一夜にして世界の株式市場から3兆ドル(約330兆円)の価値が失われた。大どんでん返し、大番狂わせ……どのような言葉で言い表すのがいいのか悩むほど、大きな嵐となった英国のEU離脱の是非を問うた国民投票。マーケットは徐々に落ち着きを取り戻しつつあるものの、これは決して対岸の火事ではない。
若者と高齢者を二分した今回の事態。少子高齢化の進行で高齢者層(シルバー)の政治への影響力が増大する「シルバー民主主義」という言葉が騒がれた。18歳に選挙権を引き下げて初の総選挙を控える、日本でも起こりうる「シルバー民主主義」の懸念を紹介する。
「過去の栄光VS現実路線」 英国内の老若対立の構図
今回の英国の国民投票結果を簡単に振り返ろう。開票の結果は残留支持が48.1%、離脱支持が51.9%。離脱支持側の僅差での勝利だった。投票実施日が発表された2016年3月以来、激しい論戦が繰り広げられた。その結果、投票率は過去の総選挙と比べても、かなり高い72.2%となった。終盤になっても接戦が続いていたものの残留派有利が続いていた。それをひっくり返しての離脱派勝利となった。
この番狂わせの要因の一つとして挙げられるのは、英国内の老若対立の構図だ。「離脱」支持率を見ると、18~24歳層が20%、25~49歳層が34%と明らかな少数派である。対して、50~64歳層、65歳以上層はそれぞれ53%、57%と過半数を占めている。調査会社YouGovの6月初めの世論調査によって、明らかになったものだ。
このような明らかな年齢格差を生み出した背景は3つ。
第1に経済面。若者にとって「統合」は自由な選択と活躍の可能性を与えるものだ。一方、高齢層には変化から得られるものが実感できない。
第2に生活面。若者は国境を超えた人間関係の拡がりを活用できる。だが、多くの高齢者にとって、外国人や異文化との共存は負担感・不快感のもとになるだけなのだろう。
第3に、古き良き時代を知る高齢者に残る「世界に冠たる大英帝国」へのプライドとノスタルジー。
「EUの中の英国」で育った若者の声が、反EU感情の強い中高齢層に押し切られた形と言ってしまえば簡単だ。だが、そこにはもう一つ、「投票率格差」というメカニズムがある。2015年総選挙の際の投票率データをみると、18~24歳の43%、25~34歳の54%に対し、65歳以上は78%と参政意識が高い。今回の国民投票で、18~49歳の残留支持率の高い若年層の投票率が、50歳以上の中高年齢層並みだったとしたら、結果は違っていただろう。
欧州をはじめ世界経済は不透明性さを増した。海外のみならず、英国内ですらこの決定を悔やむ声が沸き上がり、「Regret(後悔)」と「exit(脱退)」を組み合わせた「Regrexit」なる新たな造語が生まれているほどだ。首相のみならず離脱派のリーダーまで辞任を表明、EU残留にこだわるスコットランドが独立を模索するなど「UK=連合王国」自体にも解体の危機が囁かれている。
政治システムに関わる教訓として無視できないのは、国民投票という政治手段を安易に濫用した結果だということだ。第1に、若者と高齢者の価値観対立を単純な白黒勝負に変えてしまった。 第2に、若者と高齢者の投票率格差から、驚くべき結果となった重大決定を導いてしまった。
「18歳選挙権」が初めて適用される国政選挙・第24回参院選を控えた日本は、英国以上のテンポで少子高齢化が進行中である。社会保障や税制などの是正を、世代間格差の上にある「民主主義」に問うのだ。