、彼らの自宅も今や5億円弱の資産価値があるという。この不動産価格上昇の理由の一つがシリコンバレーだ。なぜこのエリアが値上がり続けるのか、自治体間衝突も起こる、その理由と今後を見ていこう。

シリコンバレーが持つ魅力 人・金・チャンス……

不動産価格の上昇は、需要に供給が追いつかないことが原因だが、そこには大きく2つの背景がある。

1つは、GoogleやAppleなどの成長を続ける優良企業が多く、そこに人が集まってくることだ。ベンチャーとしてスタートし、世界的に有名になった企業が多く、その雇用条件や待遇に人気が集まっている。社員の送迎バスがあるGoogleの待遇の良さは有名だが、他にも会社にフィットネス施設がある企業もある。

昔からシリコンバレーには、人・金・チャンス、そしてメディアの注目が集まるため、ベンチャー企業やニュービジネスが生まれやすい素地がある。シリコンバレーで実績を出せば、既存・新規ベンチャー企業の別を問わず、その後のキャリアアップやヘッドハント、起業などのチャンスにも恵まれる。新規ベンチャー企業で成功する一攫千金のチャンスもあるのだ。

もう1つは、スタンフォード大や有名校等のアカデミックな環境があり、国内外から優秀な人材が多数集まってくることだ。有名校では政府系や企業とのつながりもあり、在学中から優秀な学生には自分の力を発揮出来るチャンスがある。

シリコンバレーに集まる優秀な人たちは、自分の子供の教育に関しても熱心だ。高待遇の仕事とビジネスチャンス、セキュリティ、そして子供の教育等がそろった環境は申し分ないと言える。こうしてシリコンバレーが活気を見せ、住居を求め不動産需要が急速に高まっていくのだ。

住宅が増えない理由 シリコンバレーに住むのは夢のまた夢?

人が集まって、不動産の需要が供給を上回ると当然不動産価格は上昇する。どうしても必要な少ないも物を奪い合えば価格がつり上がるのが経済の原則である。この現象は日本でも同じだが、シリコンバレーの住宅需要は少し特殊だ。

シリコンバレーの企業は急成長する傾向があるので、それに伴って雇用も拡大するが、住宅はその拡大スピードについていくことができない。

セキュリティや生活の利便性を考えると、人気のエリアはあっという間に品薄になってしまい、シリコンバレーやサンフランシスコでは住宅価格が高騰した。社員の住居と通勤の問題を解決すべくGoogleなどの企業は通勤バスを設置するに至った。

さらに供給が需要に追いつかない不動産市場の背景は、サンフランシスコ特有の理由が4つある。(1)新規に建築できる土地が限られていること、(2)サンフランシスコのゾーニング,、(3)既得権者の反対、(4)建築規制などである。その結果、建物の高層化や新規の供給が難しく、不動産が高騰することになっている。

実は、かつてのITバブルのときもシリコンバレーでは同様に住宅が不足して高騰したことがあった。当時も通勤可能なエリアで住居を探すのが大変な時期が続いていた。当時と比べると、シリコンバレー自体が大きく急成長した感がある。だが、その背景には以前に増して国外から、多くの優秀な人材がシリコンバレーに集まって来たこともあるだろう。

住宅事情は今後どうなる? 鍵はシリコンバレーのブーム

この急成長する新規需要と既存住人のニーズに対応すべく、サンフランシスコの再開発地域にコンドミニアム等の建築が動き出している。多くの制限もあるが、これら事業や交通網の整備に注目が集まる。

だが、前回のITバブルがはじけたとき、シリコンバレーでの不動産事情は一旦落ち着きを見せたことも事実だ。シリコンバレーの不動産市況はシリコンバレーの景気に大きく左右されるからだ。ブームはいつか終わりを告げる。現在のシリコンバレーではFinTech分野への投資が2010年ごろから盛んである。このFinTech投資ブームが落ち着くタイミングが、不動産事情が新たな局面に入るときだろう。

黒木陽斗(くろきはると)
投資家。米国大学卒後、一部上場大手企業を経て、シリコンバレーのベンチャー企業へ転職。ヘッドハントで6社以上の会社を渡り歩き、起業家など多くのビジネスエリートたちと接する中で、共通する考え方や習慣に気付く。それを不動産投資に応用して成功させる。現在は、一棟マンション、区分不動産、駐車場を複数所有するに至る。著書に『金持ちリタイア・貧乏リタイア〜社長より稼ぐサラリーマン大家の不動産投資術〜(ぱる出版)』、『シリコンバレーのビジネスエリートたちが実践する 使っても減らない5つのお金のルール(扶桑社)』がある。