2016年前半のドル円相場はほぼ一貫して円高トレンドとなり、英国のEU離脱が伝わると一時1ドル=98円台まで急伸した。年後半も円高トレンドを継続するのか注目されるが、政治・経済の両面からその可能性は高いといえそうだ。

実質金利差の縮小が円高を示唆

まず、ファンダメンタルズで注目されるのが、日米の実質金利差である。ドル円の方向性と、日米実質金利差はおおむね一致して動く傾向にあり、その傾向は円高を示唆している。

たとえば、10年物国債利回りからインフレ率(消費者物価指数の前年同月比)を引くと、5月の米国実質金利は0.8%、日本の実質金利は0.3%となり、実質金利差(米国-日本)は0.5%になる。昨年12月の実質金利差は1.5%だったことから、今年に入り1.0%ポイントも実質金利差が縮小している。

実質金利差が縮小すると、相対的にドルの魅力が減少、円の魅力が増加することになり、円高を招きやすい。年初からの動きをみると、米国の実質金利が低下する一方で、日本の実質金利が上昇しているが、それぞれを「米国の名目金利の低下」と「日本のインフレ率の低下」が主導している。

既に米利上げは年内見送りが織り込まれており、米金利がさらに低下する余地は小さいと考えられるが、米インフレ率が上昇傾向にあることから、年後半も米実質金利は緩やかに低下する見通しだ。

一方、日本では円高が輸入物価の低下を通じてインフレ率を押し下げており、デフレの深化に歩調を合わせて実質金利が上昇している。日銀による追加緩和が期待されてはいるものの、マイナス金利の導入後にむしろ円高やデフレが加速しており、金融緩和も裏目にでている。年後半も日米の実質金利差は縮小傾向を維持する見込みだ。

購買力平価は適正レベルを示唆、円高余地は残されている

中長期的な水準の目安としては購買力平価(PPP)や実質実効レートが参考となる。IMF(国際通貨基金)によると、ドル円の購買力平価は2016年が103.3円、2017年は102.9円と推計されており、実勢レートはほぼ購買力に見合う水準に到達しているもようだ。

また、日銀が公表している実質実効レートをみると、5月は78.82と過去10年の平均値である88.07から10%ほど円が割安となっている。ただし、昨年6月からは既に16%上昇しており、6月に円が一段高となったことを考え合わせると、足もとでは長期的な平均値にかなり近づいているといえそうだ。

PPPや実質実効レートはあくまで目安であり、実際のところ、実勢レートがPPP近辺にあることはまれである。とはいえ、実勢レートのPPPからのかい離幅は20%程度にとどまることから、当面のドル円は80円から120円のどこかに納まるという程度のことはいえる。したがって、やや急速に円高が進んでいるものの、水準としては過度な円安が是正されたところであり、まだ行き過ぎた円高とは言い難い。円高の余地はまだ残されているようだ。