不動産投資は大手企業だけのものだけではない
個人の不動産投資と言えば、ワンルームマンションかアパート。数十億円のビルなんか大企業しか関係ない……。だがそんな常識も変わる時が来ているのかもしれない。2012年に設立されたロードスターキャピタル株式会社では、個人投資家の不動産市場参入に向けた新しい取り組みが進んでいる。少数精鋭の約20人の社員を率いる代表取締役社長・岩野達志氏に、その挑戦について伺った。(取材:綿抜幹夫)
起業のキーワードは「社会に役立つ」こと
岩野氏の不動産業界でのキャリアの第一歩は1996年。東京大学農学部を卒業し、新卒で「日本不動産研究所」に入社した時に始まる。当時はバブル崩壊後の、いわゆる「失われた10年」真っ只中。不動産市場の混乱はまだ収まらず、不動産の評価方法についても、土地と建物の値段の合計値で評価する「ガラパゴス的」な日本独自のやり方に変わって、諸外国と同じように収益性を重要視する方法が徐々に浸透し、不動産業界全体が変化している時だった。
「日本は優秀な人が大企業に残る傾向があるから、自分はそこからはみ出た方が向いているだろうなとは思っていました。サラリーマンとしてやっていくというイメージはあまりなかったですね」という岩野氏。日本最大規模の不動産の鑑定評価を行う法人に入ったのは、正確な価格を把握する力がすべての基礎であり、その技術を習得すればさまざまな不動産ビジネスにも展開することができると思ったからだという。
そうして4年間勤務した後、縁あって移ったゴールドマン・サックス・リアルティ・ジャパン、ロックポイントグループでは不動産の取得・運用を経験。3社で出会った志を同じくする仲間らと共に、2012年、独自の不動産会社・ロードスターキャピタル株式会社を設立した。
その志とは、「〝大手企業と金持ちだけのもの〟というイメージが強く、一般の人にあまりいい印象を持たれていない不動産投資業界に一石を投じる」ことだ。
「マンションやビルを作ることで町作りに貢献しているディベロッパーさんは少し別としても、大部分の不動産屋はほぼ〝自分たちで儲けて、自分たちで銀座で飲んで終わり〟で自己完結してしまっていて、我々は社会で何の役にも立っていないという感覚はずっと持っていました。不動産屋がどうしても社会的に見て地位が低いというか、尊敬されないような感じがする理由の一つもそこにあると思います。だから、何かしら個人に利益を還元できる仕組みができないか、と考えたわけです」というその思いはIT技術と掛け合わさり、一つのサービスとして具現化することになる。
クラウドファンディングを利用した新しいサービス
現在の同社の主力事業は大きく分けて4つある。まず収益の柱となっている、東京都内で自己投資した不動産の運用業務、それから外部向けのマーケット分析などのコンサルティング業務と投資家に代わって不動産の取得、管理、売却などを行うアセットマネジメント業務、そしてメンバーの志を反映し、同社が最も力を入れているクラウドファンディング(インターネットを通じて多数の人から資金を集める仕組み)を利用した個人投資家向けのサービス「OwnersBook」だ。
「OwnersBook」の仕組みは簡単に言うと、会員登録者はサイト上で同社が選んだ投資用不動産投資案件の概要を閲覧でき、その中から好きな物件に一口1万円単位から投資できるというもの。
投資された金額を基に、同社の100%子会社を通じて物件を担保とした貸付が行われ、投資家には平均年4~5%の利回りの配当がなされるという仕組みで、同じ物件に出資する会員同士が情報交換をするためのSNSなどのコミュニティ機能も備えている。出資者は直接不動産を所有するわけではないが、ごく少額から個人で不動産投資をする感覚で利用できるのが特徴だ。
投資先は、岩野氏らから見るとリスクが低いものの銀行のルールなどの関係で借り入れが難しい企業や、他事業で不動産を扱う中で十分な信頼関係を築いている企業などで、リスクが低いものを厳選。貸付によって得られた金利はほぼそのまま、出資した個人の利回りとして還元される。
ウェブサイトにもある通り、時には実質年利回り14%前後になる場合もあるが、それはあくまで例外的なもの。貸付後売却してもかまわないなどの特約付きで投資して不動産の売却益が多く出た場合など、利益が上がった分を投資家に分配した結果であり、ここでも貸付によって得た利益をほとんどそのまま個人投資家に還元している構図は変わらない。
つまり同社にとってはあまり儲からないわけだが、それでもこの事業に力を注ぐのは、「ここで儲けたいわけではなく、個人が不動産投資をするためのインフラを作りたいから」なのだという。