笠置町
(写真=PIXTA)

2013年11月から2015年4月まで1年半にわたって出生ゼロが続いた京都府笠置町が、まちづくり会社の設立に向け、動き始めた。町内から出資を募り、観光客の誘致や商店街の再生、定住の促進を進める。

町の人口は2015年国勢調査速報値で1369人。府内で最も少なく、町としては全国でも最少クラス。65歳以上のお年寄りが全人口に占める割合を示す高齢化率も45%を超えている。町は現状を存亡の危機と受け止め、最後の希望をまちづくり会社に託す。

町も会社に出資、観光振興や商店街活性化目指す

まちづくり会社の設立は、3月に約6000万円の交付が決まった国の地方創生加速化交付金を得て進められる。4月から町関係者や町の住民が集まり、設立準備会が何度も開催されてきたが、6月末に会社設立に向けた最初の発起人会が開かれる。

準備会では当初、住民から「まちづくり会社の可能性にかけよう」、「今やらないと町が消滅する」などと前向きな声が出た一方、「赤字になるのではないか」、「活性化できるか確信を持てない」など懐疑的な声も聞かれた。

5月末の準備会で西村典夫町長が町の出資を明言したこともあり、住民の間で前向きな空気が高まってきたという。まだ詳細なスケジュールは明らかにされていないが、町企画観光課は町民からも出資を募り、秋ごろには本格的な事業をスタートさせたい考え。

観光振興と商店街の活性化を主な目標としている。笠置寺や桜の名所として知られ、観光産業が長く町を引っ張ってきたが、観光入込客数は2014年度で24万3000人と、5年前の32万2000人から減少を続けている。

JR笠置駅前の商店街も38店舗があるものの、営業しているのはほぼ半数。半ばシャッター通りの様相を呈しているだけに、空き店舗の活用は急ぎめどをつけなければならない課題だ。

人口はピーク時の4割、高齢化率も45%以上

笠置町は京都府東南部に位置し、面積の80%ほどを山林が占める。町の中央を流れる木津川沿いに集落が形成され、名勝の笠置山など豊かな自然と歴史資源に恵まれている。

1889年の市町村制施行以来、合併を経験しておらず、人口減少と高齢化が進んできた。2015年国勢調査人口はピーク時の(1947年の3344人)のざっと4割。5年前の前回調査と比べても15.81%減で、府内で最大の減少率を記録した。

若者や子育て世代は大阪市周辺や交通が便利な近隣の木津川市に流出している。大阪市の難波駅から笠置町を通って名古屋市への名古屋駅へ向かうJR関西本線は、笠置駅がある加茂-亀山駅間が電化されておらず、1時間に1、2本の運行。こうした交通の便の悪さが人口減少に拍車をかけている。

高齢化率は2月末現在で45.17%。ほぼ2人に1人が高齢者となる。これに伴い、買い物難民が増え、食料品の宅配や配食サービスに依存するお年寄りが少なくない。

年間の出生数はここ10年ほど、2~7人とひと桁で推移してきた。町内に唯一ある笠置小学校の児童数は2016年度、24人しかいない。10年前に80人以上いたのに比べ、3分の1以下に減少している。

人口減少と少子高齢化は住民税などの収入を減らし、社会保障費や福祉予算の増大をもたらした。町の財政は厳しさを増す一方で、財政の硬直度を表す経常収支比率は、2014年度で109.4%。70~80%が適正とされるのに、府内で唯一100を超えた。国や府の補助がなければ、事業がほとんどできない状況に追い込まれている。

民間の日本創成会議(座長・増田寛也元総務相)が2014年にまとめた人口推計によると、2040年の町人口は693人。出産適齢の20~39歳の女性人口はわずか27人で、2010年に比べ79.3%減になるとされた。行政サービスの維持が困難になる消滅可能性都市に入っている。

自治体生き残りへ最後のチャンス

町は平成の大合併で近隣自治体と合併を模索したものの、取り残されてしまった。このため、近隣の和束町、南山城村と相楽東部広域連合を設立し、2009年度から全国で初めてとなる教育委員会の共同運営を始めるなど、行政の効率化を進めてきた。

2013年からは町の魅力を見つけてもらい、町外に発信する「探られる里プロジェクト」をスタートさせた。町の魅力をまとめた約30ページの小冊子を発行、20年ほど前に転入した女性の思いを、写真を添えてつづっている。少しでも転入者や交流人口を増やそうと考えたからだ。

そんな中で起きたのが、1年半の出生数ゼロ。町政始まって以来の事態に町関係者や住民は困惑し、町内の危機感も一気に高まった。町は今年1月、商店街空き店舗の活用方法を募る「アイデアキャンプインカサギ」を開催するとともに、2月にまちづくり会社設立に向け動き始めた。

町企画観光課は「もはや自治体の力だけではどうにもならない。町を存亡の危機から救うため、住民と協力してまちづくり会社を設立し、生き残り策を模索していきたい」と力を込める。

全国的な人口減少が始まった今、町に残された時間はそれほど多くないだろう。手をこまねいていれば、消滅を迎える可能性も否定できない。ラストチャンスになるかもしれないこの機会を町と住民は生かすことができるのだろうか。

高田泰 政治ジャーナリスト このライターの記事一覧
関西学院大卒。地方新聞社で文化部、社会部、政経部記者を歴任したあと、編集委員として年間企画記事、子供新聞などを担当。2015年に独立し、フリージャーナリストとしてウェブニュースサイトなどで執筆中。マンション管理士としても活動している。